従者が記す世界大戦記

わきげストレート

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遺された種

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ここは大森林のどこか。爽やかな風通り抜ける美しい緑に囲まれ、綺麗な空気の中、俺は・・・全速力で巨大な熊から逃げていた。
「しぬ!しぬーーーーっ!!」
なぜこんなことになってしまったのか・・・俺の運命の歯車は2か月前から狂い始めたのだった。

「グラン=カルヒネスト!貴殿に『諜報探索隊』へと異動を申しつける!」
・・・なんだそりゃ?
俺はゴルディア王国第2騎士団第14歩兵隊に所属していたのだが、突然変な部隊へと異動させられた。諜報探索隊がいったい何をする集まりなのか、はたしてこれは左遷なのか昇格なのか、これからどうなってしまうのか、サッパリ何もわからなかった。
とりあえず上官に話を聞くべし。と思い直属の上官を調べたら第2騎士団長の直属だったことには驚いた。騎士団長と話をするなんて、何階級特進すればいいのかわからないくらい俺はペーペーのぺーだったのだから。
騎士団長のニエ=フングルスは気兼ねなくこう言い放った。
「君には大森林を"隅々まで"探索してきてもらいたい。」
「え?大森林って、"あの"大森林ですか?」
「"あの"大森林です。」
ゴルディア王国とウルグイヤ帝国に南北で挟まれたジカの大森林。世界協定によってどこの領土にも定められておらず、立ち入り・居住・資源の流出を禁止されている。
「探索って、なにを探すんですか?」
「とある筋から手に入れた情報ですが、15年前に行方不明となった『聖女アリア』と『最悪の騎士バーロック』が潜んでいるとのことです。彼らを捜して連れてきてもらいたい。」
大森林って、王国の国土の3分の2くらいあるんですけど・・・だが命令とあれば断れない。
「かしこまりました。では、部隊の編成と補給計画など・・・」
ニエ団長は俺の言葉を片手で遮った。
「いや、君1人で行くんです。食料・物資は現地調達。見つからなくても3ヶ月間は帰国禁止ですから。」
「・・・え?」

あの時、どれほど目の前の男を殺してやろうと思ったことか。しかし今はそんなことを忘れて全力で走っている。生きることだけを考え、ひたすら逃げている。
追いかけて来ている熊は異常なほどデカかった。立ち上がれば3メートルはあるのではなかろうか。少しは距離が開いたかな~とふと振り返れば、足元がお留守になってしまった。木の根につっかかり、俺は盛大に転んだ。ゴロゴロと転がり、大木の根元にぶつかり、身体も思考も停まった。
森に入り2ヶ月、コンパスのみを頼りにマップをひたすら埋め歩いた。キノコを食い、蛇を食い、朝露をすすった。その結末がこれか。今まさに巨大な熊が口を開けて襲いかかってくるところだ。無駄だと思いつつも、俺はうつ伏せになり死んだふりをした。息を止め運命を待つ時間は、永遠かと思うほどに長く感じた。


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