貧乏令嬢、山菜取りのさなかに美少年を拾う

千堂みくま

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お茶会にて

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 ひと月経ってしまった。私はいまだにカイザーの噂をどうにも出来ずにいる。と言うかカイザーの噂の原因はユリアンなのだから、私にどうこうできる訳がない。大人しくひっそりと侍従をしています。

 薔薇が咲く時期になり、今日は庭でお茶会が開かれていた。主催はボーゲル公爵夫人となっていて、表向きは未婚の女性たちの情報交換のため、らしい。でも本当は、カイザーの女嫌いを治すためだとハインツさんが言っていた。

 薔薇の庭に集まった女性たちは百人ほど。この人たちは皆カイザーとお見合いしたんだろうか、とか思いながらお茶を運んだりお菓子を運んだりしている。

 王様はと言うと、ほぼ中央に位置するテーブルで、無表情な顔で紅茶を飲んでいた。目も眩むような美女に囲まれても愛想笑いもしない。少年の頃からブレない人だなと思う。

「ユリアン君。精が出ますね」

 いちばん端のテーブルでハインツさんがお茶を飲んでいる。このお茶会、未婚の女性のためなんですけど。結構ちゃっかりしてるんだな、この人。
 私はお見合いについて聞いてみることにした。

「ハインツさん、陛下は去年お見合いをしたそうですね」

「あー、してましたね。大失敗に終わりましたけど」

「失敗したんですか」

「ええ。陛下が誰にも興味を示されなかったので……あれを見たら分かるでしょう」

 私はハインツさんの視線の先を見た。カイザーはやっぱり無愛想で、二コリともしていない。周りの美女が彼に話しかけても、退屈そうに遠くを見たままだ。

「陛下が笑いかけるのは惚れたお嬢さんとユリアン君だけです。あなた方ふたりだけが陛下にとって特別なんですよ。……あ、陛下が呼んでいるみたいですね」

「すみません、戻ります」

 ハインツさんの傍を離れて、カイザーの斜め後ろに立つ。王様はティーカップを上げて私の方を見た。お茶のお代わりが欲しかったのね。でもそれ、ホルストさんでもいいでしょ。なんで遠い所にいる私をわざわざ呼ぶのよ。

 淹れたての紅茶を注ぎながら、変な気分だった。

 どうしても私じゃないと駄目なの。
 そんなに私のことが好きなの。
 カイザーって変わってるな……。

 レストランではモテていた私も、王宮に来てからはさっぱり告白されていない。カイザーの影響力が強すぎるからだと思う。テーブルに座る令嬢たちも王様のことしか見えていないようだった。美形でしかも国王なんて、モテるに決まっている。

 お茶会に着ている誰かがカイザーを拾っていたら、私と彼は出会わなかったんだろうな。そしたら今ごろ、カイザーは私以外の女性と婚約してたかもしれない。

 それでカイザーが幸せになれるならいい。王様のカイザーじゃなくて、女の子の体で興奮して鼻血を出したり、婚約者に逃げられたからって公園で泣いてるようなカイザーを、幸せにしてくれる人がいるのなら……。

 …………。いるかな。そんな令嬢、ホントに存在してる?

 私は王様と令嬢たちを見比べてみた。今のカイザーは王様ぶって格好つけているし、令嬢たちはそんな彼にウットリしている。完全に騙されてる。
 カイザーもたまには格好悪いとこも見せたらいいのに。

 なんだか面白い。格好悪いカイザーを知ってるのは私だけ。それが嬉しいと思ってしまうなんて、私もだいぶおかしいのかも。


 お茶会の二日後、令嬢たちの社交デビューの日を迎えた。

 今日のカイザーは日中は普段どおりに仕事をし、夕方から社交デビューのための準備をすることになった。令嬢たちが国王に謁見するのは夜の8時頃で、舞踏会では軽食しか出ないから、夕食も済ませないといけない。忙しい。

 全ての仕事を終え、夕食を取れるようになったのは午後6時半だった。私たちはいつものように晩餐室で三人で食事をしたんだけど、どうもカイザーの様子がおかしい。おかしいと言うか暗い。
 どうしたの王様。今日はたくさんのお客様が来るから明るい顔していて欲しいのに。

 夕食が終わって着がえているときも表情が暗いので、着がえたカイザーに「よく似合ってますよ」と声を掛けても「ああ……」とか生返事。

 社交デビューの日に白い色を身につけていいのは、国王とデビューする令嬢だけらしい。だからカイザーにも、金色の糸で刺繍がされた豪華な上着のうえに、真っ白なマントを付けてもらった。本当に格好いいから本気で褒めたけど、王様の顔は変わらなかった。

 会場になるのは王宮の中の大ホールで、カイザーに付き添うのはハインツさんとホルストさんになり、私は国王の控え室で待っている事にした。大ホールは一階から三階までの吹き抜けになっていて王様の控え室は二階にある。
 部屋の中で本を読んでいると音楽が聞こえてきた。ダンスが始まったという事は、もう令嬢たちの謁見は終わったんだろう。
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