1 / 1
第一話
しおりを挟む一重の、それも腐った沼の底を覗き込むような小賢しい目。脂ぎった鼻頭には、赤あかと熟したニキビが星座のように群生している。毛虫と見紛うばかりの眉に、手入れを忘れた口髭の、なんと薄汚く卑屈なこと。 鏡を見るたび、私は自分の顔を剥ぎ取りたい衝動に駆られるのであるが、あいにくそれを実行するだけの勇気も、ましてや美学も持ち合わせてはいなかった。
教室という名の処刑場において、私は「空気」ですらなく、ただの「不潔な染み」に過ぎなかった。女子たちの視線は私を透過し、男子たちとはスマートフォンの光る画面を通じて、かろうじて現世(うつしよ)の言葉を交わすのみ。 私はいつも、ブックカバーという名の鎧で自らを隠し、頁のなかに逃げ込んでいた。国語の試験では赤点すれすれの体たらくでありながら、一流の作家が心血を注いだファンタジーを読んでは、「僕ならもっと、読者の胸を抉るような傑作が書けるのだが」と、自慰にも似た醜悪な妄想に耽(ふけ)るのである。
怠惰。卑屈。そして、無能。 そんな救いようのない、地獄の底で這いずり回る私を、神という名の気まぐれな審判が見下ろしていた。
「よろしい。ならばお前の、その滑稽で『面白い』とやらいう物語を、ひとつ私に見せてくれ」
声が響いたと思った瞬間、私の視界からは、あの忌々しくも慣れ親しんだ教室の風景が、溶けるように消え去った。
――気がつけば、私は荒野に立っていた。 遮るもののない、寒々とした風が吹き抜ける、見知らぬ世界の真っ只中に。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる