男子高校生を生のまま食べると美味しい

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落

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第26話 恥ずかしかった

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 オシャレな黒ぶちメガネで、敏腕弁護士風の顔のイシザキくん。
 そして切れ長の瞳を持つ超絶美男子、ヒルマくん。

 二人ともシャツの胸元を開くホスト風の着こなしがビシッと決まって……
 ……と感心している場合ではない。
 そもそも二人はプライベートでも仲が良かったのか?
 ……ということも今はどうでもいい。

 これはピンチだ。
 こちらのスーツ売り場に来ませんように。
 私は手を合わせて祈った、が。

 ぎょええ!
 まっすぐこっちに向かってくる!!

 どうする?

 戦う? 殺る?
 いや、イシザキくんだけならともかく、ヒルマくんは地下格闘技経験者という噂がある。
 さすがにやり合うのは無理だ。

 ここは……隠れるしかない!

 ええと、隠れるところは……ここしかない!
 私は目の前の試着室のカーテンの隙間に飛び込んだ。

(ごめん、ダイチくん! ちょっと匿って)

 試着室の中には、試着していたスーツのズボンをちょうど脱ぎ終わったであろうダイチくんが。
 ワイシャツのサイズが少し小さめであるおかげで、青いボクサーブリーフが見えてしまっている。

「あ、アオイさ――」

 彼の声が意外に大きかったため、慌てて手で口をふさぐ。

(ごめん、ちょっと声をおさえて。会社の人が来ちゃってて、見られたらまずいの)
(……? 何でまずいんですか?)
(一緒にスーツ買ってたとかヤバいでしょ!)
(え? でも俺がカーテン開けなかったらよかっただけの話ですよね?)
(あっ)

 そうだった。

 確かに、私だけ発見される分には何も問題がなかった。
 まだ内定段階の男子高校生と二人でお買い物――その背徳感のせいで慌てすぎてしまった。
 判断ミスだ。

(ごめん。確かにその通りだね)
(どうします?)

 そう聞いてくるダイチくんの顔が、少し赤く染まっている。

(敵は近くまで来てるから、もう出られないよ。このまま籠城しよう)
(わかりました)

 カーテンは閉まっているから、普通に考えればやり過ごせるはず。
 私もダイチくんもだんまりモードでやり過ごすことにした。

「ヒルマくん。さっき、なんかこの辺で大きな声が聞こえなかった?」
「ああ、聞こえたね……ボクを待ち望む世界の声が……」
「うーん、気のせいかな? アオイさんの声に似ていたような」

 外から二人の声が聞こえた。もうすぐ近くまで来ているのだ。
 一段と緊張する私。

(あの)

 そこにダイチくんの声が。

(何?)
(恥ずかしいのでズボンだけ履かせてもらっていいですか?)
(え――)

 あらためて見ると、ダイチくんがとんでもない格好だった。
 ワイシャツに、ボクサーブリーフ。
 そこに飛び込んでしまった私は――

「ふぎゃああ! どう見ても痴女じゃないかああ!」

 あ。
 声が出てしまった。

「ん? 痴女!? そこの試着室かな」
「ククク……世界は痴女ではなく秩序を求めている。ボクが救いの手を差し伸べようではないか」

 そんな声とともに近づいてくる、二つの足音。
 こ、これはやばい――!

 バレる!!

「おっと。お客様方。ここは通すわけにはいきませんな」

 おお!
 金髪の大男店員の声だ。
 これは思わぬところから援軍が現れた。

「その試着室、何か助けを求めるような声が聞こえましたが。大丈夫ですか?」

 イシザキくんが落ち着いた様子で店員に聞いている。

「はい、大丈夫です。何も起きていません」
「何も起きてないようには聞こえませんでしたが」

「フフフ、本当に何もご心配は要りません。
 もしどうしてもここを通りたくば、私の屍を越えてゆくことになります」

 いいぞ店員さん。グッジョブ!

「ククク、死を覚悟した兵士は『死兵』と呼ばれる……。死兵を相手に戦うというのは被害が大きく、兵法としては理に適っていない。
 いいだろう。イシザキくん、今日のところは引き揚げるとしようではないか」

「ご理解いただき感謝申し上げます」

 ヒルマくんが撤退を決断した。引き際が見事だ。
 さすがは同期で最も管理職に近い男!

 二人の足音は去っていった。
 


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 全身脱力状態になってしまった。

「はー、危なかった」
「よかったですね、アオイさん」

 とりあえずは……
 試着室で下半身パンツ姿の男子高校生と一緒に入っているところを目撃されるという、最悪の事態は免れた。
 金髪大男の店員さんに感謝せねば。

「店員さんありがとうー。助かりました」
「フフフ。どういたしまして。中でお楽しみのところを邪魔されたくないと思いましたので」

 なんか誤解しているようだけど、突っ込まないほうがいいのかしら?
 そう思って、お礼を言うだけにとどめておいた。

「さて。では一難去ったところで。この機会に他のアイテムもいかがですか?」

 出た!
 一緒に他のアイテムも勧めてくる作戦だ。
 ここの洋服の高山だけではなくて、どこの店でもそうだけれども!

 相手は私たちを窮地から救ってくれた英雄。
 でもそれとこれとは話が別。
 私は再び全身を警戒モードにし、逃げ切りの準備をする。

「このオープンフィンガーグローブとか使いやすいですよ。どうですか?」
「いえ、間に合ってますので大丈夫です」

「他にもこのストレッチバトルパンツはお勧めです。ご希望があればサイズを――」
「あ、いえ、それも特に必要ないと言いますか、その」

「このファウルカップもどうですか? 男の急所をしっかりガード――」
「いえ! 今回はスーツとネクタイだけで大丈夫ですから!」

 私たちは店員さんを振りほどき、会計を済ませ、店を出た。
 こうやってきっぱりとお断りするのが大切。
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