【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?

53 ハル様には自覚がない

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 人間たちを飲み込んだ怪物はすぐに水の中に姿を消し、嘘のように湖面が静かになる。夢でも見たのかと思う程だ。ふと横を見ると、爽真が青ざめた顔でカタカタと震えている。

「な、なんだありゃ……。化け物…………」

「あれは聖域の湖を守るぬしだ。あいつがいるせいで、湖を渡るときに船を使うことが出来ない」

「ふう、終わりました。……あれ? ソーマ様、大丈夫ですか?」

 ネネさんがケロッとした顔で戻ってきて、何事もなかったように爽真の隣に座る。爽真はまだ青い顔のままだ。

「す、すんません……。俺、初めて人間が死ぬところを見たから……」

「人間が死ぬのは無理なんですか? 訓練では魔物も殺してましたよね?」

「うん……。魔物は何とかなったんだ。やらなきゃこっちがやられるのは分かってるからさ。でも人間相手に同じ事ができるか、不安になってきた……」

「これは作戦を考えた方が良さそうですね。今後もし対人戦になったら、ソーマ様にはリノ様の保護に徹してもらいましょう」

「それでいいと思う。リノを聖なる巣サンクタムに連れて行くのが何よりも優先すべき事だ。戦闘に勝利する必要はない。ソーマ殿はリノを頼む」

 爽真はもう一度「すみません」と小声で謝り、肩を落として椅子に座っている。私にも爽真のショックはよく分かる。
 私も誘拐されたとき死にかけた親ビンを見てショックだったし、セル様がオーガに踏まれそうになって嫌でも理解した。

 この世界は日本と違って、人間が簡単に死んでしまう。魔法は生活にも役立っているけど、悪事のために魔法を使う人間もいるし、自分の身を守るために相手を死なせてしまう事もあり得る。

(それでも私はこの世界で生きていく。セル様とハル様を守るために生きるんだ)

 馬車はようやく湖を渡りきり、島の端に着陸した。全員降りて誰もいなくなった羽つき馬車をネネさんが収納魔法に仕舞っている。リュックサックもまとめて入れたみたいだ。

「ネネリム殿。そんな巨大なものを収納していたら、魔力を使うだろう。俺が収納するか?」

「いいえ、大丈夫です。私には秘密兵器がありますので」

 心配したハル様が声をかけても、ネネさんは意味ありげにニヤッと笑っただけだった。このお姉さんは意外と面白い人だ。しかもすごく強い。賢者の弟子って皆こんな感じなのかな。

 私はといえば、紐で爽真の背中におんぶしてもらっていた。そして先頭をハル様、真ん中が爽真、後ろがネネさんの順番で森のなかを進む。
 霊山オンブラフルはかなり高い山なので、深い森の中でも迷う事はなさそうだ。顔を上げると爽真の頭の向こうに山が見える。

(そういや小学生のときも、転んだ私を爽真がおんぶしてくれたっけ。懐かしいな。爽真は大きくなったなぁ)

 私をおんぶする爽真の背中はすっかり広くなり、見ていたら胸に熱いものがふつふつと湧き上がってきた。フリッパーで爽真の頭を撫でてあげる。

「……なんだよ。なんで撫でてんだ?」
「爽真、大きくなったペ。もう立派な大人だペエ」

「おまえは親戚のオバちゃんか」
「子供のときにも、こうしておんぶしてもらったペエ。懐かしいペ」
「いつの話して……ぶっ!」

 突然ハル様が足を止めて振り返ったので、爽真は激突して変な声を上げた。ぶつかられたハル様はびくともしなかったけど、じとっとした目で爽真を見ている。

「……すまん。自分でも、なんで振り返ったのかよく分からない」

「えっ。分かってないんすか……! これはヤバそうな予感!」

「何の話してるペエ?」

「何でもない! すんません、余計な話はしないようにしますから」

 爽真が言うと、ハル様は首を傾げながらまた歩き出した。背中越しに低い声で「おい」と囁きが聞こえる。なんでそんな小声?

「おまえ、もう余計なこと言うなよ」
「なんでだペエ」

 私も爽真と同じように小声で囁くと、やつは「俺の命を守るためだ」とドスの利いた声で返してきた。爽真の命を守るために沈黙? 沈黙は金? わけが分からない。
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