シンキクサイレン

秋旻

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 教員たちによる説教が終わり、僕と御手洗陽菜(みたらいはるな)は保健室を出た。御手洗は、自分の右手をじいっと見ていた。僕の右手の手のひらから剥がれた皮膚が、御手洗の右手の手のひらにくっついている。どうやら僕の皮膚は、御手洗の皮膚より弱いらしい。右手と右手をくっつけた接着剤を引っ張って剥がすときに、僕の皮膚だけ一方的に彼女の手のひらに持っていかれた。僕の右手には包帯が巻かれたが、彼女の右手はそのままだ。
 御手洗は、自分の右手と僕の顔を交互に見てきた。何かを言いたそうな顔をしていたが、結局何も言わずに、彼女は去っていった。
 彼女は本当に、接着剤の粘着力を確かめるために屋上の手すりに立っていたのだろうか。なぜ手すりにだけでなく、自分の右手にも接着剤を塗っていたのだろうか。いろんな疑問を抱えながら、放課後、僕は家へと戻った。
 彼女に手を握られたときの温かい、やわらかな感触が、家に帰ってからも頭の中に残っていた。誰かと手を握ったのは、小学校以来無い。
 同じフレーズを繰り返す、壊れたレコードのような僕の日常は、彼女、御手洗陽菜によって、変えられようとしていた。
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