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71 家族
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さわさわと麦の穂が揺れている。まるで金色の海のようだ。その海のなかを、白金ブロンドの娘が駆けていく。
「ここへ来るのは五回目ね! 麦の穂がきれいだわ」
「あねうえ、置いてかないでよぉ」
一生懸命とてとて歩いていたダリオンは、小さな石につまづいて転んでしまった。先を行っていた姉は泣き出した弟を見て戻ってくる。
「う、うあぁん」
「ほらほら、泣かないの。お父さまとお母さまも後ろから来てくれたわ」
「ルタリアは足がはやいな……。早歩きしても追いつけない」
「おいで、ダリオン」
シーナは泣いている息子を抱き上げ、涙で濡れた頬をハンカチで拭いてあげた。母に抱っこされたダリオンはけろっと泣きやみ、嬉しそうに笑っている。
「ねぇ、お父さま。私のことも抱っこして?」
「あ、ああ……」
レクオンは娘のおねだりを叶えるため、彼女の体を抱き上げた。もうじき6歳になる娘だ。だんだん重くなってきたな――父親としてしみじみと感慨にふけっていたが、娘の妖しいささやきがレクオンの意識を現実へ引き戻す。
「ふふっ。あなたに抱っこされるのは、やっぱり変な感じね」
「おい……。頼むから、もうちょっと娘らしいことを言ってくれよ」
「二人でなんの話をしているの?」
「……別に」
「お母さま!」
ルタリアは打って変わって甘えた声をだし、母の頬にキスをした。
「ダリオンは私が面倒を見るから、二人はのんびりしてて」
そう言って、弟の手を引いて歩いて行く。麦畑の向こうにあるのはケルホーン伯爵家の墓地だ。レクオンが王太子になってから毎年家族でアグネスとルターナの墓参りに訪れて来たが、今年からレクオンは国王となった。
父イザイアスは国内の体制が整って落ち着いた頃、レクオンに譲位すると発表した。年の初めに即位式が行われたのだが、父はレクオンに譲位するとき「おまえ達は余の誇りだ」と言ったのだ。
王宮を出たイザイアスはレクオンが暮らしていた古城へ移り、家族の肖像画を城主の部屋に飾って懐かしそうに見ているらしい。マシュウは「あんなに見たら絵に穴が空きそうです」と呆れたように呟いていた。
ふと視線を上げれば、麦畑のなかを駆けていく愛しい子供たちの姿が見える。レクオンの口元は自然とほころんだ。
「やっと父上の気持ちが分かった気がする。生まれた子が自分に似ていると、ホッとするもんなんだな……」
「……そうかもしれないですね。ルタリアもダリオンも、わたし達の特徴を受け継いでますから」
最初に生まれた王女ルタリアはシーナによく似ているが、瞳はレクオンと同じ柘榴石の色である。そして二番目に生まれた王子ダリオンはレクオンと酷似しているものの、瞳は翡翠色なのだ。
二人とも間違いなくレクオンとシーナの子である。見ただけで親子だと分かることは、レクオンを心から安堵させた。だが彼にはひとつ気になることもある。
「先ほどのやりとりを見ただろ?」
「見ましたけど……。ルタリアは、わたしの前では普通の娘みたいなんですよね」
「きっとシーナの前では娘を演じてるんだよ。俺には分かる……ルタリアはルターナの生まれ変わりだ。先日だって俺が本を読んでいるときに、その本は私も読んだわなんて言うんだぞ。古代の文化に関する本で、俺がルターナに贈ったものと同じだったんだ。きみにも何か心当たりはないのか?」
「うーん……。確かなことではないですけど、ルタリアは時々わたしの髪や背中を撫でてくれるんです。その手つきがお姉さまそっくりで、懐かしいなと思うことはあります」
「やっぱりか……」
「でもちょっと、安心したんですよね」
「――なにが?」
シーナが子供たちを見つめながら言うと、レクオンは訝しげな顔をする。シーナはふふっと笑いながら続けた。
「レクオン様はずっと前に、ルターナが愛していたのはきみとマリベルだけだったと仰ったでしょ。でもそうじゃなかったんだなぁって思って……。お姉さまはちゃんとあなたの事も好きだった。だからこそ、わたし達の子供として生まれてきてくれたんですよ」
「ああ……そういう事か。不思議なもんだな……。俺はずっときみとルターナの絆に嫉妬していたが、今度は親子になって新しい絆が生まれるなんてな」
「お父さま、お母さまー!」
「はやく、きてー」
金色の海の向こうで、ルタリアとダリオンが呼んでいる。
「行こうか」
「ええ」
レクオンとシーナは手を取り合い、子供たちのほうへ歩いて行った。四人の楽しそうな笑い声は、風に乗ってどこまでも飛んでいくようだった。
完
「ここへ来るのは五回目ね! 麦の穂がきれいだわ」
「あねうえ、置いてかないでよぉ」
一生懸命とてとて歩いていたダリオンは、小さな石につまづいて転んでしまった。先を行っていた姉は泣き出した弟を見て戻ってくる。
「う、うあぁん」
「ほらほら、泣かないの。お父さまとお母さまも後ろから来てくれたわ」
「ルタリアは足がはやいな……。早歩きしても追いつけない」
「おいで、ダリオン」
シーナは泣いている息子を抱き上げ、涙で濡れた頬をハンカチで拭いてあげた。母に抱っこされたダリオンはけろっと泣きやみ、嬉しそうに笑っている。
「ねぇ、お父さま。私のことも抱っこして?」
「あ、ああ……」
レクオンは娘のおねだりを叶えるため、彼女の体を抱き上げた。もうじき6歳になる娘だ。だんだん重くなってきたな――父親としてしみじみと感慨にふけっていたが、娘の妖しいささやきがレクオンの意識を現実へ引き戻す。
「ふふっ。あなたに抱っこされるのは、やっぱり変な感じね」
「おい……。頼むから、もうちょっと娘らしいことを言ってくれよ」
「二人でなんの話をしているの?」
「……別に」
「お母さま!」
ルタリアは打って変わって甘えた声をだし、母の頬にキスをした。
「ダリオンは私が面倒を見るから、二人はのんびりしてて」
そう言って、弟の手を引いて歩いて行く。麦畑の向こうにあるのはケルホーン伯爵家の墓地だ。レクオンが王太子になってから毎年家族でアグネスとルターナの墓参りに訪れて来たが、今年からレクオンは国王となった。
父イザイアスは国内の体制が整って落ち着いた頃、レクオンに譲位すると発表した。年の初めに即位式が行われたのだが、父はレクオンに譲位するとき「おまえ達は余の誇りだ」と言ったのだ。
王宮を出たイザイアスはレクオンが暮らしていた古城へ移り、家族の肖像画を城主の部屋に飾って懐かしそうに見ているらしい。マシュウは「あんなに見たら絵に穴が空きそうです」と呆れたように呟いていた。
ふと視線を上げれば、麦畑のなかを駆けていく愛しい子供たちの姿が見える。レクオンの口元は自然とほころんだ。
「やっと父上の気持ちが分かった気がする。生まれた子が自分に似ていると、ホッとするもんなんだな……」
「……そうかもしれないですね。ルタリアもダリオンも、わたし達の特徴を受け継いでますから」
最初に生まれた王女ルタリアはシーナによく似ているが、瞳はレクオンと同じ柘榴石の色である。そして二番目に生まれた王子ダリオンはレクオンと酷似しているものの、瞳は翡翠色なのだ。
二人とも間違いなくレクオンとシーナの子である。見ただけで親子だと分かることは、レクオンを心から安堵させた。だが彼にはひとつ気になることもある。
「先ほどのやりとりを見ただろ?」
「見ましたけど……。ルタリアは、わたしの前では普通の娘みたいなんですよね」
「きっとシーナの前では娘を演じてるんだよ。俺には分かる……ルタリアはルターナの生まれ変わりだ。先日だって俺が本を読んでいるときに、その本は私も読んだわなんて言うんだぞ。古代の文化に関する本で、俺がルターナに贈ったものと同じだったんだ。きみにも何か心当たりはないのか?」
「うーん……。確かなことではないですけど、ルタリアは時々わたしの髪や背中を撫でてくれるんです。その手つきがお姉さまそっくりで、懐かしいなと思うことはあります」
「やっぱりか……」
「でもちょっと、安心したんですよね」
「――なにが?」
シーナが子供たちを見つめながら言うと、レクオンは訝しげな顔をする。シーナはふふっと笑いながら続けた。
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「ああ……そういう事か。不思議なもんだな……。俺はずっときみとルターナの絆に嫉妬していたが、今度は親子になって新しい絆が生まれるなんてな」
「お父さま、お母さまー!」
「はやく、きてー」
金色の海の向こうで、ルタリアとダリオンが呼んでいる。
「行こうか」
「ええ」
レクオンとシーナは手を取り合い、子供たちのほうへ歩いて行った。四人の楽しそうな笑い声は、風に乗ってどこまでも飛んでいくようだった。
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感想ありがとうございました!
完結おつかれさまでした。
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とても嬉しいです。こちらこそ、最後までお読み頂きありがとうございました!