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アーサーの正体
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ふもとまで下りた後は気がせいて走りだしてしまった。後ろから「姉さん、木苺落ちてるよ」とロイクの声が聞こえたけど、足は止めなかった。なんだかすごく嫌な予感がして走らずにはいられなかったのだ。
家に着いた私は裏門から入り、足音を立てないように家の陰から正門の方を覗いた。黒い服を着たどこかのおじさんとアーサーが何かを話しこんでいる。アーサーは珍しく怒っているようで、大声を出していた。
「今さら迎えになど来られても困る! 僕はもう継承権を放棄しているんだぞ!」
「分かっております。ですが前王もあなたの兄君も流行り病で亡くなられました。残った王族はあなた一人です。どうか国へお戻りください」
二人の話を聞いていた私は思った。なんだか物語のような事を言い合っているなあと。いつか本で読んだ王子様の話に似ているとのん気に考えていた。
「リヴィ、帰っていたのか!」
私に気付いたアーサーがこちらにやって来る。慌てて逃げようとしたけど、アーサーが私の腕を掴む方が早かった。彼はさらに身長が伸びていたので脚の長さが全く違うのだ。本気で追いかけられたら敵う訳がない。
ロイクは何をしてるんだろう? 早くこっちに来て欲しいのに!
「ちょうどいい、君からも何か言ってやってくれ」
私の腕を掴んだまま歩き出すアーサー。掴まれた腕が痛い。この怪力美少年め。
引きずられるようにしてどこかのおじさんの前に無理やり立たされる。おじさんは困ったように笑い、深々と頭を下げた。
「リンゼイ伯爵のご令嬢ですかな。私は隣国エフレインにて宰相を務めております、ハインツ・マルツァーンと申します。長い間、殿下がこちらでお世話になったようですね。深く感謝申しあげます」
宰相!
そんな雲の上の人だったんだ。
私はまじまじと目の前のハインツさんを見た。上品そうな物腰に質のいい衣服、磨き上げられたピカピカの靴。明らかに上流階級の人間だ。貧乏貴族が関わっていい人物じゃない。
そのハインツさんに偉そうにしているアーサーは……。殿下というのは……。
私は震える声で尋ねた。
「で、殿下というのは、一体……」
「貴方の隣に立っておられる方のことです。カイザー殿下は一年ほど前から行方不明とされ、わたくし共は懸命に探して参りました。まさか隣国におられるとは思わず捜索に時間が掛かってしまったのです。申し訳ありません」
下げられた頭を呆然と見ていた。まさかという気持ちとやっぱりかという気持ちが混ざっていて何とも言えない。
王子様だから上品で、賢く、人を使うのが上手かったのか。なぁんだ、そうだったのか。
私は少しホッとしていた。アーサーは貧乏貴族で終わるような人じゃない。迎えが来たと言うのなら国に帰るべきだろう。これでやっと私も、偽の恋人という立場も姉という立場も終わりにできる……そう思ったのに。
「僕は帰らない。ずっとここにいる」
「な、なに言ってんの。本当は王子様なんでしょう? こんな所にいるべきじゃないわ」
「君は何も知らないからそんな事を言えるんだよ。僕は小さい頃から何度も命を狙われ死にかけてきた。やっと逃げたと思ったのに、また戻るなんて絶対に嫌だ!」
「カイザー様。兄君が亡くなられた今、もう貴方の命を狙う者などおりません。堂々とお戻りください」
「ほら、きっと大丈夫だから」
お願いです、帰ってください。平穏な生活に戻りたいんです。
私は願いを込めてアーサーの顔を見つめた。どうかこの思いが伝わりますように……!
「……帰ってもいい」
「おお! まことですか!」
「その代わり、リヴィも連れて行く」
「ちょっ、なに言ってんの!! 冗談言わないでよ!!」
この男は何を言い出すんだ。連れて行く、じゃないよ。絶対に行きません!
私は身を翻して家に入ろうとしたが、玄関から父が出てきたので入れなくなってしまった。
父は穏やかに微笑み、ハインツさんへ言った。
「話は聞かせてもらいましたよ。隣国の危機とあれば協力せざるを得ませんな。どうぞウチの娘もお連れください」
「お父さま!?」
今さら出てきてそれはないでしょう!
臆病な父はきっと隠れて様子を伺っていたのだ。こんなにタイミング良く出てくるなんておかし過ぎる。
父の後ろには母とロイクが立っていた。二人はポカンとしていて、私の援護はしてくれなさそうだった。現実に付いて来れないらしい。
「リヴィ。君さえ大人しく付いて来てくれたらリンゼイには何もしない。一緒に来てくれるね?」
「……」
ついさっきまで弟だった男に脅されている。
本当に、なんでこんなヤツを拾ってしまったんだろう!
家に着いた私は裏門から入り、足音を立てないように家の陰から正門の方を覗いた。黒い服を着たどこかのおじさんとアーサーが何かを話しこんでいる。アーサーは珍しく怒っているようで、大声を出していた。
「今さら迎えになど来られても困る! 僕はもう継承権を放棄しているんだぞ!」
「分かっております。ですが前王もあなたの兄君も流行り病で亡くなられました。残った王族はあなた一人です。どうか国へお戻りください」
二人の話を聞いていた私は思った。なんだか物語のような事を言い合っているなあと。いつか本で読んだ王子様の話に似ているとのん気に考えていた。
「リヴィ、帰っていたのか!」
私に気付いたアーサーがこちらにやって来る。慌てて逃げようとしたけど、アーサーが私の腕を掴む方が早かった。彼はさらに身長が伸びていたので脚の長さが全く違うのだ。本気で追いかけられたら敵う訳がない。
ロイクは何をしてるんだろう? 早くこっちに来て欲しいのに!
「ちょうどいい、君からも何か言ってやってくれ」
私の腕を掴んだまま歩き出すアーサー。掴まれた腕が痛い。この怪力美少年め。
引きずられるようにしてどこかのおじさんの前に無理やり立たされる。おじさんは困ったように笑い、深々と頭を下げた。
「リンゼイ伯爵のご令嬢ですかな。私は隣国エフレインにて宰相を務めております、ハインツ・マルツァーンと申します。長い間、殿下がこちらでお世話になったようですね。深く感謝申しあげます」
宰相!
そんな雲の上の人だったんだ。
私はまじまじと目の前のハインツさんを見た。上品そうな物腰に質のいい衣服、磨き上げられたピカピカの靴。明らかに上流階級の人間だ。貧乏貴族が関わっていい人物じゃない。
そのハインツさんに偉そうにしているアーサーは……。殿下というのは……。
私は震える声で尋ねた。
「で、殿下というのは、一体……」
「貴方の隣に立っておられる方のことです。カイザー殿下は一年ほど前から行方不明とされ、わたくし共は懸命に探して参りました。まさか隣国におられるとは思わず捜索に時間が掛かってしまったのです。申し訳ありません」
下げられた頭を呆然と見ていた。まさかという気持ちとやっぱりかという気持ちが混ざっていて何とも言えない。
王子様だから上品で、賢く、人を使うのが上手かったのか。なぁんだ、そうだったのか。
私は少しホッとしていた。アーサーは貧乏貴族で終わるような人じゃない。迎えが来たと言うのなら国に帰るべきだろう。これでやっと私も、偽の恋人という立場も姉という立場も終わりにできる……そう思ったのに。
「僕は帰らない。ずっとここにいる」
「な、なに言ってんの。本当は王子様なんでしょう? こんな所にいるべきじゃないわ」
「君は何も知らないからそんな事を言えるんだよ。僕は小さい頃から何度も命を狙われ死にかけてきた。やっと逃げたと思ったのに、また戻るなんて絶対に嫌だ!」
「カイザー様。兄君が亡くなられた今、もう貴方の命を狙う者などおりません。堂々とお戻りください」
「ほら、きっと大丈夫だから」
お願いです、帰ってください。平穏な生活に戻りたいんです。
私は願いを込めてアーサーの顔を見つめた。どうかこの思いが伝わりますように……!
「……帰ってもいい」
「おお! まことですか!」
「その代わり、リヴィも連れて行く」
「ちょっ、なに言ってんの!! 冗談言わないでよ!!」
この男は何を言い出すんだ。連れて行く、じゃないよ。絶対に行きません!
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父は穏やかに微笑み、ハインツさんへ言った。
「話は聞かせてもらいましたよ。隣国の危機とあれば協力せざるを得ませんな。どうぞウチの娘もお連れください」
「お父さま!?」
今さら出てきてそれはないでしょう!
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父の後ろには母とロイクが立っていた。二人はポカンとしていて、私の援護はしてくれなさそうだった。現実に付いて来れないらしい。
「リヴィ。君さえ大人しく付いて来てくれたらリンゼイには何もしない。一緒に来てくれるね?」
「……」
ついさっきまで弟だった男に脅されている。
本当に、なんでこんなヤツを拾ってしまったんだろう!
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