シンキクサイレン

秋旻

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 僕は御手洗陽菜の兄・陽介の車の助手席に乗っている。運転しながら陽介は僕に、妹の昔話を聞かせてくれた。
「あいつ、昔から友達作るのが苦手で、クラスで孤立していたんだ。小学校、中学校とイジメを受けていてね。やがて誰とも話さなくなった。だから今まで自分の家に友達が訪ねてくることなんて無かった。」
「…そうだったんですか…」
 彼女が変わり者だということは知っている。でなければ初めて会ったとき、接着剤で自分の手と僕の手をくっつけて、一緒に屋上から落ちるようなことは無かっただろう。
「草居くん、うちの妹を…陽菜をよろしく頼む」
 この先、妹を支えてくれと言わんばかりの陽介の真剣な表情に、僕は黙ってうなずいた。
 家に着いてから、僕は御手洗にメールした。明日からまた学校に来て欲しいことを伝えた。しかし、返信はなかなかこない。
 雨は一晩中、降り続いた。眠れなかった。雨が屋根を打ち付ける音がうるさいわけではなかった。頭から、さっき彼女に抱きつかれたときの衝撃が抜けず、一晩中彼女のことを考えていた。メールも帰ってこない。結局、彼女が学校を休んで部屋に閉じこもっていた理由もわからぬままだ。明日も御手洗は学校に来ないのだろうか。さっき車の中で言われた、陽介からの最後の一言が、頭から抜けない。
『行く』
 朝。気がつくとメールの返信が来ていた。
 
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