貧乏令嬢、山菜取りのさなかに美少年を拾う

千堂みくま

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脱出したい

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「やあ、リヴィ。目が覚めたみたいだね」

「カイザー王子! ここ、どこなんですか!」

 噛み付くように尋ねると、カイザーは微笑みながら言った。

「カイザーでいいよ」

 そうじゃない! そんな事は今どうでもいい!
 私はイライラしながら言った。

「カイザー。ここはどこ? 世話をしてくれる女性と言葉が通じないんですけど」

「ここはエフレインの王宮の中だよ。エフレインの公用語はエフレイン語だ。この国のほとんどの人はエフレイン語しか話せないんだよ」

「……。ああそう、まあいいわ。それよりいつになったらリンゼイへ帰してくれるの?」

「うーん……もう少し後でね。この書類にサインしてほしい。君の身の上を守るために必要なんだ」

「……全然読めないんですけど。サインしたら家へ帰してくれる?」

「ああ。いつか必ず連れて行くよ」

 私は渋々サインをした。「連れて行く」という言葉の意味をこの時は分かっていなかった。
 カイザーは書類をうれしそうに受け取り、また来るよと言って部屋から出て行ってしまう。入れ違いで宰相であるハインツさんが部屋に来て、目の前のテーブルに何冊か本を置いた。

「言葉も通じないような国に無理やり連れて来てしまい、本当に申し訳ありません。エフレイン語の教本をお持ちしましたので良かったら……」

 良かったら何なんだ。勉強してって事ですか。

「カイザー様のことですが、四日後の即位式をもって国王となられます。リヴィ様は式典には出られませんが豪華な食事にしますので楽しみにお待ちください」

 ハインツさんが出て行ったあと、私は本を床に投げつけた。

 王様になるとか、そんなん知るか!
 豪華な食事なんか要らないから今すぐ家に帰してよ!

 ひと通り暴れたあと、部屋のすみで女性が怯えているのが見えた。私は恥ずかしくなり、ごめんなさいと謝って本をテーブルに戻した。
 そう言えば女性の名前を聞いていなかった。お世話をしてくれてるんだから名前ぐらいは聞いておいた方がいいよね。

「名前を聞いてもいいですか? 私はリヴィです」

 自分を指差しながら「リヴィ、リヴィ」と言うと、女性はうんうんと頷いて「モナ、モナ」と答える。そうか、モナと言うのか。
 私はモナと握手を交わし、よろしくお願いしますと挨拶をした。簡単な会話ぐらいは出来た方が便利だろうな。私は教本を手に取り、挨拶や日常会話を調べたのだった。


 昼下がり、暇を持てあました私は部屋を出てみる事にした。カイザーは当てに出来そうにもないし、可能なら一人で脱出しようと思ったのだ。普通に考えたら広くて警備の厳しい王宮から脱出なんて無理そうだと分かるけど、ずっと田舎で暮らしてきた私は何も分かっていなかった。

 モナが部屋から出て行ったあと、頃合いを見てドアを薄く開いた。隙間から顔を出し周囲を見回すとすぐそこにガタイのいいお兄さんが立っている。多分、二十代の後半ぐらい。服装から考えて騎士だと思うんだけど。

 護衛だろうか。それとも見張り?
 騎士は無表情で私を見ている。私も騎士をじっと見た。怒られないって事は部屋から出ても大丈夫なんだろうか。

 部屋から出て廊下を歩き出す。とても長い廊下で、突き当たりの壁は小さくてよく見えない。しばらく歩いたところで階段を見つけたので降りてみることにした。騎士は無言で付いて来る。後ろに熊がいるみたいで落ち着かない。帯剣してるし。

 無理やり連れて来られた上に軟禁されてる私は何なんだろう。ヒラヒラした綺麗な服を着せられたって全然嬉しくない。おいしいはずの食事だっておいしく感じない。

「はあ……」

 長いため息をつきながら階段をおりていくと一階に出た。私の部屋は二階にあったらしい。光が差し込む明るい方へ向かって歩き、大きく開いたガラスのドアから外へ出る。

 赤や白、ピンクの薔薇が咲き乱れる花園だった。誰かが丁寧に世話をしているんだろうな。綺麗だけど、ここからは逃げられそうにない……。

 私は自分の足元を見た。室内履きのような薄くて頼りない靴だから、走ったらすぐに脱げてしまうかもしれない。ついでに後ろの熊みたいな騎士も見た。地理のよく分からない場所で逃げたところで、すぐに追いつかれるだろうな。他にも騎士はいるだろうし。

 少しだけ庭をうろうろ歩き回ってみたけど、迷いそうだしとにかく暑いので部屋に戻ることにした。相変わらず騎士は無言で私に付き添い、部屋のドアの前でようやく離れてくれた。

 散歩している内に日が傾いたのか、部屋の中がぼんやりとオレンジ色に染まっている。私は物寂しい気持ちになった。学校からの帰り、夕焼け色の道を歩いたっけ。本当は今日だって学校に通っていたはずなのに……。
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