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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
62 蛇女
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ネネさんは無事だろうか。キーファはまたオーガを召喚してネネさんを襲わせているだろうか。考え出すとどうしても不安になり、何度も後ろを振り返ってしまう。爽真が小声で「莉乃」と呼んだ。
「ネネリムが心配なのか?」
「心配だペエ。私はキーファが召喚した鬼を見たことがあるペ。本気で怖かったペエ」
「普通は心配なんだろうな。でも俺はなんとなく、ネネリムは勝つような気がする。きっと後から追いかけてくるぜ」
山道の勾配がかなりきつくなってきて、爽真の息が切れている。はぁ、はぁと呼吸するたびに白い息が出る。ふと顔を上げると、雪が積もった木立の向こうに岩山が見えた。
「あの岩山に、聖なる巣に繋がる洞窟が開いているはずだ」
「やったペ……! とうとうたどり着いたペエ!」
「内部は迷路のように入り組んでいるらしい。到着するまで時間がかかるかもな」
「ネネリムとはぐれるかなぁ。合流した方がいいのか……いでっ」
坂を登りきったところで何故かハル様は足をとめ、険しい顔で岩山を睨んでいる。ハル様の背中にぶつかった爽真がおでこをさすりながら一歩横にずれると、岩山に大きな穴が空いているのが見えた。あれが聖なる巣に繋がる洞窟だろうか。
「公爵様、洞窟に入らないんですか?」
「……何かいる」
ハル様は小さな声で言うと、鞘から剣を抜いて構えた。爽真も慌てて剣を抜くと、洞窟からズルズルと奇妙な音が聞こえてくる。何かを引きずるような音だ。十メートル以上離れているのにここまで聞こえるという事は、かなり大きな物かもしれない。
しばらくして音の主は姿を現したけど、私も爽真も信じられなくて呆然とそれを眺めた。
「え……? 人間? 魔物?」
「デッカい蛇だペエ。でも女の人の体がくっ付いてるペエ?」
洞窟から出てきたのは巨大な黒い蛇だった。顎から頭の頂点までは三メートルぐらいの高さで、蛇の頭から女性の上半身が生えている。それがずるり、ずるりと洞窟から出てきているのだ。ものすごく気味が悪い。
「きっ、気持ち悪っ……!」
「やあねぇ。レディに対して失礼でしょう、坊や」
「喋ったペエ!」
「とうとう魔物に成り下がったのか、蛇女」
ハル様が地を這うような声で言うと、蛇女と呼ばれた女性はパアッと顔を輝かせた。とても嬉しそうに。
「ハルディア……! 会いたかったわぁ。あなたに会いたくてここまで来たの。今回ばかりはキーファを信じてよかった!」
「おかしいと思ってたんだ。転移魔法はかなり魔力を使うのに、キーファは日に何度も使って移動を繰り返している。どこかに仲間がいるんだろうとは思っていたが、蛇女だったのか。禁呪まで使って魔物と融合するなんて、本当に底抜けのバカだったんだな」
「やだぁ、あたしのことはスカイラって呼んでよ」
全く褒められていないのに、スカイラは頬に両手をあてて恥ずかしそうに体をくねらせた。ネネさんと同じように黒いローブを着ているから、上半身だけ見ると完全に普通の女性だ。頭に被った三角の帽子には赤いリボンまでつけている。
でもいくら可愛らしい態度を見せても、下半身が蛇の頭なのでどうしても嫌悪感があった。無理。可愛いと思えない。
「こ、公爵様は、あの気持ち悪い奴と知り合いなんですか?」
「あのバカ女は二年前にロイウェルで毒蛇を大量発生させたとんでもない魔法士だ。あいつのせいで一つの街が滅んで死人も山ほど出たんだが、蛇を退治している最中に逃げられてな」
「あれは運命的な出会いだったわよね……。あのときに蛇と戦うあなたを見て確信したのよ。このトキメキは恋だって……。だからあたし、今度こそハルディアを手に入れたいと思って、理想の大蛇を探して世界中を旅したわ。そしてとうとうこの子を見つけたの!」
スカイラが紹介するように両手を広げると、蛇は口から真っ赤な舌を出してチロチロと動かした。
「全然可愛いと思えないペエ。気持ち悪いだけだペ」
「ソーマ、おまえはリノと一緒に洞窟に入れ。あのバカ女は俺にしか興味がないから、おまえ達を追いかけたりはしないはずだ」
「わ、分かりました!」
ハル様が言った通り、スカイラも蛇も、横を通りすぎる爽真と私には目もくれなかった。ただ熱っぽい眼差しでハル様だけを見ている。それが無性に怖かった。
(ネネさん、ハル様……どうか無事で追いかけてきてね!)
私は泣きそうになりながら、爽真の背中でひたすら懸命に祈った。
「ネネリムが心配なのか?」
「心配だペエ。私はキーファが召喚した鬼を見たことがあるペ。本気で怖かったペエ」
「普通は心配なんだろうな。でも俺はなんとなく、ネネリムは勝つような気がする。きっと後から追いかけてくるぜ」
山道の勾配がかなりきつくなってきて、爽真の息が切れている。はぁ、はぁと呼吸するたびに白い息が出る。ふと顔を上げると、雪が積もった木立の向こうに岩山が見えた。
「あの岩山に、聖なる巣に繋がる洞窟が開いているはずだ」
「やったペ……! とうとうたどり着いたペエ!」
「内部は迷路のように入り組んでいるらしい。到着するまで時間がかかるかもな」
「ネネリムとはぐれるかなぁ。合流した方がいいのか……いでっ」
坂を登りきったところで何故かハル様は足をとめ、険しい顔で岩山を睨んでいる。ハル様の背中にぶつかった爽真がおでこをさすりながら一歩横にずれると、岩山に大きな穴が空いているのが見えた。あれが聖なる巣に繋がる洞窟だろうか。
「公爵様、洞窟に入らないんですか?」
「……何かいる」
ハル様は小さな声で言うと、鞘から剣を抜いて構えた。爽真も慌てて剣を抜くと、洞窟からズルズルと奇妙な音が聞こえてくる。何かを引きずるような音だ。十メートル以上離れているのにここまで聞こえるという事は、かなり大きな物かもしれない。
しばらくして音の主は姿を現したけど、私も爽真も信じられなくて呆然とそれを眺めた。
「え……? 人間? 魔物?」
「デッカい蛇だペエ。でも女の人の体がくっ付いてるペエ?」
洞窟から出てきたのは巨大な黒い蛇だった。顎から頭の頂点までは三メートルぐらいの高さで、蛇の頭から女性の上半身が生えている。それがずるり、ずるりと洞窟から出てきているのだ。ものすごく気味が悪い。
「きっ、気持ち悪っ……!」
「やあねぇ。レディに対して失礼でしょう、坊や」
「喋ったペエ!」
「とうとう魔物に成り下がったのか、蛇女」
ハル様が地を這うような声で言うと、蛇女と呼ばれた女性はパアッと顔を輝かせた。とても嬉しそうに。
「ハルディア……! 会いたかったわぁ。あなたに会いたくてここまで来たの。今回ばかりはキーファを信じてよかった!」
「おかしいと思ってたんだ。転移魔法はかなり魔力を使うのに、キーファは日に何度も使って移動を繰り返している。どこかに仲間がいるんだろうとは思っていたが、蛇女だったのか。禁呪まで使って魔物と融合するなんて、本当に底抜けのバカだったんだな」
「やだぁ、あたしのことはスカイラって呼んでよ」
全く褒められていないのに、スカイラは頬に両手をあてて恥ずかしそうに体をくねらせた。ネネさんと同じように黒いローブを着ているから、上半身だけ見ると完全に普通の女性だ。頭に被った三角の帽子には赤いリボンまでつけている。
でもいくら可愛らしい態度を見せても、下半身が蛇の頭なのでどうしても嫌悪感があった。無理。可愛いと思えない。
「こ、公爵様は、あの気持ち悪い奴と知り合いなんですか?」
「あのバカ女は二年前にロイウェルで毒蛇を大量発生させたとんでもない魔法士だ。あいつのせいで一つの街が滅んで死人も山ほど出たんだが、蛇を退治している最中に逃げられてな」
「あれは運命的な出会いだったわよね……。あのときに蛇と戦うあなたを見て確信したのよ。このトキメキは恋だって……。だからあたし、今度こそハルディアを手に入れたいと思って、理想の大蛇を探して世界中を旅したわ。そしてとうとうこの子を見つけたの!」
スカイラが紹介するように両手を広げると、蛇は口から真っ赤な舌を出してチロチロと動かした。
「全然可愛いと思えないペエ。気持ち悪いだけだペ」
「ソーマ、おまえはリノと一緒に洞窟に入れ。あのバカ女は俺にしか興味がないから、おまえ達を追いかけたりはしないはずだ」
「わ、分かりました!」
ハル様が言った通り、スカイラも蛇も、横を通りすぎる爽真と私には目もくれなかった。ただ熱っぽい眼差しでハル様だけを見ている。それが無性に怖かった。
(ネネさん、ハル様……どうか無事で追いかけてきてね!)
私は泣きそうになりながら、爽真の背中でひたすら懸命に祈った。
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