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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
25 颯爽と登場ペエ!
「ワイアット殿下。先日報告した件に関して、重大な事実が発覚しました」
「先日って……遠征の件か。討伐は問題なく終わったのだろう。何が問題なのだ? と言うかそなた、マントに何か隠してないか? ははぁ、さては私への贈り物だな!」
「前向きに勘違いするのは結構ですが、俺の話を最後まで聞いてください」
「お……おお。相変わらず冗談の通じない奴だ……ちょっとぐらい乗ってくれてもいいのに」
ワイアット殿下の声にはわびしさが滲んでおり、私は彼を慰めてあげたい衝動に駆られた。殿下と呼ばれたからには王子さまなんだろうに、なんだかお気の毒。
でもハル様は一見して冗談の類を嫌いそうなタイプだから、もっと相手を選んだらいいと思います。
「先日の遠征の帰りに、モンドアの森で見たことのない雛を拾いました」
「それは聞いたのだが」
「その雛を拾って以降、一度も魔物に遭遇せずに騎士団支部へ到着して」
「それも聞いた。モンドアの森は魔物が多いことで有名なのに、不思議な事もあるものだなぁ。ハルディアは幸運な男だ! ハハハッ!」
どうやら私が拾われた森はモンドアの森というらしい。今さらだけど、ハル様に拾ってもらった私ってものすごくラッキーだったかもしれない。
「リーディガーに帰ってからは、セルディスの病状が軽くなりました。熱を出したのに一晩で下がったんです」
「それも聞いて……ないな。本当か? そなたの弟は瘴気病になりかけていたのだろう。あれは一旦熱が出ると三日は高熱が続くらしいがなぁ」
「本当です。俺も実際にこの目で見たので。さらに驚くべき事に、昨日セルディスが転びかけたとき不思議な結界が弟を守ったそうです。俺はそのとき城を空けていたので、俺の力ではありません」
「セルディスに、結界を張る力は……」
「ないですよ。あいつが使える魔法は、水をお湯に変えるぐらいの簡単なものだけですから。つまり――」
「おっ? いよいよお出ましか! その中身が今日の本題なわけだな!」
ハル様がもったいぶった手つきで風呂敷マントを広げると、布の隙間からワイアット殿下の顔が見えた。三十歳ぐらいの、やや顔がデカくて健康そうな男の人だ。期待に満ちた表情で私の方を見ている。
こんな顔をされちゃあ、登場しないわけにはいかない。満を持して、いざ、ペペ参上……!
「つまり一連の不思議な出来事は、この雛が原因だと思われます」
「ペエッ!」
「…………」
翻る黒いマント。颯爽と現れた、赤い蝶ネクタイの私。これ以上なく格好いい演出なのに、ワイアット殿下は割れかけた顎をしきりに撫でている。そんなに触ったら余計に割れるんじゃないですかね。
「これがその雛?」
「そうです」
「ペエッ!」
「この雛が魔物を退け、しかもセルディスを守ったと?」
「ええ」
「ペェエッ!」
ワイアット殿下はウロウロと視線を彷徨わせ、しばらくして額に手を当ててしまった。何か考え込んでいる様子だ。何が不満だというのか。
「いや、まあ……ちょっと期待していたのと違ったと言うかな、うん。その……なんだ。可愛い雛ではないか。ハハハ!」
「見た目は可愛い雛ですが、こいつに聖なる力があるのは真実です。俺はこいつを――ペペを、聖獣の雛として公表しようと思っています」
「ペペ!? さてはそなたが名付けたのだな!?」
「そこに引っ掛かるのをやめて欲しいんですが」
「ヒッ」
ハル様がドスのきいた低い声を出すと、ワイアット殿下がびくりと肩をあげた。この人たちの力関係が何となく分かった気がする。
「と……とにかくだな。こんなすっとぼけた顔をした鳥が聖獣の雛だなんて、にわかには信じられんぞ」
「ペエッ? ペェエ、ペエッ!」
「おっ? なんだ。もしかして怒っているのか? まさかなぁ、ハハ」
「多分怒ってますよ。こいつは人間の言葉が分かるようです。すっとぼけたなんて言われて、気分を害したんでしょう」
ハル様がぼそっと言うと、私を撫でようとしていたワイアット殿下はぴたりと手を止める。
「えぇえ……。嘘だろうと言いたいところだが、そんな大真面目な顔をされると冗談に出来る雰囲気ではないな。うぅむ……。しかし聖獣の雛なぁ」
「俺も本気でこいつが聖獣だと思っているわけじゃありません。でも聖獣の雛を個人が入手したという話を広めれば、強欲な奴らが勝手に動き出すかもしれないでしょう。聖獣を独占するのは大陸の覇権を握るのと同じことですから。ペペは囮役を引き受けてくれるそうです」
「強欲な奴らというのは……エリック達のことか?」
それまでふざけた様子だったワイアット殿下は、急に真面目な顔になった。エリックって誰だろう。
「先日って……遠征の件か。討伐は問題なく終わったのだろう。何が問題なのだ? と言うかそなた、マントに何か隠してないか? ははぁ、さては私への贈り物だな!」
「前向きに勘違いするのは結構ですが、俺の話を最後まで聞いてください」
「お……おお。相変わらず冗談の通じない奴だ……ちょっとぐらい乗ってくれてもいいのに」
ワイアット殿下の声にはわびしさが滲んでおり、私は彼を慰めてあげたい衝動に駆られた。殿下と呼ばれたからには王子さまなんだろうに、なんだかお気の毒。
でもハル様は一見して冗談の類を嫌いそうなタイプだから、もっと相手を選んだらいいと思います。
「先日の遠征の帰りに、モンドアの森で見たことのない雛を拾いました」
「それは聞いたのだが」
「その雛を拾って以降、一度も魔物に遭遇せずに騎士団支部へ到着して」
「それも聞いた。モンドアの森は魔物が多いことで有名なのに、不思議な事もあるものだなぁ。ハルディアは幸運な男だ! ハハハッ!」
どうやら私が拾われた森はモンドアの森というらしい。今さらだけど、ハル様に拾ってもらった私ってものすごくラッキーだったかもしれない。
「リーディガーに帰ってからは、セルディスの病状が軽くなりました。熱を出したのに一晩で下がったんです」
「それも聞いて……ないな。本当か? そなたの弟は瘴気病になりかけていたのだろう。あれは一旦熱が出ると三日は高熱が続くらしいがなぁ」
「本当です。俺も実際にこの目で見たので。さらに驚くべき事に、昨日セルディスが転びかけたとき不思議な結界が弟を守ったそうです。俺はそのとき城を空けていたので、俺の力ではありません」
「セルディスに、結界を張る力は……」
「ないですよ。あいつが使える魔法は、水をお湯に変えるぐらいの簡単なものだけですから。つまり――」
「おっ? いよいよお出ましか! その中身が今日の本題なわけだな!」
ハル様がもったいぶった手つきで風呂敷マントを広げると、布の隙間からワイアット殿下の顔が見えた。三十歳ぐらいの、やや顔がデカくて健康そうな男の人だ。期待に満ちた表情で私の方を見ている。
こんな顔をされちゃあ、登場しないわけにはいかない。満を持して、いざ、ペペ参上……!
「つまり一連の不思議な出来事は、この雛が原因だと思われます」
「ペエッ!」
「…………」
翻る黒いマント。颯爽と現れた、赤い蝶ネクタイの私。これ以上なく格好いい演出なのに、ワイアット殿下は割れかけた顎をしきりに撫でている。そんなに触ったら余計に割れるんじゃないですかね。
「これがその雛?」
「そうです」
「ペエッ!」
「この雛が魔物を退け、しかもセルディスを守ったと?」
「ええ」
「ペェエッ!」
ワイアット殿下はウロウロと視線を彷徨わせ、しばらくして額に手を当ててしまった。何か考え込んでいる様子だ。何が不満だというのか。
「いや、まあ……ちょっと期待していたのと違ったと言うかな、うん。その……なんだ。可愛い雛ではないか。ハハハ!」
「見た目は可愛い雛ですが、こいつに聖なる力があるのは真実です。俺はこいつを――ペペを、聖獣の雛として公表しようと思っています」
「ペペ!? さてはそなたが名付けたのだな!?」
「そこに引っ掛かるのをやめて欲しいんですが」
「ヒッ」
ハル様がドスのきいた低い声を出すと、ワイアット殿下がびくりと肩をあげた。この人たちの力関係が何となく分かった気がする。
「と……とにかくだな。こんなすっとぼけた顔をした鳥が聖獣の雛だなんて、にわかには信じられんぞ」
「ペエッ? ペェエ、ペエッ!」
「おっ? なんだ。もしかして怒っているのか? まさかなぁ、ハハ」
「多分怒ってますよ。こいつは人間の言葉が分かるようです。すっとぼけたなんて言われて、気分を害したんでしょう」
ハル様がぼそっと言うと、私を撫でようとしていたワイアット殿下はぴたりと手を止める。
「えぇえ……。嘘だろうと言いたいところだが、そんな大真面目な顔をされると冗談に出来る雰囲気ではないな。うぅむ……。しかし聖獣の雛なぁ」
「俺も本気でこいつが聖獣だと思っているわけじゃありません。でも聖獣の雛を個人が入手したという話を広めれば、強欲な奴らが勝手に動き出すかもしれないでしょう。聖獣を独占するのは大陸の覇権を握るのと同じことですから。ペペは囮役を引き受けてくれるそうです」
「強欲な奴らというのは……エリック達のことか?」
それまでふざけた様子だったワイアット殿下は、急に真面目な顔になった。エリックって誰だろう。
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