貧乏令嬢、山菜取りのさなかに美少年を拾う

千堂みくま

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大事件かも

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 放課後、私は隣の教室へアーサーを迎えに行った。いつもは彼の方から来てくれるんだけど、私から行けばアーサーも喜ぶかと思ったのだ。お願いごとを聞いてもらうには、今から機嫌を良くしておかないと。

 ドアから顔を覗かせるとアーサーは喜んで私の方へやってきた。こういう時だけは犬みたいに可愛い。犬にしては大きすぎるけども。

「リヴィから来てくれるなんて珍しいね。ちょっと待ってて」

 アーサーは自分の席から鞄を取ってきた。「アーサー君、またね」と挨拶されてるのに、無表情で「ああ」とか言っている。もうちょっと愛想良くできないのか。そんな態度でもモテるのは何故なんだ。

 私は道を歩きながら話しかけた。

「卒業パーティーの話なんだけどね」

「うん。どうかしたの?」

「ダンス、他の女子とも踊ってあげて欲しいの。みんな最後の思い出にアーサーと踊りたいんだって。一時間もあるから、ずっと私と踊らなくてもいいでしょ?」

「いいけど……リヴィはそれでいいの?」

「いっ、いいよ。私たちもともと偽のお付き合いなんだから、私のことなんて気にしなくていいよ」

「……そうか。分かった。でも最後のダンスはリヴィと踊りたい。それなら他の子と踊ってもいいよ」

「本当? 良かったぁ。じゃあ私とのダンスは最後ってことね。他の子にもそう言っておくから」

 アーサーは暗い顔で「うん」と言った。さっきまで明るい顔してたのにどうしたの。大勢の美人と踊れるっていうのに何が不満なのよ。
 モテる男の気持ちは分からない。他の男子が今の会話を聞いていたら、怒って暴れてるんじゃないだろうか。

 顔もスタイルも良くて、成績は学年トップ、運動だって出来る。そんなヤツが近くにいたらストレスを感じるに決まってる。だけどアーサーにちょっかいを掛けようという男子は全然いないらしい。アーサーに何かしたら女子生徒全員を敵に回すから怖いのかもしれない。貴族というのは外聞も大切なのだ。

 私からの報告を聞いたレベッカはとても嬉しそうだった。アーサーの態度にはまだよく分からない部分があったけど、勉強や家の手伝いをしている内に忘れてしまい、そうこうしている間に季節は春に変わっていた。

 あと半年で卒業だ。やっと偽のお付き合いも終わる……と思っていたある日、とんでもない事に巻き込まれてしまったのだった。



 春が来た。山の恵みが取れる春が。
 私はまたロイクと一緒に山に来ていた。アーサーは騎士学校に入るための勉強で忙しそうだったので家で留守番してもらっている。父と母は朝に出掛けたため不在だった。

 背中に担いだカゴは地面に下ろし、摘み取った木苺を入れていく。量が少なければ果実酒に、多ければジャムにすると母は言っていたのでたくさん取ろうと頑張っていた。私はまだ15歳だから、お酒なんて飲めないのだ。酒よりジャムの方がずっといい。

 木苺は山の斜面など日当たりがいい場所に生えている。私とロイクは藪をかき分け、つまみ食いしながら収穫していった。ああ、甘酸っぱい。

 斜面に立っているとリンゼイの街が一望できるので気分もいい。何回目かの休憩で、街を見下ろしていたロイクが妙な事を言い出した。

「姉さん、うちに馬車止まってない?」

「ええ? まさかぁ、馬車を買うお金なんてないでしょ」

 いちばん安い馬車でも家族四人が一年間食べていけるぐらいの金額になるらしい。そんなものを買える訳がない。
 私は振り返りもせずに木苺を食べていた。

「本当だよ、見てよホラ!」

「もう、分かったってば」

 体の向きを変えると乾いた風が頬をなでていった。汗ばんだ体が冷えて気持ちがいい。私が立っている所は藪が邪魔で見えにくかったので、ロイクの近くまで歩いて街を見下ろす。

「あっほんとだ」

「でしょ」

 大きいだけでボロい家の前に、真っ黒な馬車が止まっている。遠目から見ても立派そうな馬車だ。お父さまったらどうしたんだろう。無理して買っちゃったんだろうか。

「買ったのかな……」

「なんか気になるし、もう帰ろうよ」

「そ、そうね」

 私とロイクはカゴを担ぎ、大急ぎで山を下っていった。まさか借金して買ったんだろうか、またすごい貧乏に戻ってしまうんだろうか……私はそんな事ばかり考えていた。お金が無くなったらアーサーが騎士学校に行けなくなる。それだけは防ぎたいのに。
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