貧乏令嬢、山菜取りのさなかに美少年を拾う

千堂みくま

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拉致される

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 私は歯を食いしばって馬車の方へ歩いた。漆黒の塗料がぬられた馬車は黒光りしていて美しかったが、今はそれを楽しむ余裕なんか無かった。

 ハインツさんが申し訳なさそうな顔で扉を開ける。馬車に乗った私は座席のすみっこで体を丸めた。生まれて初めての馬車はとても乗り心地がいい。いいけど、気分は最悪だ。

 私の横にアーサーが、向かい側にハインツさんが乗り、扉が閉まった直後に馬車は動き出す。私は窓に張り付くようにして外の景色を見ていた。家の前で父と母、ロイクが手を振っている。だんだん遠ざかる三人の姿を見ていると涙で視界がぼやけた。

 私の後ろではハインツさんとアーサー……じゃない、カイザー王子がぼそぼそと話し込んでいる。正直聞きたくはなかったけど、この距離では嫌でも聞こえてしまう。

「しかしお前が宰相になっていたとは。兄上に付いていたゲイジッドはどうした?」

「殿下の兄君が亡くなられたと同時に失脚いたしましたよ。今までかなり悪どい事をしてましたからね」

「はっ、いい気味だ。ずっと僕の命を狙ってきた罰が下ったのだろう」

 カイザーの声には憎しみが篭っていた。
 小さい頃から命を狙われてきた彼を気の毒だと思う。たった一人で逃げてきたなんて可哀相だとも思う。
 でもだからって、姉を脅して拉致するのはどうなんだろう。権力の濫用じゃないの。

「リヴィ、到着するまで寝ていたらいい。僕の肩を貸してあげよう」

 私は聞こえない振りをした。
 今はカイザー王子の顔なんか見たくない。声も聞きたくないから話しかけないで。

「殿下。無理に連れ去ったのですから、しばらくそっとしておいてあげましょう」

「ああ……それもそうだな」

 そっとしておく優しさがあるのなら、今すぐ家に戻して欲しいんですけど!
 私はイライラしながら目を閉じた。どこかに到着するまで寝たふりでもしようと思っていたけど、目を瞑っているうちに本当に寝てしまった。



 次に目を開いた時、私は見たこともないような壮大な絵画に目を奪われていた。絵画なんだけどキャンバスではなく、天井全体に絵が描いてあるのだ。こんなの初めて見る。

 起き上がろうとして失敗し、また寝てしまった。ベッドが柔らかすぎて力が入らない。今までのベッドなら余裕で起き上がれていたのに、手がめり込んでしまう。

 何処なんだろうここは。馬車で寝ていたはずが、なんでベッドに移動してるんだろう。

 ちょっと寝るつもりが思い切り熟睡してしまったらしい。きっと木苺つみしてたから疲れてたんだと思う。山道をかなり歩いたし。だから起きられなかったのはしょうがない。うん。

 体を起こした私は自分が着ている服を見た。いつの間にか着替えさせられていて、薄っぺらくてツルツルした生地の服を着ている。いつもの服の方が落ちつくんだけど、どこに置いてあるんだろう。まさか捨てられちゃったのかな。

 ベッドから降りて部屋を歩き回ってみた。毛足の長いふわふわの絨毯が気持ちいい。なんて広い部屋なんだろうか、伯爵家で使っていた部屋三つ……いや、四つは入りそうだ。子供たちが走り回って遊べそう。

 部屋の中をうろついていると、ドアが開いて女性が入ってきた。女性はぺこりとお辞儀をし、洗面と着替えの用意をしている。

「あの、ここはどこですか?」

『     』

 全然聞き取れない。

「も、もう一度聞いてもいいですか?」

『     』

 やっぱり何て言ってるのか分からない!
 カイザー王子め、言葉も通じない国へ私を連れてきたのか!

 私は怒りのあまり床を睨みつけたまま固まっていたのだが、女性が困った表情で手を引くので無理やり感情を押し殺した。しょうがない。この人に八つ当たりしても意味ないし。

 洗面して女性が用意してくれた服に着替える。初夏用の薄い服はレースが綺麗だけど色がちょっと……。なんで水色なんだろう。まさか奴の目の色に合わせた訳じゃないよね?

 不安になった私は部屋の隅にあったクローゼットを開けた。予想どおり青や水色の服ばかりで、一瞬全て燃やしてやろうかと思った。

 毎日カイザー王子の趣味に合わせた服を着なきゃならないのか。
 私が元々着ていた山用の服はどこに行ったのよ。

 一旦部屋から出た女性は食事が乗ったトレーを持ってきてくれた。お腹が空いていた私は喜んで受け取り食べ始める。味付けは家で食べていた料理と似ていてホッとした。

 食欲が満たされると不安が大きくなってくる。カイザーは私をどこに連れて来たんだろう。ちゃんと家に帰してくれるんだろうか。と言うかあいつは今どこにいて何をしてるんだ。早く事情を聞きたいのに。

 私は窓ぎわに置かれた椅子にぼんやりと座っていた。目の前の小さな円いテーブルには女性が淹れてくれた紅茶が置いてある。紅い色は綺麗だし飲んだら美味しいんだと思うけど、不安が大きすぎて目の前のことを楽しめない。

 コンコンとノックの音が響き、はいと返事をするとカイザーが入ってきた。
 彼の衣装はすっかり変わり、金でふち取られた詰襟の服に純白のマントを羽織っている。何処から見ても王子様だった。
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