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14 晩餐会にて2
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「リヴァイ家のメイドなんか辞めて、うちで働かないか? 倍の給金を出すぜ」
「はぁ、有難いお話ですけど……。わたしは大奥様の別荘が好きなので」
オクタビアの別荘のように世間から隔絶された場所でないと、自分は働けないのだ。だから断ったのに、ジョナサンはまだ諦める様子ではない。
「わかんねぇ奴だな。俺のとこで働けば、贅沢させてやるぞって言ってんだよ。おまえは平民みたいだから正妻には出来ないけど、愛妾にして可愛がってやる」
「…………は?」
予想もしていなかった愛妾発言に、思考が停止しそうになる。そんなもの絶対に嫌だ。お断りだ。でも気持ちをそのまま言葉にするのは不味いかもしれない。今夜の晩餐会はジョナサンが主宰だし、シーナの失態はそのままバージルの責任になるのだ。バージルの顔をつぶすことなく、穏便に断るしかない。
(でも何て言えばいいの? どう断ったら、諦めてくれるのかしら……)
「――失礼。そちらのお嬢さんと話がしたいのですが、よろしいですか?」
追い詰められた鼠みたいな気分になっていると、ジョナサンの後ろから若い男性の声がした。すがりつく思いでそちらへ視線を向ければ、騎士服を着た二十歳ぐらいの男性が立っている。
騎士服の襟元と左胸には、薔薇と盾の紋章――王宮騎士団に所属する騎士だ。由緒正しい家柄と、確かな実力がなければ入団を認めてもらえない騎士団である。
ジョナサンはチッと舌打ちして離れて行ったが、シーナとしてもこの場から逃げ出したい気持ちだった。王宮騎士団ならレクオンの護衛を務めたりもしただろうし、彼の婚約者のことも知っているだろう。
シーナは確認するように騎士の顔をちらりと見たが、見覚えがあるのかどうかは分からなかった。もう三年も前のことだから、記憶も朧になっている。
「助けてくださって、ありがとうございました」
口早にお礼を伝えて去ろうとしたが、騎士は「待ってください」とシーナの手を掴んだ。しかし次の瞬間、慌ててシーナの手を解放する。
「ああ、すみません! 女性の手を軽々しく取るべきではなかった……。でも、どうしてもあなたに訊きたいことがあるんです」
「……なんでしょうか」
もう逃げるのは諦めたほうがいいのかも知れない。シーナは足を止めて騎士の顔を見つめた。
「俺は王宮騎士団に所属する、オスカーという者です。今は所用のため王都を離れております。突然こんな話をしたら驚かれると思うんですが……あなたはルターナ様の、ご血縁の方ですか?」
ああ、やっぱり――。訊かれるかもと予想はしていたが、実際にその名を口にされると衝撃がある。頭をがつんと殴られたような気分だ。シーナは搾り出すように、なんとか声を出した。
「……いいえ。わたしの知り合いに、そのような名前の方はいません」
「そうですか……。すみません、変なことを訊いてしまって。ルターナ様はレクオン殿下の婚約者だったご令嬢なんですが、あなたの顔があまりに似ていたので……もしかしたらと思ったんです。ルターナ様は三年前にご病気のため、お亡くなりになったもので」
「亡くなったのですか……。レクオン殿下は、さぞかし悲しまれたでしょうね」
ルターナを失ったレクオンがどうなったかを聞くのは怖いが、自分には知る義務がある。シーナが尋ねると、オスカーは悲しげにふっと笑った。
「それはもう、見ているのが辛いぐらい落ち込まれていました。ルターナ様が亡くなってから一年ぐらいはまともに食事をしておられなかったし、今でも婚約の申し込みを断るぐらいですから……」
「そ……そうですか」
オスカーの言葉に返答したとき、バージルが戻ってくるのが見えた。ジョナサンに挨拶して帰るつもりのようだ。
「オスカー様、ありがとうございました」
「いえ……。俺こそ勘違いしてすみません」
シーナはオスカーに頭をさげ、バージルのもとへ戻った。満腹になったバージルにコートを着せている間も、オスカーがじっとシーナを見ている。彼はまだ不審に思っているのだ。シーナはルターナに酷似しているから、彼が気になるのは当然のことだ。
(やっぱり、王都へ戻ろう。オクタビア様が元気になられたらお暇を貰って、レクオン様にお会いしよう)
王子を騙した挙句、逃げまわった罪がどれだけ重いのかは想像もつかない。でもレクオンを孤独へ追い詰めたくせに、自分だけがのうのうと幸せになるのは許されないことだ。何もかもレクオンに打ち明けて、罪を裁いてもらおう――。
シーナは決意とともに別荘に戻ったが、オクタビアは体調不良で寝てしまったらしく、話をすることは出来なかった。
「はぁ、有難いお話ですけど……。わたしは大奥様の別荘が好きなので」
オクタビアの別荘のように世間から隔絶された場所でないと、自分は働けないのだ。だから断ったのに、ジョナサンはまだ諦める様子ではない。
「わかんねぇ奴だな。俺のとこで働けば、贅沢させてやるぞって言ってんだよ。おまえは平民みたいだから正妻には出来ないけど、愛妾にして可愛がってやる」
「…………は?」
予想もしていなかった愛妾発言に、思考が停止しそうになる。そんなもの絶対に嫌だ。お断りだ。でも気持ちをそのまま言葉にするのは不味いかもしれない。今夜の晩餐会はジョナサンが主宰だし、シーナの失態はそのままバージルの責任になるのだ。バージルの顔をつぶすことなく、穏便に断るしかない。
(でも何て言えばいいの? どう断ったら、諦めてくれるのかしら……)
「――失礼。そちらのお嬢さんと話がしたいのですが、よろしいですか?」
追い詰められた鼠みたいな気分になっていると、ジョナサンの後ろから若い男性の声がした。すがりつく思いでそちらへ視線を向ければ、騎士服を着た二十歳ぐらいの男性が立っている。
騎士服の襟元と左胸には、薔薇と盾の紋章――王宮騎士団に所属する騎士だ。由緒正しい家柄と、確かな実力がなければ入団を認めてもらえない騎士団である。
ジョナサンはチッと舌打ちして離れて行ったが、シーナとしてもこの場から逃げ出したい気持ちだった。王宮騎士団ならレクオンの護衛を務めたりもしただろうし、彼の婚約者のことも知っているだろう。
シーナは確認するように騎士の顔をちらりと見たが、見覚えがあるのかどうかは分からなかった。もう三年も前のことだから、記憶も朧になっている。
「助けてくださって、ありがとうございました」
口早にお礼を伝えて去ろうとしたが、騎士は「待ってください」とシーナの手を掴んだ。しかし次の瞬間、慌ててシーナの手を解放する。
「ああ、すみません! 女性の手を軽々しく取るべきではなかった……。でも、どうしてもあなたに訊きたいことがあるんです」
「……なんでしょうか」
もう逃げるのは諦めたほうがいいのかも知れない。シーナは足を止めて騎士の顔を見つめた。
「俺は王宮騎士団に所属する、オスカーという者です。今は所用のため王都を離れております。突然こんな話をしたら驚かれると思うんですが……あなたはルターナ様の、ご血縁の方ですか?」
ああ、やっぱり――。訊かれるかもと予想はしていたが、実際にその名を口にされると衝撃がある。頭をがつんと殴られたような気分だ。シーナは搾り出すように、なんとか声を出した。
「……いいえ。わたしの知り合いに、そのような名前の方はいません」
「そうですか……。すみません、変なことを訊いてしまって。ルターナ様はレクオン殿下の婚約者だったご令嬢なんですが、あなたの顔があまりに似ていたので……もしかしたらと思ったんです。ルターナ様は三年前にご病気のため、お亡くなりになったもので」
「亡くなったのですか……。レクオン殿下は、さぞかし悲しまれたでしょうね」
ルターナを失ったレクオンがどうなったかを聞くのは怖いが、自分には知る義務がある。シーナが尋ねると、オスカーは悲しげにふっと笑った。
「それはもう、見ているのが辛いぐらい落ち込まれていました。ルターナ様が亡くなってから一年ぐらいはまともに食事をしておられなかったし、今でも婚約の申し込みを断るぐらいですから……」
「そ……そうですか」
オスカーの言葉に返答したとき、バージルが戻ってくるのが見えた。ジョナサンに挨拶して帰るつもりのようだ。
「オスカー様、ありがとうございました」
「いえ……。俺こそ勘違いしてすみません」
シーナはオスカーに頭をさげ、バージルのもとへ戻った。満腹になったバージルにコートを着せている間も、オスカーがじっとシーナを見ている。彼はまだ不審に思っているのだ。シーナはルターナに酷似しているから、彼が気になるのは当然のことだ。
(やっぱり、王都へ戻ろう。オクタビア様が元気になられたらお暇を貰って、レクオン様にお会いしよう)
王子を騙した挙句、逃げまわった罪がどれだけ重いのかは想像もつかない。でもレクオンを孤独へ追い詰めたくせに、自分だけがのうのうと幸せになるのは許されないことだ。何もかもレクオンに打ち明けて、罪を裁いてもらおう――。
シーナは決意とともに別荘に戻ったが、オクタビアは体調不良で寝てしまったらしく、話をすることは出来なかった。
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