貧乏令嬢、山菜取りのさなかに美少年を拾う

千堂みくま

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パートナー探し

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「アーサー、誰か好きな人できた?」

 いつもの帰り道、私は誘惑に負けてアーサーに聞いてみることにした。お付き合いをやめようと言うならともかく、好きな人がいるかどうかぐらいは聞いてもいいだろうと思って。

「気になるの?」

 なぜか嬉しそうにするアーサー。この表情は期待してもいいんだろうか。私はわくわくしながら「うん」と言って彼の返事を待った。でも。

「その答えは来月わかるよ。そろそろ卒業パーティーの相手を選ぶ時期だからね」

「ああ、もうそんな時期だっけ……」

 上手くはぐらかされた感があるけど、まあいいか。
 卒業パーティーの最後はダンスで締めくくられるから、六年生はパートナー探しをしなければならないのだ。今年はアーサーがいるからきっと盛り上がるだろう。

 パートナー探しの前には学校から六年生全員に小さなコサージュが渡される。女子は白、男子は薄紅と色を分けて配られ、パートナーになって欲しい相手に頼んでコサージュを交換してもらえたら一安心。でも拒否されたら別の人を探さなければならない。

 女子同士で踊っているペアも過去にはいたそうだけど、さすがに男子にはキツイだろうな。薄紅色のコサージュをお互いにつけて踊るぐらいなら、壁の華になった方がマシな気がする。

 去年もぎりぎりまで探している人がいて大変そうだなと思った。パーティーで着れるような立派なドレスなんか持ってないし、ああもう、面倒くさい。


「全員コサージュは持ったか? 人数分しか用意してないから、二個取ったりはするなよー」

 先生が教室に運び込んだ箱は二つあり、一つには白いコサージュ、もう片方には薄紅色のコサージュが入っている。
 私は手の中の白いコサージュを見つめながらどうしようかと考えていた。もう誰でもいいからさっさと交換してしまいたい。でもアーサーがどう動くかを見極めてからの方がいいかな……。

 一人でウダウダ考えていた私だったが、次の休憩時間に悩みはあっさりと解決した。隣のクラスからアーサーがやって来て、自分のコサージュと私のを交換してしまったからだ。私の意向は無視ですか、そうですか。

「これが答えだよ。今後もよろしくねリヴィ」

「う……うん……」

 アーサーがコサージュを交換した瞬間、教室からも廊下からも悲鳴のような声が上がった。「いやー!」という高い声は耳にも心にも突き刺さり、これ以上ないぐらい後ろめたい気持ちにさせられた。

 私だって嫌だと思ってるよ。
 でもアーサーに逆らったりしたら、家庭内で居場所がなくなるから仕方ないんだよ―――と言ってしまえたらどんなに良かっただろう。


 コサージュを交換してから数日後、やはりと言うかなんと言うか、私は例の階段に呼び出されていた。今回は人数が多い。六人もいる。全員同級生で、一人だけ知っている人だった。

 レベッカという名の彼女はいつも定期テストで学年二位をキープしている才女だ。一位は当然のようにアーサーで、私たちの学年だけ彼のせいでテストの難易度が上がっているという噂がある。まあそれはいいとして。

「リヴィ。文句を言うために呼び出したわけじゃないのよ。あなたにお願いがあるの」

 レベッカはやけに真剣な表情をしていた。またアーサー絡みなんだろうけど、そこまで彼に対して深い気持ちがあるのかと逆に感心してしまう。だって家庭内では王様みたいに厄介なヤツなのに。

「お願い?」

「ええ。卒業パーティーの時、アーサー君に私たちともダンスしてもられるように頼んで欲しいの。ダンスはペア同士じゃなくてもいいって事になってるでしょ?」

「ああ……そうだね。一時間もずっと同じ人と踊ったりはしないよね」

「お願い、私も彼と踊ってみたいの!」

「最後の記念にしたいの!」

 六人から「お願い」、「最後の思い出にどうか!」と泣き付かれてしまい、私はとうとう「いいよ」と言ってしまった。

「でも踊る人はアーサーが選ぶと思うよ。それでも大丈夫?」

「いいわ。最後まで選ばれなかったら、潔く諦めるわよ。他の女子にもそう言い含めておくから」

 そこまでアーサーに思い入れがあるのか。潔く諦めて彼を応援したいと思えるほど?

 もうアーサーの恋人役はレベッカでいいんじゃないかと思った。美人だし人柄も良さそうだし、きっと彼を幸せに出来るんじゃないかな。レベッカがアーサーを拾えばよかったのに。あ、でもレベッカの家は商家で貧乏じゃないから、山で山菜取りなんてするはずがなかった……。
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