ワンモアチャンス!

物部五十琴

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第一話

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一重の、それも腐った沼の底を覗き込むような小賢しい目。脂ぎった鼻頭には、赤あかと熟したニキビが星座のように群生している。毛虫と見紛うばかりの眉に、手入れを忘れた口髭の、なんと薄汚く卑屈なこと。  鏡を見るたび、私は自分の顔を剥ぎ取りたい衝動に駆られるのであるが、あいにくそれを実行するだけの勇気も、ましてや美学も持ち合わせてはいなかった。

 教室という名の処刑場において、私は「空気」ですらなく、ただの「不潔な染み」に過ぎなかった。女子たちの視線は私を透過し、男子たちとはスマートフォンの光る画面を通じて、かろうじて現世(うつしよ)の言葉を交わすのみ。  私はいつも、ブックカバーという名の鎧で自らを隠し、頁のなかに逃げ込んでいた。国語の試験では赤点すれすれの体たらくでありながら、一流の作家が心血を注いだファンタジーを読んでは、「僕ならもっと、読者の胸を抉るような傑作が書けるのだが」と、自慰にも似た醜悪な妄想に耽(ふけ)るのである。

 怠惰。卑屈。そして、無能。  そんな救いようのない、地獄の底で這いずり回る私を、神という名の気まぐれな審判が見下ろしていた。

「よろしい。ならばお前の、その滑稽で『面白い』とやらいう物語を、ひとつ私に見せてくれ」

 声が響いたと思った瞬間、私の視界からは、あの忌々しくも慣れ親しんだ教室の風景が、溶けるように消え去った。

 ――気がつけば、私は荒野に立っていた。  遮るもののない、寒々とした風が吹き抜ける、見知らぬ世界の真っ只中に。
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