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第2部 犯罪者競技の祭典・東京五輪2XXX
第33話
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「おい! あんた! なんでここに戻ってきてるんだ! 避難は外だろ、外!」
ハヤテが叫ぶ。
しかしエーイチはそれには答えない。表情はやや硬いが、戦うつもりの顔にも見えない。
そのたたずまいは、やや虚ろですらあった。
「ボクの頭にモノを当てるとは、生意気ですね。BF-1、先にあれを始末しましょうか」
「承知いたしました」
黒色巨人が右大腿から銃を取り出す。
引き金を、引いた――。
が、ハヤテも痛む体に鞭打って地面を蹴っていた。
「うあ゛っ!!」
エーイチの前で体を盾にしたハヤテ。胸に着弾の白煙がのぼる。
「お? まだそんな速い動きができたんですか」
KCCの驚愕と感嘆の声。
驚いたのは、かばわれたエーイチも同様だったようだ。
ポカンとした顔をして、ヒーローの背中に声をかけた。
「ヒーロー君、大丈夫?」
「大丈夫だ! つーか戻ってきたらダメだろ! 早く避難してくれ」
黒色巨人を見据え、振り向かないままそう促すハヤテ。
それに対し、エーイチは驚くほど静かな声で言った。
「守る必要は無いさ」
その言葉に、場が沈黙した。
時が止まったのではないかと思われた。
KCCも、黒色巨人すらも、固まっているように見えた。
「……どういうことだ?」
ハヤテが静寂を破る。
「撃たれてもいいってことだよ」
「何言ってるんだ? 撃たれていい人間なんていないだろ」
「いるかもよ?」
「……意味わかんねえよ。たとえ必要無くても俺はみんなを獣機から守る。それが俺の仕事だ」
「そしたら、僕じゃなくて君が撃たれるじゃん」
二人が妙な会話を交わしていると、気を取り直したかのように黒色巨人が発砲した。一発、二発。
「あ゛あっ! あ゛あ゛っ」
ハヤテの体が痙攣し、体がぐらつく。
「やめなって」
「うるせえ! 銃弾くらいいくらでも受けてやる」
そう言いながら、ハヤテは体勢を整える。
が、また黒色巨人・BF-1の発砲――。
「う゛ああっ!」
「ほら。受け続けてると、死ぬよ」
たまらず片膝をついたハヤテだが、すぐ立ち上がった。
「そ、そういう……仕事だ。だから守らせろ。どういう用事で来たのかは知らないけど、避難してくれ」
エーイチがハヤテの背後で、少しの間無言になった。
そこにハヤテが「頼む」とダメ押しする。
大きく息を吐く音が、一つ、ハヤテの耳に届いた。
「君は、ヒーローなんだね」
「見りゃわかるだろ!」
「わかった。行くよ」
ようやく、彼は決意した。
気をつけてね――という言葉のあと、足音が遠ざかっていった。
「あ、行っちゃいましたか」
KCCが、黒い髪を掻く。
「まあいいです。ボクの頭にボールをぶつけたお返しは、代わりにヒーローさんに受け取ってもらいます」
そう言うと、黒色巨人のすぐ横に立ってニヤリと笑った。
「ってことで、よろしくお願いします。BF-1」
大きな黒いメタルの体を、ポンと、まるで人間そのものにしか見えないその手で叩いた。
指示を受けた黒色巨人が発砲する。
直前に、ハヤテは跳躍していた。
その方向は、前ではなく横。視界の端に、手から離れてしまった電子警棒が落ちているのが見えていたのである。
転がりながらそれを広い、銃モードのボタンを押す。
そして黒色巨人がふたたびハヤテに向けた銃の銃口をめがけ、撃った――。
「うお!?」
大きな爆音と、見物していたKCCの声。
黒色巨人の持っている銃が爆発し、四散した。
「見たか! 射撃は得意だぜ」
見事に銃口の中へ弾丸を撃ち込んだハヤテ。
またサッと地面を蹴り、懐に潜り込もうとした。
図体が大きいせいもあり、純粋な俊敏さでは変身後のハヤテに軍配があがる。
黒色巨人は接近戦に持ち込まれまいと、拳でハヤテを遠くへ飛ばそうとした。
だがその拳を素早い読みと動きでかわし、横に回る。
スタンガンモードの電子警棒を、差し込む。
狙うは、やはり首。
全身にブレーカーがあっても、首の関節に差し込めれば脳にあたる部分は停止する可能性が高いためだ。
突き出される電子警棒。
大きなショート音がした。
しかし、惜しくも電子警棒の先は首には届いていなかった。
差し込まれたその先は、右肩の関節。
黒色巨人も首をかばうように動いていたのだ。
ハヤテの体が万全なら、首に差し込めたのかもしれない。だが体からまだダメージが抜けておらず、イメージと実際の動きにわずかな速度差が生じていたようだ。
黒色巨人が反撃のために左腕を振る。ハヤテはそれを後ろに飛んでかわした。
「もうちょっとだったか」
いったん間合いが離れてしまったハヤテは悔しがったが、声は活きていた。
右腕は今の一撃で肩から先が使用不能。ほぼ両腕を封じたと言ってもいい。
左腕もすでに手首から先が開戦直後の一撃で使えなくなっている。今は手を外して大砲のような爆弾発射口の状態だ。手首から爆弾を発射してくる可能性はあるが、その瞬間にその砲口めがけて銃弾を撃ち込み暴発させられる自信はある。
さらに、高みの見物となっているKCCは日焼けした子供の姿のままだ。人間態が崩れるのを嫌がっている節もあるため、すぐに攻撃態勢を取れるとは思えない。
いける――。
勝機があると見たハヤテは、再度地面を蹴った。
(続く)
ハヤテが叫ぶ。
しかしエーイチはそれには答えない。表情はやや硬いが、戦うつもりの顔にも見えない。
そのたたずまいは、やや虚ろですらあった。
「ボクの頭にモノを当てるとは、生意気ですね。BF-1、先にあれを始末しましょうか」
「承知いたしました」
黒色巨人が右大腿から銃を取り出す。
引き金を、引いた――。
が、ハヤテも痛む体に鞭打って地面を蹴っていた。
「うあ゛っ!!」
エーイチの前で体を盾にしたハヤテ。胸に着弾の白煙がのぼる。
「お? まだそんな速い動きができたんですか」
KCCの驚愕と感嘆の声。
驚いたのは、かばわれたエーイチも同様だったようだ。
ポカンとした顔をして、ヒーローの背中に声をかけた。
「ヒーロー君、大丈夫?」
「大丈夫だ! つーか戻ってきたらダメだろ! 早く避難してくれ」
黒色巨人を見据え、振り向かないままそう促すハヤテ。
それに対し、エーイチは驚くほど静かな声で言った。
「守る必要は無いさ」
その言葉に、場が沈黙した。
時が止まったのではないかと思われた。
KCCも、黒色巨人すらも、固まっているように見えた。
「……どういうことだ?」
ハヤテが静寂を破る。
「撃たれてもいいってことだよ」
「何言ってるんだ? 撃たれていい人間なんていないだろ」
「いるかもよ?」
「……意味わかんねえよ。たとえ必要無くても俺はみんなを獣機から守る。それが俺の仕事だ」
「そしたら、僕じゃなくて君が撃たれるじゃん」
二人が妙な会話を交わしていると、気を取り直したかのように黒色巨人が発砲した。一発、二発。
「あ゛あっ! あ゛あ゛っ」
ハヤテの体が痙攣し、体がぐらつく。
「やめなって」
「うるせえ! 銃弾くらいいくらでも受けてやる」
そう言いながら、ハヤテは体勢を整える。
が、また黒色巨人・BF-1の発砲――。
「う゛ああっ!」
「ほら。受け続けてると、死ぬよ」
たまらず片膝をついたハヤテだが、すぐ立ち上がった。
「そ、そういう……仕事だ。だから守らせろ。どういう用事で来たのかは知らないけど、避難してくれ」
エーイチがハヤテの背後で、少しの間無言になった。
そこにハヤテが「頼む」とダメ押しする。
大きく息を吐く音が、一つ、ハヤテの耳に届いた。
「君は、ヒーローなんだね」
「見りゃわかるだろ!」
「わかった。行くよ」
ようやく、彼は決意した。
気をつけてね――という言葉のあと、足音が遠ざかっていった。
「あ、行っちゃいましたか」
KCCが、黒い髪を掻く。
「まあいいです。ボクの頭にボールをぶつけたお返しは、代わりにヒーローさんに受け取ってもらいます」
そう言うと、黒色巨人のすぐ横に立ってニヤリと笑った。
「ってことで、よろしくお願いします。BF-1」
大きな黒いメタルの体を、ポンと、まるで人間そのものにしか見えないその手で叩いた。
指示を受けた黒色巨人が発砲する。
直前に、ハヤテは跳躍していた。
その方向は、前ではなく横。視界の端に、手から離れてしまった電子警棒が落ちているのが見えていたのである。
転がりながらそれを広い、銃モードのボタンを押す。
そして黒色巨人がふたたびハヤテに向けた銃の銃口をめがけ、撃った――。
「うお!?」
大きな爆音と、見物していたKCCの声。
黒色巨人の持っている銃が爆発し、四散した。
「見たか! 射撃は得意だぜ」
見事に銃口の中へ弾丸を撃ち込んだハヤテ。
またサッと地面を蹴り、懐に潜り込もうとした。
図体が大きいせいもあり、純粋な俊敏さでは変身後のハヤテに軍配があがる。
黒色巨人は接近戦に持ち込まれまいと、拳でハヤテを遠くへ飛ばそうとした。
だがその拳を素早い読みと動きでかわし、横に回る。
スタンガンモードの電子警棒を、差し込む。
狙うは、やはり首。
全身にブレーカーがあっても、首の関節に差し込めれば脳にあたる部分は停止する可能性が高いためだ。
突き出される電子警棒。
大きなショート音がした。
しかし、惜しくも電子警棒の先は首には届いていなかった。
差し込まれたその先は、右肩の関節。
黒色巨人も首をかばうように動いていたのだ。
ハヤテの体が万全なら、首に差し込めたのかもしれない。だが体からまだダメージが抜けておらず、イメージと実際の動きにわずかな速度差が生じていたようだ。
黒色巨人が反撃のために左腕を振る。ハヤテはそれを後ろに飛んでかわした。
「もうちょっとだったか」
いったん間合いが離れてしまったハヤテは悔しがったが、声は活きていた。
右腕は今の一撃で肩から先が使用不能。ほぼ両腕を封じたと言ってもいい。
左腕もすでに手首から先が開戦直後の一撃で使えなくなっている。今は手を外して大砲のような爆弾発射口の状態だ。手首から爆弾を発射してくる可能性はあるが、その瞬間にその砲口めがけて銃弾を撃ち込み暴発させられる自信はある。
さらに、高みの見物となっているKCCは日焼けした子供の姿のままだ。人間態が崩れるのを嫌がっている節もあるため、すぐに攻撃態勢を取れるとは思えない。
いける――。
勝機があると見たハヤテは、再度地面を蹴った。
(続く)
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