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進級しました
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半年が過ぎ、私たちは六年生、ロイクは二年生に進級した。この学校では余ほど成績が悪くない限りは進級できるが、毎年秋にはクラス替えが発表される。私とアーサーは並んで掲示板を見ていた。
「今年は僕たち、別々のクラスだね。休み時間に会いに行ってもいい?」
「いいよ」
嬉しそうにするアーサーの顔はすでに私と並んでいる。彼はこの半年で驚くほど背が伸びた。よく食べる子だなあと思っていたけどこんなに伸びるなんて。
対して私の身長はほとんど変わっていなかった。女の子の背は14か15で止まると聞くけど本当みたいだ。私は15歳になってしまったから、もうあまり伸びないかも知れない。
廊下でアーサーと別れ、自分の教室へ入る。女子数人の視線を感じてまたか、と思った。キス事件の後、ほとんどの女子はアーサーを諦めた様だが、それでもやっぱり彼の人気は健在だった。私の不人気ぶりも。
男女に分かれた授業のとき、男子の中でアーサーは一際目立っていた。彼は顔だけでなく体の細部に至るまで整っていて、まるで精巧に作られた生ける人形のようだった。まあ実際にはちゃんと人間なんだけど。
アーサーが乗馬の授業を受けようものなら柵の周りには人だかりが出来、誰もが彼にひと目見てもらおうと手を振った。だけどアーサーは誰のことも見ようとしなかった。
そんな訳で、私のところには「アーサーは休日には何をしているの?」とか、「彼は何が好きかしら」だの漠然とした質問を持った女生徒が来たりする。私はその度に、「遠乗りしてたわ」とか「彼は本を読むのが好きよ」なんて答えていた。
本当のところはとても言えない。まだまだうちの家は裕福とは言えないレベルなので、休日のアーサーは馬の世話や洗濯を手伝ったりしているなんて。でも読書が好きなのは本当だから許してほしい。
アーサーは休み時間になっても私の所へ来なかった。何かあったのかなと思いつつ、昼休みに隣の教室へ行くとアーサーは女子に囲まれて動けなくなっている。以前は体が小さかったから女子の隙間から抜け出せたんだろうけど、身長が伸びた今は隙間に入れないんだろう。
ドアの辺りに立っているとアーサーと目が合った。
「リヴィ!」
アーサーが叫んだ途端、女子の人垣が崩れ、彼が私のほうへやってくる。一斉に向けられた視線が怖かった。好奇の目と恨めしそうな目が混ざっていて。
アーサーが私の肩を抱いたりするので余計に目立つのだが、協力すると言った以上、やめてとは言いにくかった。家族は全員アーサーの味方で、家庭内のヒエラルキーの頂点も当然アーサーである。
彼は今や、父よりも権力を持っていた。もちろん実際に伯爵として動くのは父なので、アーサーは影の支配者のようなものだ。アーサーを怒らせたらリンゼイでは生きていけないのではないかとさえ思える。
「僕はまた、本当に君とお付き合いしているのかと聞かれたよ」
「そうなんだ? まあ進級したし、そろそろ気が変わる頃だと思うのかもね」
「付き合ってるのは本当だよ、と言っておいた。あと一年頑張ろうね」
「うん……」
私たちはとうとう最高学年になったから、来年の秋には卒業である。父はアーサーを王都にある騎士学校に入れたいと言っていたので、あと一年頑張ればこの役目からも解放されるはず。そこまでお金が用意できるのかは疑問だけど、アーサーの旅立ちを姉として見送ってやりたいと思っている。
アーサーは女子からの告白を避けるためか、廊下を歩く時には必ず私の肩や腰に手を添えるようになった。僕たち愛し合ってますアピールがどこまで効いているかは分からなかったけど、去年よりは告白が減ったよと言っていたから大多数の女子は諦めたんだろう。
でも中には自信に満ち溢れた人もいるのだった。私よりもずっと美人な子とか、お金持ちの家の子とか。
貧乏伯爵家のぱっとしない令嬢の私がどうこう言えるはずもなく、たまに呼び出されることもあった。場所はやはり使用頻度の低い階段の踊り場。木造の校舎は古く、壁の高いところに一つだけある窓から、細い光が差し込んでいる。
「アーサー君があなたを選んだのはただ単にいちばん近い女性だからよ。ものすごい美人でもなく、簡単に落とせそうで手頃だったから。勘違いしないことね」
「ハイ、大丈夫です。分かってます」
言いたい事を私にぶつけると、満足して去っていく。アーサーは誰から告白されても断るので、私に八つ当たりしたいんだろう。その気持ちは分かる。あと、私がアーサーに不釣合いだって事も。
そもそも私にとってアーサーは弟みたいなものなのだ。確かに背は高くなって来てるけど、一度弟だと思い込んだらなかなか男性として意識できない。アーサーが私以外の誰かを選んでくれたらいいのに。
「誰か好きな人はいないのか、アーサーに聞いてみようかな……」
ぼそっと呟いてから、いややっぱりそれはマズいかなと思ったり。
進級したばかりの頃、アーサーは私と付き合っている事を周囲の女生徒に何度も説明していたっけ。あれから三ヶ月たったけどどうだろう。心変わりしてないのかな。聞いてみるぐらいはいいかな……。
「今年は僕たち、別々のクラスだね。休み時間に会いに行ってもいい?」
「いいよ」
嬉しそうにするアーサーの顔はすでに私と並んでいる。彼はこの半年で驚くほど背が伸びた。よく食べる子だなあと思っていたけどこんなに伸びるなんて。
対して私の身長はほとんど変わっていなかった。女の子の背は14か15で止まると聞くけど本当みたいだ。私は15歳になってしまったから、もうあまり伸びないかも知れない。
廊下でアーサーと別れ、自分の教室へ入る。女子数人の視線を感じてまたか、と思った。キス事件の後、ほとんどの女子はアーサーを諦めた様だが、それでもやっぱり彼の人気は健在だった。私の不人気ぶりも。
男女に分かれた授業のとき、男子の中でアーサーは一際目立っていた。彼は顔だけでなく体の細部に至るまで整っていて、まるで精巧に作られた生ける人形のようだった。まあ実際にはちゃんと人間なんだけど。
アーサーが乗馬の授業を受けようものなら柵の周りには人だかりが出来、誰もが彼にひと目見てもらおうと手を振った。だけどアーサーは誰のことも見ようとしなかった。
そんな訳で、私のところには「アーサーは休日には何をしているの?」とか、「彼は何が好きかしら」だの漠然とした質問を持った女生徒が来たりする。私はその度に、「遠乗りしてたわ」とか「彼は本を読むのが好きよ」なんて答えていた。
本当のところはとても言えない。まだまだうちの家は裕福とは言えないレベルなので、休日のアーサーは馬の世話や洗濯を手伝ったりしているなんて。でも読書が好きなのは本当だから許してほしい。
アーサーは休み時間になっても私の所へ来なかった。何かあったのかなと思いつつ、昼休みに隣の教室へ行くとアーサーは女子に囲まれて動けなくなっている。以前は体が小さかったから女子の隙間から抜け出せたんだろうけど、身長が伸びた今は隙間に入れないんだろう。
ドアの辺りに立っているとアーサーと目が合った。
「リヴィ!」
アーサーが叫んだ途端、女子の人垣が崩れ、彼が私のほうへやってくる。一斉に向けられた視線が怖かった。好奇の目と恨めしそうな目が混ざっていて。
アーサーが私の肩を抱いたりするので余計に目立つのだが、協力すると言った以上、やめてとは言いにくかった。家族は全員アーサーの味方で、家庭内のヒエラルキーの頂点も当然アーサーである。
彼は今や、父よりも権力を持っていた。もちろん実際に伯爵として動くのは父なので、アーサーは影の支配者のようなものだ。アーサーを怒らせたらリンゼイでは生きていけないのではないかとさえ思える。
「僕はまた、本当に君とお付き合いしているのかと聞かれたよ」
「そうなんだ? まあ進級したし、そろそろ気が変わる頃だと思うのかもね」
「付き合ってるのは本当だよ、と言っておいた。あと一年頑張ろうね」
「うん……」
私たちはとうとう最高学年になったから、来年の秋には卒業である。父はアーサーを王都にある騎士学校に入れたいと言っていたので、あと一年頑張ればこの役目からも解放されるはず。そこまでお金が用意できるのかは疑問だけど、アーサーの旅立ちを姉として見送ってやりたいと思っている。
アーサーは女子からの告白を避けるためか、廊下を歩く時には必ず私の肩や腰に手を添えるようになった。僕たち愛し合ってますアピールがどこまで効いているかは分からなかったけど、去年よりは告白が減ったよと言っていたから大多数の女子は諦めたんだろう。
でも中には自信に満ち溢れた人もいるのだった。私よりもずっと美人な子とか、お金持ちの家の子とか。
貧乏伯爵家のぱっとしない令嬢の私がどうこう言えるはずもなく、たまに呼び出されることもあった。場所はやはり使用頻度の低い階段の踊り場。木造の校舎は古く、壁の高いところに一つだけある窓から、細い光が差し込んでいる。
「アーサー君があなたを選んだのはただ単にいちばん近い女性だからよ。ものすごい美人でもなく、簡単に落とせそうで手頃だったから。勘違いしないことね」
「ハイ、大丈夫です。分かってます」
言いたい事を私にぶつけると、満足して去っていく。アーサーは誰から告白されても断るので、私に八つ当たりしたいんだろう。その気持ちは分かる。あと、私がアーサーに不釣合いだって事も。
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ぼそっと呟いてから、いややっぱりそれはマズいかなと思ったり。
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