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エピローグ
新規 クサイレン
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目が覚めた。もう、永遠に目を覚ますことはないと思っていた。そのつもりで、睡眠薬を大量に飲んだというのに…。
「気がついた?」
聞き覚えがある声だ。ぼやけていた視界が、だんだんとはっきりしてきた。白衣をきた女性。見覚えがある。高校のときの、保健室の女医だ。老けた様子はない。あのときのままの姿がそこにあった。心配そうなまなざしで見つめている。
「ここは…?」
「保健室よ。あなた、御手洗さんと一緒に、屋上の手すりにワイヤーでぶらさがっていたのよ。ワイヤーが切れていたら確実に二人とも死んでたわよ!」
「え…?」
横をみると、御手洗陽菜が眠っている。十三年前に死んだはずの彼女が、当たり前のように眠っている。だんだん意識がはっきりし、今、自分が置かれている状況を認識した。恐ろしく、長い夢を僕はみていたのだ。
それから、御手洗陽菜と僕は、教員達から説教を受けた。当分屋上に近づかないように注意された。さんざん怒鳴られたので、頭が痛い。耳がおかしい。右手がヒリヒリと痛い。手のひらの皮がぼろぼろになっている。彼女もそうだろう。
「今度、接着剤の制作会社に講義の手紙を送ってやろうかしら」
教員達が保健室から去ると、彼女は横でそうつぶやいた。ボロボロになった自分の手のひらをじぃっと見つめた。
「あの…御手洗さん…?」
「え?なんでわたしの名前知ってるの?」
僕が名前を呼ぶと、彼女は不思議そうな顔をした。
「いや、さっき先生がそう呼んでたから」
「そうだったわね。で、何?草居くん…」
「そっちこそなんで僕の名前知ってるんだよ」
「いやだって、さっき先生が言っていたから…」
彼女は、クスリと微笑んだ。それにつられて、僕も笑った。
それから僕と御手洗は、連絡先を交換した。彼女は図書委員で、月曜日と水曜日、金曜日が貸し出し当番だった。毎週、彼女の貸し出し当番の日になると、僕は図書室で本を読む。本のページをめくるたび、接着剤ではがれた手のひらがザラザラと擦れる。そのたびに、貸し出しカウンターにいる彼女と目が合う。目が合うと、彼女がニヤリと笑う。
ようやく、自分の居場所が見つかった気がした。今まで氷のようにひんやりと冷たくなっていた僕の心が、温度を感じ始めるようになった。
それから数ヶ月たって、僕は『シンキクサイレン』と呼ばれている。それはかつての『辛気臭い憐』ではなく『新規 草居憐』という意味であり、生まれ変わった僕のことである。
「気がついた?」
聞き覚えがある声だ。ぼやけていた視界が、だんだんとはっきりしてきた。白衣をきた女性。見覚えがある。高校のときの、保健室の女医だ。老けた様子はない。あのときのままの姿がそこにあった。心配そうなまなざしで見つめている。
「ここは…?」
「保健室よ。あなた、御手洗さんと一緒に、屋上の手すりにワイヤーでぶらさがっていたのよ。ワイヤーが切れていたら確実に二人とも死んでたわよ!」
「え…?」
横をみると、御手洗陽菜が眠っている。十三年前に死んだはずの彼女が、当たり前のように眠っている。だんだん意識がはっきりし、今、自分が置かれている状況を認識した。恐ろしく、長い夢を僕はみていたのだ。
それから、御手洗陽菜と僕は、教員達から説教を受けた。当分屋上に近づかないように注意された。さんざん怒鳴られたので、頭が痛い。耳がおかしい。右手がヒリヒリと痛い。手のひらの皮がぼろぼろになっている。彼女もそうだろう。
「今度、接着剤の制作会社に講義の手紙を送ってやろうかしら」
教員達が保健室から去ると、彼女は横でそうつぶやいた。ボロボロになった自分の手のひらをじぃっと見つめた。
「あの…御手洗さん…?」
「え?なんでわたしの名前知ってるの?」
僕が名前を呼ぶと、彼女は不思議そうな顔をした。
「いや、さっき先生がそう呼んでたから」
「そうだったわね。で、何?草居くん…」
「そっちこそなんで僕の名前知ってるんだよ」
「いやだって、さっき先生が言っていたから…」
彼女は、クスリと微笑んだ。それにつられて、僕も笑った。
それから僕と御手洗は、連絡先を交換した。彼女は図書委員で、月曜日と水曜日、金曜日が貸し出し当番だった。毎週、彼女の貸し出し当番の日になると、僕は図書室で本を読む。本のページをめくるたび、接着剤ではがれた手のひらがザラザラと擦れる。そのたびに、貸し出しカウンターにいる彼女と目が合う。目が合うと、彼女がニヤリと笑う。
ようやく、自分の居場所が見つかった気がした。今まで氷のようにひんやりと冷たくなっていた僕の心が、温度を感じ始めるようになった。
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