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第22話 ま、また
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完璧な資料を作ってやる――。
部長の長髪……ではなく禿げ頭の挑発に乗った私。
内定者研修の実施を実現するため、資料を作成することにした。
今まで、企画書の類は作ったことはない。
人事担当者になった際、前任者から引き継ぎを受けたが、これまでは前任者のやったことを単になぞるだけで精いっぱいだった。
そんなこともあり、新しいことを提案するという発想自体がなかったのだ。
「書きまくるぜええ!」
経験はないが、やる気は十分。
書き方の本はある。ネットでもいくらだって調べられる。
詰まることはないだろう。
「アオイさん、掻いちゃダメだよ。色素沈着で痕が残るから」
勘違いしている向かいの席のイシザキくんの声も、耳に入らない。
キーボードを思いっきり叩いて文字を打っていく。
こんなときは、普通のメンブレン方式のキーボードではなく、メカニカル方式のキーボードだといいなと思う。
深く手応えのあるストロークに、派手なカチカチ音。確かな満足が味わえるのに。
作る資料に盛り込む内容は……。
まずは他社の状況だ。
中小企業であっても六割以上が何らかの内定者研修を実施している。
今後も実施企業は増加していくと思われる。
データ的には上場企業であるうちの会社が実施していないというのは不自然だ。
そして実施のメリット。
少しでも即戦力になる新人が欲しい配属先部署と、入社後の不安を少しでもなくしたい学生。お互いにとって得がある。
会社と内定者の間で定期的なやりとりが生じるため、内定辞退を予防する効果もある。
内定者研修の存在自体が企業イメージ向上に寄与するということも見逃せない。
研修の内容。
よくあるものとしては、通信教育と外部のセミナー参加。
毎年数名程度の採用であるうちの会社は、予算的にどちらも実施可能だ。
だからどちらもやればいい。
最後に予算。
これは年度計画に毎年計上している、新卒採用にかかる費用で十分おさまる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
出来たああ!
簡潔に、しかし不足はなく、わかりやすく仕上がった気がする。
我ながら良くできたと思う。
しかし文というものは、少し時間を置いてからもう一度見直したほうがいいとされている。
その場では良い気がしても、あとで読み返したらボロボロ、ということも多々あるためだ。
この日、私は残業せずにすぐに帰り、自分の部屋で資料をもう一度チェックすることにした。
ベッドで寝転がりながら、作成した資料を一枚一枚見ていく。
「うん。わりと読みやすくてまとまってると思うけど」
……いや。
これは私がいいと思っているだけかもしれない。
実際のところはどうかわからない。
私の主観だけで合格と判断するのではなく、ザッとでもいいので誰かに読んでもらったほうがいい。
第三者の客観的な目で「わかりやすい」となって初めて、本当に問題ないと言えるはず。
「誰に頼もうかなー?」
イシザキくん……いや、彼は部内の同僚で戦友。
そして彼はふだん私の文章を目にする機会も多い。
そのため、完全に客観的な視点では読んでもらえない可能性が高い。
資料の出来が多少悪くても、案外スラスラ読めてしまうことが考えられる。
頼むなら他の人のほうがいい。
ここは、新卒で同期入社していた資材購買部のヒルマくんが適任だ。
プライべートで彼にお願いしよう。
彼はイケメンだし仕事もでき、おまけに他の社員にも親切ということで、部内外からの評判も良い。
きっと私の真意をくんでくれ、適切な感想をくれるに違いない。
さっそく電話電話。
しかし。
「ククク。残念だが、協力するわけにはいかないよ。アオイさん」
彼にはそう言われてしまった。
「なんでよ! 同期のよしみでしょ?」
ぜひ協力してほしいと思っている私は、なおも頼む。
だが――。
「同期入社は六人。その中でもキミのプレゼン能力は二番目に高いと思っている……まあ一番目はもちろんボクなんだけどね」
彼は続けた。
「ボクたち若手は社内のニューウェーブ。でもねアオイさん、人には器というものがある。
同期で初めて管理職になり、この会社を背負っていくのは、あくまでもボクでありたいのだよ。キミではダメなんだ。
だからキミの能力がこれ以上向上する可能性があるのであれば、ボクはその芽を摘まなければならない。ククク」
結局、ヒルマくんには断られてしまった。
よく考えれば、忙しい社員にプライベートで無償協力をお願いするなんて虫が良すぎる話だ。
ヒルマくんは親切で寛大だから話だけでも聞いてくれたけど、普通の社員だったら怒鳴られていたかもしれない。
しかしそうなると、困った。
頼める人がいない。
今回の資料作り、失敗すると研修の話自体がポシャってしまう。
念には念を入れなければならないのに。
……。
あ。そうだ。
かくなる上は。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「え? 何ですかこれ」
夜。アパートの扉の前で“紙の束”を渡され、戸惑うダイチくん。
今日は黒のハーフパンツに白いTシャツという姿だ。
「これを読んで、内容がスッと頭に入ってくるかどうか感想を聞かせてほしいの!」
「何で俺に??」
彼の頭の上には、大きなクエスチョンマーク。
「いや、ダイチくんがすらすら理解できる内容なら、きっと良い資料になってるのかなって。
あっ、別にダイチくんをバカにしてるとかそういうのじゃないからね?
ダイチくんは高校生でまだ社会に出てなくて資料とか見慣れてないはずだから、ってこれも何かバカにしてるみたいだね。えーっとぉ……」
「……? よくわかりませんがいいですよ?」
「ほんと? 嘘ついたらハリセンボンの二人飲ますよ?」
「本当です。俺でいいなら」
——!!
「やったー! 味方現る!」
ゴチャゴチャ説明しなくてもオーケーしてくれた。
うれしくて、思わず抱き付いてしまった。
「ちょ、ちょっとアオイさん!」
「ふぎゃああごめんなさいい!」
部長の長髪……ではなく禿げ頭の挑発に乗った私。
内定者研修の実施を実現するため、資料を作成することにした。
今まで、企画書の類は作ったことはない。
人事担当者になった際、前任者から引き継ぎを受けたが、これまでは前任者のやったことを単になぞるだけで精いっぱいだった。
そんなこともあり、新しいことを提案するという発想自体がなかったのだ。
「書きまくるぜええ!」
経験はないが、やる気は十分。
書き方の本はある。ネットでもいくらだって調べられる。
詰まることはないだろう。
「アオイさん、掻いちゃダメだよ。色素沈着で痕が残るから」
勘違いしている向かいの席のイシザキくんの声も、耳に入らない。
キーボードを思いっきり叩いて文字を打っていく。
こんなときは、普通のメンブレン方式のキーボードではなく、メカニカル方式のキーボードだといいなと思う。
深く手応えのあるストロークに、派手なカチカチ音。確かな満足が味わえるのに。
作る資料に盛り込む内容は……。
まずは他社の状況だ。
中小企業であっても六割以上が何らかの内定者研修を実施している。
今後も実施企業は増加していくと思われる。
データ的には上場企業であるうちの会社が実施していないというのは不自然だ。
そして実施のメリット。
少しでも即戦力になる新人が欲しい配属先部署と、入社後の不安を少しでもなくしたい学生。お互いにとって得がある。
会社と内定者の間で定期的なやりとりが生じるため、内定辞退を予防する効果もある。
内定者研修の存在自体が企業イメージ向上に寄与するということも見逃せない。
研修の内容。
よくあるものとしては、通信教育と外部のセミナー参加。
毎年数名程度の採用であるうちの会社は、予算的にどちらも実施可能だ。
だからどちらもやればいい。
最後に予算。
これは年度計画に毎年計上している、新卒採用にかかる費用で十分おさまる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
出来たああ!
簡潔に、しかし不足はなく、わかりやすく仕上がった気がする。
我ながら良くできたと思う。
しかし文というものは、少し時間を置いてからもう一度見直したほうがいいとされている。
その場では良い気がしても、あとで読み返したらボロボロ、ということも多々あるためだ。
この日、私は残業せずにすぐに帰り、自分の部屋で資料をもう一度チェックすることにした。
ベッドで寝転がりながら、作成した資料を一枚一枚見ていく。
「うん。わりと読みやすくてまとまってると思うけど」
……いや。
これは私がいいと思っているだけかもしれない。
実際のところはどうかわからない。
私の主観だけで合格と判断するのではなく、ザッとでもいいので誰かに読んでもらったほうがいい。
第三者の客観的な目で「わかりやすい」となって初めて、本当に問題ないと言えるはず。
「誰に頼もうかなー?」
イシザキくん……いや、彼は部内の同僚で戦友。
そして彼はふだん私の文章を目にする機会も多い。
そのため、完全に客観的な視点では読んでもらえない可能性が高い。
資料の出来が多少悪くても、案外スラスラ読めてしまうことが考えられる。
頼むなら他の人のほうがいい。
ここは、新卒で同期入社していた資材購買部のヒルマくんが適任だ。
プライべートで彼にお願いしよう。
彼はイケメンだし仕事もでき、おまけに他の社員にも親切ということで、部内外からの評判も良い。
きっと私の真意をくんでくれ、適切な感想をくれるに違いない。
さっそく電話電話。
しかし。
「ククク。残念だが、協力するわけにはいかないよ。アオイさん」
彼にはそう言われてしまった。
「なんでよ! 同期のよしみでしょ?」
ぜひ協力してほしいと思っている私は、なおも頼む。
だが――。
「同期入社は六人。その中でもキミのプレゼン能力は二番目に高いと思っている……まあ一番目はもちろんボクなんだけどね」
彼は続けた。
「ボクたち若手は社内のニューウェーブ。でもねアオイさん、人には器というものがある。
同期で初めて管理職になり、この会社を背負っていくのは、あくまでもボクでありたいのだよ。キミではダメなんだ。
だからキミの能力がこれ以上向上する可能性があるのであれば、ボクはその芽を摘まなければならない。ククク」
結局、ヒルマくんには断られてしまった。
よく考えれば、忙しい社員にプライベートで無償協力をお願いするなんて虫が良すぎる話だ。
ヒルマくんは親切で寛大だから話だけでも聞いてくれたけど、普通の社員だったら怒鳴られていたかもしれない。
しかしそうなると、困った。
頼める人がいない。
今回の資料作り、失敗すると研修の話自体がポシャってしまう。
念には念を入れなければならないのに。
……。
あ。そうだ。
かくなる上は。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「え? 何ですかこれ」
夜。アパートの扉の前で“紙の束”を渡され、戸惑うダイチくん。
今日は黒のハーフパンツに白いTシャツという姿だ。
「これを読んで、内容がスッと頭に入ってくるかどうか感想を聞かせてほしいの!」
「何で俺に??」
彼の頭の上には、大きなクエスチョンマーク。
「いや、ダイチくんがすらすら理解できる内容なら、きっと良い資料になってるのかなって。
あっ、別にダイチくんをバカにしてるとかそういうのじゃないからね?
ダイチくんは高校生でまだ社会に出てなくて資料とか見慣れてないはずだから、ってこれも何かバカにしてるみたいだね。えーっとぉ……」
「……? よくわかりませんがいいですよ?」
「ほんと? 嘘ついたらハリセンボンの二人飲ますよ?」
「本当です。俺でいいなら」
——!!
「やったー! 味方現る!」
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うれしくて、思わず抱き付いてしまった。
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「ふぎゃああごめんなさいい!」
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