<夢幻の王国> サムライドライブ

蒲生たかし

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 第1.5幕 宮大工 村井のきあ

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赤獅子国
赤獅子城の天守閣

「国を豊かにする構成要素。どの世界でも、大体において人の歴史では以下の3つだ。それは『貨幣』『宗教』『技術』」

柴犬のコウが国主の氏康に国造りについて講義をしている。
氏康は説明が長くなると寝る習性があるため、コウは文章を短かめに話し続けた。

国が出来て3日ほどたったが、未だ住民台帳を作成したりとバタバタしており、やっと国造りについての試案を考える余裕が出始めての事だった。
コウには様々な知識やデータがインストールされているので、それを元に氏康が勉強をしている。

「『貨幣』は物やサービスの移動をスムーズにし、『宗教』は死後の世界を保証し精神的な豊かさを満たす。そして『技術』は人々の生活を物理的に豊かにする」
「技術が生活を豊かにする事には同意だ。あのトイレにあるウォシュレットというやつは、一度体験してしまうと、もう無くては生きてはいけぬ」
「まーあれも一応、技術だけれどね……」
「ただな、貨幣と宗教には同意しかねる。貨幣をめぐる醜い争いを俺は絶えずこの目で見てきた」
「だけど他の国とのやり取りに関しては、この貨幣が無くては始まらないよ。それに日々の生活の中で物と物のやり取りは絶対に発生する、貨幣が無くては不便だよ」
「そうか、やはり作らねばならんか。どうにかならぬものかな。何か代わりになる物があればいいんだが」
「まずは貨幣作りだね」
「あと宗教だ。神を敬えなどと、日々暮らしている周りの皆こそ敬うべきだ」
「宗教というのは難しい問題だからね。これに関しては追々整備していった方がいいかな」

さらにコウが続ける。
「更に大事な事、国を維持するためには後2つ対策を取らないといけない」
「まだあるのか」
「まだまだだよ。これはまだ一端だ。で話は戻ると、その2つとは『飢餓』と『疫病』への対策だね」
「つまり農地開墾と医療組織か。本当にやる事が山積みだな」
氏康はゴロンと大の字になり床に寝た。

「やっぱり、誰か文官が必要だね」
コウが外を見てつぶやく。
遠くで鳥が鳴いている。鷹だろうか。

ガバっと氏康が体勢を起こす
「ともかくまずは、皆が住む住居を作らねば! いつまでもこの城で窮屈な思いはさせたくはない」


氏康は村の大工の棟梁を呼んだ。
氏康村の棟梁お名は作左衛門。齢55になるが未だ第一線で活躍している腕利きの大工だ。氏康の居た東城家の本条『笹ケ原城』の築城にもかかわった人間だ。

「分かりました。ただ問題が」
「作業員なら問題ない、皆の問題だから皆で取り組む。当然俺もな。そうだ! オルフェたちにも手伝ってもらおう。狼人たちは凄い力持ちだぞ、多分人10人分くらいは力があるだろう」
「なるほど。それはありがたい。ただそれとは別に問題が」
「どんなだ?」
「釘です」
「釘?」
「約50の家屋を建てる分に十分な釘がありません。皆が持ってきた物を溶かして使っても足らないでしょうし、それだと生活に支障が出ちまう」
「鉄か、なるほどそれは困ったな」

「氏康! いるかぁ!」
その時オルフェが城に来る
「ここにおるぞ!」
天守閣にオルフェと何人かが上がってきた。
「オルフェ。ちょうど今からお前たちの所に行こうと思っていたんだ」
「それより、こいつの治療をしてくれ」
オルフェの側近のサガが血まみれの男を背負って来た。
「誰だこの男は?」
「分からない、森の中で見つけた」

すぐに村の医師が呼ばれた。

オルフェたちが森を探索している時に、この男が血まみれで倒れていたという。
見た目は20代。数珠のようなネックレスをしていて、頭には手ぬぐいが巻かれているが、それも血に染まっていた。
腰には大工道具とみられる物が付けられていた。

城で看病をして数時間後に意識が戻った。

「ここは?」
「赤獅子国だ。俺はこの国の代表を務める、東城氏康だ」
「アカシシ国……?  そうか、東城さん。世話になった様だな。礼を言う。俺の名前は村井のきあ。鞍馬の国で宮大工をしている」
「どうしてあの場所に?」
「覚えていない。俺の国で戦いがあり、気がついたらここにいた」

のきあが周り見渡す。
「どうやら、ここは日本ではないらしいな」
「日本とは?」
不思議な顔をする氏康にコウが説明する。
「どうやら村井さんは、時空のゆがみに落ちたらしい」
「よくわからんが、とにかく村井殿、まずはしっかり静養をしてくれ。話しはその後だ」


数日が経ち、のきあの体調はすっかり良くなった。
「あの状態から、驚異的な回復力だ」
村医師が驚いていた。
「身体は丈夫な方なんでね」
のきあは笑って答えた。

のきあが城から風景を眺めていた。
「建国を始めたばかりでな」
氏康が横にいた。
「どうだ静養がてら国の様子を見に行かぬか。太陽の光と自然の風は身体に良いぞ」
「ああ、行こう」


「ここに村の皆で家を建てるところだ。この国はまだ数日前にできたばかりでな。皆住むところもままならん状態なんだ」
「世話になった礼だ、帰る手段が見つかるまでここで手伝わせてほしい。俺は宮大工だったんだ、協力したい」
「それはありがたい。だがな、問題があってな。今はそれで作業が止まっている。木材は豊富にあるのだが釘が無い」
「なんだ、そんな事か。釘なんて無くても問題はない。『枘』を使えばいい」
「ホゾ? なんだそれは」
「まあ見てなよ」

枘(ホゾ)とは木材を接合する時、互いに凸凹を作りハメる方法で日本伝統の工法だ。凸に当たるのが「ホゾ」で、凹が「ホゾ穴」と呼ばれる。

のきあが手本を見せ、大工たちも要領を掴み直ぐにその手法を体得していった。
のきあの参加で住居作りは一気に加速した。

「ほー、やはり匠の技はほれぼれするな。村井殿。差し入れをもって来た」
作業中のところに氏康がやって来た。
「ありがたい。あと、俺を呼ぶときは『のきあ』でいいよ。東城さん」
「では、俺も氏康と呼んでくれ」
「国主さんにそれはダメだろ」
「いや、皆そう呼んでいる」
「皆が身近な国なんだな、うらやましいよ」
「なんせ、まだできたばかりの国だからな」
氏康は笑った。


住居作りが進む中、獣人たちは村人の生活に溶け込んで行った。
はじめはその見た目や怪力に対して恐々と接していた村人だったが、獣人たちのまっすぐな性格を理解し、村人たちの持ち前の器量の良さも相まって、瞬く間に打ち解けていった。子供たちは一緒に遊ぶ様になった。
中には漁師に志願する者もいて、狼人族のカタオカは陸地で生活をしていた一族で初めて大海原での漁生活を送っていた。


棟梁の作左衛門とのきあを中心に区画が設け、各家の着工が進んでいた。
街を「碁盤の目」とするのきあのアイデアを作左衛門はすんなりと受け入れた。
年長者だが良い物は取り入れる、そんな柔軟性をこの棟梁は持っていた。

何人かの住民はのきあに弟子入りをし、その技術の習得を目指した。
中には獣人の若者もいた。レイルとラスターの兄弟だ。意外手先が器用だった二人はみるみるとのきあの技術を習得していった。大工道具に変わる爪をその身に持っているため、要領さえつかめば飛躍的に大工技術が向上した。


のきあと獣人たちの協力もあり、3カ月もすると立派な城下街が出来ていた。

家の建築様式も様々で、従来の釜戸や囲炉裏のある生活を望む和の建物や、暖炉のある現代的なログハウスを建てた者など、和洋様々な建築が並ぶ面白い街並みが誕生した。

「俺たちの世界では事情があって木を使った建築が難しい状態だったんだが、やっぱり木のぬくもりを持ってこそ家ってもんだよな」
のきあは嬉しそうにそう言った。

家に加え大型の船作りも行われ、漁師たちが沖へと漁に出る事ができるようになった。
一方で農地の開墾も進んでおり、こちらも獣人たちの力ではかどった。


夏が近づいて来たある日。
氏康のものへのきあがやって来た。
「本格的に自分の国に帰り道を探してまわるよ。身体の具合もすっかり良くなったし、何より街づくりも問題は無くなったようだしな」
「そうか。俺としてはずっとこの国に居てもらいたいのだが」
「俺もこの国は好きになったし、できればそうしたいだがね。やはり自分の国の事が心配なんでね」
「そうか、礼を言うぞ。のきあ。お主が来てくれなければこの国の今の状態は無かったからな」
「いや、俺は少しばかり手を貸しただけさ」
「ところで帰る当てはあるのか?」
「中央世界ってところなら俺の国に帰る方法が見つかるかもしれない。探して見るよ」
行こうとするのきあは言うか言わないか迷っている事があった。
だが決心をつけて言ってみた。
「それでな氏康。最後に頼みがあるんだが」
その頼みを聞き氏康は間髪入れずに即答した。
「問題無い。ここはもうのきあにとっても家だと思ってくれ」
「ありがとう。氏康」
のきあは礼を言い、中央世界へのゲートへと向かった。


氏康がオルフェと城が見える丘で話している。
「のきあの件で、他の誰かが我々の国に入って来れる事が分かった。今回は友好的なのきあでよかったが、侵略を目的にやってくる場合もあるかもしれない」
「防衛の必要があるな。私たち狼人族の数名で見回り隊を組織して見て周るよ」

東西南北の要所に物見やぐらを建てられ、狼人が持ちまわりで担当した。


国造りは始まったばかり。
今日も氏康たちは良い国を創るため試案を巡らしている。
赤獅子国にも、夏はもうそこまで来ていた。
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