貧乏令嬢、山菜取りのさなかに美少年を拾う

千堂みくま

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逃亡生活の終わり

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 私は部屋を抜け出してカイザーの様子を見てみることにした。今日はずっと暗い顔をしてたけど大丈夫だったかな。廊下をコソコソ歩きながら王様の顔がよく見える位置を探す。見つかりたくなかったのでしゃがんで歩いていたら腰が痛くなってきた。

 廊下を半周したあたりで、やっとカイザーの顔がよく見える場所を見つけた。王座に腰掛けているカイザーはダンスをする令嬢たちをぼんやりと見ている。でも目には何も映っていないような感じだった。空っぽな目で、どこか遠くを見ているような……。

 あなたも誰かと踊っていいんだよ。好みの子を見つけてダンスに誘えばいいのに。

 カイザーの隣に立つハインツさんが彼に何か言い、カイザーは頷いて二階への階段をのぼり始める。私は慌てて見えないように隠れた。カイザーが階段をのぼる度に長いマントがひらひら動いて格好よかった。王様の顔は死んでたけど。

 カイザーは二階のバルコニーに出てしまった。一人で月でも眺めてるんだろうか。私は心配になって彼のあとを追った。大きなガラス扉から外に出ると、カイザーは夜空を見上げている。斜め後ろから見えた彼の表情は暗く沈んでいて、私は今さらながら気が付いた。

 カイザーが暗い顔をしているのはリヴィがいないからだ。本当は私と舞踏会で踊りたかったのに、リヴィがいないからずっと元気がなかったんだ……。

「陛下、何か飲み物をお持ちしましょうか?」

 カイザーは空を見上げたまま「いや、いい」と答えた。しばらく月を見ていた彼は視線を私に移す。

「踊らないか?」

「え? ここでですか?」

「ああ」

「でも僕、全然おどれないですよ」

「大丈夫だから」

 カイザーは私の手を引いて踊りだす。私、本当に踊れないのに。こんな事なら学校でダンスの授業を受けていれば良かった。
 でも不思議と足が勝手に動いている。多分カイザーのお陰だろうな。王様のリードが上手だから、踊れているように感じるんだと思う。

 私は踊りながらカイザーの顔を見上げた。カイザーは嬉しいような寂しいような、色んなものが混ざった表情をしている。

 苦しいの、カイザー。
 ユリアンがリヴィに似ているから。
 似ているけど、ユリアンはリヴィじゃないから。

 もうカイザーを苦しめるのはやめにしよう……私も自分の気持ちをハッキリさせないと。

「陛下。今夜は一緒に寝ましょうか?」

「いいのか?」

「はい。でも変なことはしないでくださいね」

「それは大丈夫だと思うが……君は男だし」

 言ったね。ちゃんと聞いたからね。
 ネックレスを外した時カイザーはどんな顔をするんだろう。驚くだろうか。騙していたから怒るだろうか……。
 楽しみなような怖いような、変な気分だった。


 使用人が使う浴室で体を洗って着替えた後、カイザーの部屋に入らせてもらう。私が王宮に来たころに使っていた部屋と同じぐらい広かった。ベッドも5~6人は眠れそうだ。王様ってやっぱり贅沢。

 ベッドの端に座ったカイザーが私を見ている。彼の前に立って、ネックレスの鎖に手をかけた。

「これから何を見ても、驚かないでくださいね」

「え? ……ああ」

 カイザーの目の前でネックレスを外した。肩幅は狭くなり、体は丸みを帯びて女性らしくなっていく。カイザーは騒ぐこともなく、変わる私の体をじっと見ていた。

「……驚かないの?」

「うん……ずっと不思議だった。ユリアンとリヴィは同じ匂いがするから」

「にお……あ、だから公園で、私の匂いかいでたの!?」

「うん。キスしてもいい?」

 カイザーがゆっくりと顔を近付けてくる。今度は拒んだり嫌がったりしなかった。長い腕で抱きしめられながら彼の口付けを受け入れる。カイザーはキスしながら泣いているので涙の味がした。

「私ね。あなたから逃げる間に考えたの」

「うん」

「私、あなたのお嫁さんになってもいいよ。大変だろうけど、頑張るから」

「うん……」

 王様がぼろぼろ泣いている。カイザーがこうやって泣いたりするのは私の前でだけ。それを知っているから、私は彼の背中をよしよしと撫でてあげた。私、この人が好きなんだ。

 一緒に寝台に寝転がると、カイザーの耳は赤くなっている。私は唐突に、故郷でカイザーとロイクと一緒に寝た夜のことを思い出していた。もしかしてあの時から、カイザーは私のことを……。

 何だか嬉しくなってきて、寝ながらカイザーをぎゅっと抱きしめる。王様は私の耳元で「我慢、我慢」とぶつぶつ言っていた。何の我慢なんだか。
 私はぐっすり眠れたけど、カイザーがどうだったかはよく分からない。


 こうして私の逃亡生活は幕を閉じたのだった。

 その後、王宮がちょっとした騒ぎになったり、カイザーと一緒にリンゼイへ行ったり、私のお妃教育が始まったりしたけれど。

 それはまた、別のお話。
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