男子高校生を生のまま食べると美味しい

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落

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第25話 一緒に買い物……

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 私は、モカ系のレイヤード風チュニックワンピース。
 ダイチくんのほうは、スーツを試着する関係でワイシャツを着ていたほうが良いので、学ラン。
 そんな恰好で、土曜日の午前、駅から少し離れた大きな国道を二人で歩く。

 目指すところは、国道沿いにある大きな服屋『洋服の高山』。
 スーツを買うときは、この辺ではこの店が定番だ。



 自動ドアが開いて中に入ると、すぐに店員さんが飛んできた。

「いらっしゃいませ。今日はどのような服をお探しでしょうか?」

 ――うわ。
 とても体格が良い男性店員が出てきた。上にも横にも大きい。
 しかも金髪。
 ダイチくんもびっくりしている。

「えっと。この人のリクルートスーツとネクタイを」
「かしこまりました。ご案内いたします」

 金髪の大男店員に案内され、奥のスーツ売り場へ向かう。

「お客様はお姉様……にしては似ていませんね。彼女さんですか?」

「か、か、かのじょ? いえ私はそういうんじゃ」
「……!」

 そんなことを店員さんに言われ、二人で見合ってしまった。
 そしてすぐに気恥ずかしくなって、顔を逸らしてしまう。

「……? どうかされました?」

 今の二人の関係を聞かれると、困る。

 まだダイチくんは単なる内定者だ。入社予定とはいえ、社外の高校生。
 つまり私はまだ先輩社員にあたるわけでもなく、彼が受けた会社の人事担当者というだけの立場……。

 二人で一緒にスーツを買いにくるという現状を説明するには、圧倒的に不足だ。

 もう一回彼をチラッと見ると。

「……!」

 彼もまたチラッと見てきたのか、また思いっきり目が合ってしまった。
 また二人同時に慌てて顔をそむける。
 うーん、困った。



 結局私もダイチくんもどちらもうまく説明できないまま、スーツ売り場に到着。
 店員さんも空気を読んだのか、ニヤっとしただけでそれ以上の突っ込みはなかった。

「では、このようなものがというようなご希望はありますか?」
「黒で無地のものがいいです。ネクタイは青のもので」

 希望を先に聞かれたので、私はそう答えた。

 昔はリクルートスーツと言えば紺色のものが定番だった。
 しかし現在では黒が主流。
 九割が黒というデータもあるほどだ。

 やはり、世間の高年齢層では「違和感がある」という人はまだ多いらしい。
 ネットなどでも「黒はどうなんだ?」という意見が散見される。
 だが、うちの会社ではもう黒スーツに慣れているのか、突っ込まれることはない。

 しかも、ダイチくんの場合は工場勤務の製造職での採用ということがある。
 うちの会社の工場では、製造職は私服通勤。
 なので、入社するとスーツを着ることはなくなる。
 入社後も仕事で使うということを考える必要はない。

 そうなると、冠婚葬祭でも使える黒スーツがなおさら便利なのだ。
 もちろん無地で、ストライプのものは避けることになる。

 そしてネクタイ。
 派手でなければ特に何でもよいと個人的には思う。

 うちの会社には特にコーポレートカラーがあるわけではない。
 だが、ホームページや会社案内での会社のロゴが濃い青色なので、何となくそれに合わせてみることにした。

「では一度ご試着ください」
「はい」

 店員さんが出してくれたスーツとネクタイを手に、ダイチくんが靴を脱いで試着室に入る。
 そして少しだけ私のほうを見ると、慣れない手つきでカーテンを閉める。

 すぐにカーテンがもぞもぞと動き、ベルトがゴンと落ちる音がした。

 ――脱いだな。

 って、そんなのいちいち頭の中で実況中継しなくていいよ、私?
 店員さんが変なこと言うから意識してしまってヤバい。
 必死に平静を取り戻そうとするが、おかしな焦燥感と緊張感に体がコーティングされるだけで、頭の中は元に戻ってくれない。

 私が復元作業でもがいていると、カーテンがシャーっという音とともに開いた。
 おお、スーツいいんじゃないの? と思ったけれども……。

「あれ? 何でネクタイつけてないの?」

 なぜかネクタイは手に持ったままだった。
 そして彼の口からは、意外な答えが返ってきた。

「あ、はい。つけ方がわからなかったので」

 ……。

「ぷっ。あははは」

 いつも通りヌボーっとした感じで言われたので、なぜか笑ってしまった。

「な、何か面白いですか?」

 今度は少し焦った様子で抗議してきた。
 いつもこのようなときでは、慌てず騒がず言われるがままだったような気がする。
 いや、今まで会ったときはだいたい一対一だった。
 今は第三者が見ている前だから、微妙に状況は違うのかな?

 いずれにせよ、珍しい反応のような気がして、その姿に対してもニンマリしてしまう。
 でも、おかげで頭の中がリセットされて落ち着いた気がする! 感謝。

 ただ……よく考えれば、彼の学校はブレザーではなく学ランが制服。
 そんな学校に通う高校生がネクタイの締め方を知らないというのは、別におかしいことではない。
 笑ってしまうのは失礼だ。

「ごめん。制服が学ランだと普段ネクタイしめないから、知らなくて当たり前なんだけどね。なんかダイチくんが言うと面白くって」
「……そうですか」

 店員さんは特に出しゃばってくることもなく、笑顔で見守っている。
 ガタイは凄いけど、怖い人でなくてよかった。

「えっとね。こんな風にしめるんだよ。覚えといてね」

 ネクタイを受け取り、彼の首に手を回して締め方を説明していく。
 自分からやったことではあるが、距離が近い。

「……」

 彼が少し恥ずかしそうに顔をそむけるものだから。
 だー! また頭の中がさっきの状態に!
 せっかく落ち着いてたのに!
 誰か助けて!



 ネクタイをしめ終わると、スーツとの相性も良かったようで、これで決定となった。
 すそ直しの位置も決まり、彼は元の服に着替えるために、またカーテンを閉める。

 その間、私はまた頭の中の復元作業に追われていたが――。
 そのとき遠くで「いらっしゃいませー」という元気のいい女性店員さんの声が聞こえた。

 他のお客さんが入ってきたようだ。
 私は振り返って店の入口をチラ見した。

 ――!?

 二度見した。

 え!?

 間違いなかった。店に入ってきたのは……
 総務部の向かいの席のイシザキくんと、資材購買部のヒルマくんだった。
 なんでここに!?
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