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第2話
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明日の夜に、また来る。
ダイキと名乗る自称宇宙人の褐色少年は、そう言っていた。
なぜか俺の名前を知っており、代わりに役所に行ってくれるという。
見かけの爽やかさとは裏腹に、あまりにも不気味だった。
願わくば、あれは夢だったということでありますように。
終電で最寄り駅に着き、二階建てアパートの1Kの部屋に帰宅するまでは、そう思っていた。
だが玄関を開けようと鍵を取り出していたら、
「あ、おかえり! タケトさん」
と階段を上がってきた彼に言われ、不思議とホッとする気持ちがあった。
「はい、取ってきたよ」
と言って渡された、住民票の写し。
慎重に見たが偽物などではないようだ。
「聞きたいことや言いたいことはたくさんあるが。まずはありがとう」
ソファーにダイキが座り、俺は彼の前で正座という奇妙な図で、礼を言った。
「へへ。どういたしまして」
そう言って笑う彼。笑顔が爽やかだ。並びのよい白い歯が少し見えた。
彼の格好は相変わらず半ズボンにタンクトップ。色だけ昨日と違う。今日は半ズボンが黒。タンクトップが赤だ。
あらためて見ても見事な褐色の肌。
昨日は気づかなかったが、タンクトップの肩紐の部分。よく見るとタンクトップ焼けが確認できる。
少し下から彼を見るかたちになるので、彼の下半身にも目が行った。
生足。こちらもよく見るとサンダル焼けがある。
何かが化けているのであればこうはならない。何が宇宙人だ。思いっきり地球人だろう――
と突っ込んでよいものかどうか。
それにしても、体毛のない褐色のスネや太ももというものが、こんなにきれいなものだとは思わなかった。
太もも内側と半ズボンの間の空間などに至っては……目が吸い込まれそうだ。
俺はヤバいのだろうか。
晩ご飯はと聞いたら、「宇宙食を食べたので大丈夫」。
帰らなくていいのかと聞いたら、「宇宙に?」。
宇宙人がなぜ地球に来たと聞いたら、「夏休みの自由研究」。
ということで。
子どもの戯言に突っ込む気力は、社畜の俺にはなく。仕方ないので泊まるのは許可した。
俺だけ、食事とシャワーを済ませた。
彼、近くのコンビニ近くにある銭湯で風呂を済ませたらしく、「シャワーもいいや」とのこと。一体どのあたりが宇宙人なのか。
ちなみに、食事は最初から最後までキッチンテーブルの向かいから観察されていた。
「いつも遅い時間に食べてるのに太らないんだね」
「太らない体質みたいだからな。むしろ減っている」
「毎日コンビニ弁当で栄養バランスは大丈夫なの?」
「この時間はコンビニしか開いてないだろ」
「自分で作るのは?」
「そこまでの気力はない。社畜を舐めるな」
質問も頻繁に飛んできて、非常に食べづらかった。
床に布団を、敷く。
「うわこれ気持ちいい」
もちろん布団の上は俺ではなく、彼。
なにやら、床に布団を敷いて寝るのが初めてだという理由で喜んでいるようだ。
俺がその横で、カーペットの上で横になると、
「タケトさんもこっちで寝ようよ。この布団幅広いし大丈夫でしょ。そっち硬そう」
とのクレームをよこしてきた。
「いや、それは一緒に寝ることを意味するだろ……」
「いいじゃん。嫌なの?」
「それはむしろ俺のセリフだ」
「オレ嫌じゃないもん」
「そうか良かったな。おやすみ」
「あー、タケトさんが布団で寝ないならオレも布団で寝ない」
謎の押し切りで、一緒に寝ることに。
「布団、いい匂い」
「いちおう、窓際で布団干しにかけてるからな」
匂いを嗅ぐな、と。
「部屋もきれい……と思ったけど、よく見るとちょっとホコリあるかなあ。物が少ないだけか」
「掃除する時間がなかなかない。社畜を舐めるな」
彼は半ズボンを脱いでおり、ボクサーパンツとタンクトップという姿だ。
そのけしからん姿、および、そのけしからん姿に動揺した自分の頭。
どちらにも衝撃を受けたため、電気を豆電球まで完全に消した。
「……」
目が慣れてくると、カーテンを透過してくる月明かりである程度見えてしまうように。
まずい。目が行く。
右隣で上を向いてすでに寝ているであろう彼の、ボクサーパンツのふくらみに。
そして――。
せっかくわずかな隙間を開けていたのに、彼がこちらに向かってゴロン、と。
「――!」
誤タッチを防ぐため、俺は慌てて右手を横ではなく腹部の上に移した。
が、足を絡められるのを防ぐのは間に合わなかった。
こちらはハーフパンツの寝間着であるため、一部肌が直接触れている。
夏なのに、この温かさが不快でないという事実がまずい。
そして右に視線をやると見える、彼の寝顔。
気持ちよさそうな顔だった。閉じられた目に、柔らかそうなまつ毛。
これ、寝られるのか。
いや寝ないと明日に響くから、頑張って寝るが……。
(続く)
ダイキと名乗る自称宇宙人の褐色少年は、そう言っていた。
なぜか俺の名前を知っており、代わりに役所に行ってくれるという。
見かけの爽やかさとは裏腹に、あまりにも不気味だった。
願わくば、あれは夢だったということでありますように。
終電で最寄り駅に着き、二階建てアパートの1Kの部屋に帰宅するまでは、そう思っていた。
だが玄関を開けようと鍵を取り出していたら、
「あ、おかえり! タケトさん」
と階段を上がってきた彼に言われ、不思議とホッとする気持ちがあった。
「はい、取ってきたよ」
と言って渡された、住民票の写し。
慎重に見たが偽物などではないようだ。
「聞きたいことや言いたいことはたくさんあるが。まずはありがとう」
ソファーにダイキが座り、俺は彼の前で正座という奇妙な図で、礼を言った。
「へへ。どういたしまして」
そう言って笑う彼。笑顔が爽やかだ。並びのよい白い歯が少し見えた。
彼の格好は相変わらず半ズボンにタンクトップ。色だけ昨日と違う。今日は半ズボンが黒。タンクトップが赤だ。
あらためて見ても見事な褐色の肌。
昨日は気づかなかったが、タンクトップの肩紐の部分。よく見るとタンクトップ焼けが確認できる。
少し下から彼を見るかたちになるので、彼の下半身にも目が行った。
生足。こちらもよく見るとサンダル焼けがある。
何かが化けているのであればこうはならない。何が宇宙人だ。思いっきり地球人だろう――
と突っ込んでよいものかどうか。
それにしても、体毛のない褐色のスネや太ももというものが、こんなにきれいなものだとは思わなかった。
太もも内側と半ズボンの間の空間などに至っては……目が吸い込まれそうだ。
俺はヤバいのだろうか。
晩ご飯はと聞いたら、「宇宙食を食べたので大丈夫」。
帰らなくていいのかと聞いたら、「宇宙に?」。
宇宙人がなぜ地球に来たと聞いたら、「夏休みの自由研究」。
ということで。
子どもの戯言に突っ込む気力は、社畜の俺にはなく。仕方ないので泊まるのは許可した。
俺だけ、食事とシャワーを済ませた。
彼、近くのコンビニ近くにある銭湯で風呂を済ませたらしく、「シャワーもいいや」とのこと。一体どのあたりが宇宙人なのか。
ちなみに、食事は最初から最後までキッチンテーブルの向かいから観察されていた。
「いつも遅い時間に食べてるのに太らないんだね」
「太らない体質みたいだからな。むしろ減っている」
「毎日コンビニ弁当で栄養バランスは大丈夫なの?」
「この時間はコンビニしか開いてないだろ」
「自分で作るのは?」
「そこまでの気力はない。社畜を舐めるな」
質問も頻繁に飛んできて、非常に食べづらかった。
床に布団を、敷く。
「うわこれ気持ちいい」
もちろん布団の上は俺ではなく、彼。
なにやら、床に布団を敷いて寝るのが初めてだという理由で喜んでいるようだ。
俺がその横で、カーペットの上で横になると、
「タケトさんもこっちで寝ようよ。この布団幅広いし大丈夫でしょ。そっち硬そう」
とのクレームをよこしてきた。
「いや、それは一緒に寝ることを意味するだろ……」
「いいじゃん。嫌なの?」
「それはむしろ俺のセリフだ」
「オレ嫌じゃないもん」
「そうか良かったな。おやすみ」
「あー、タケトさんが布団で寝ないならオレも布団で寝ない」
謎の押し切りで、一緒に寝ることに。
「布団、いい匂い」
「いちおう、窓際で布団干しにかけてるからな」
匂いを嗅ぐな、と。
「部屋もきれい……と思ったけど、よく見るとちょっとホコリあるかなあ。物が少ないだけか」
「掃除する時間がなかなかない。社畜を舐めるな」
彼は半ズボンを脱いでおり、ボクサーパンツとタンクトップという姿だ。
そのけしからん姿、および、そのけしからん姿に動揺した自分の頭。
どちらにも衝撃を受けたため、電気を豆電球まで完全に消した。
「……」
目が慣れてくると、カーテンを透過してくる月明かりである程度見えてしまうように。
まずい。目が行く。
右隣で上を向いてすでに寝ているであろう彼の、ボクサーパンツのふくらみに。
そして――。
せっかくわずかな隙間を開けていたのに、彼がこちらに向かってゴロン、と。
「――!」
誤タッチを防ぐため、俺は慌てて右手を横ではなく腹部の上に移した。
が、足を絡められるのを防ぐのは間に合わなかった。
こちらはハーフパンツの寝間着であるため、一部肌が直接触れている。
夏なのに、この温かさが不快でないという事実がまずい。
そして右に視線をやると見える、彼の寝顔。
気持ちよさそうな顔だった。閉じられた目に、柔らかそうなまつ毛。
これ、寝られるのか。
いや寝ないと明日に響くから、頑張って寝るが……。
(続く)
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