<夢幻の王国> サムライドライブ

蒲生たかし

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 第7.5章 交通インフラ整備と新たなる娯楽

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サイードの超科学技術で赤獅子国の交通インフラが劇的に進歩した。
彼はこの国に鉄道を敷いたのだ。

「鉄道? 師匠、さすがに線路を敷くだけの人員も資材もこの国にはまだないだろう。ましてや動力源は?」
鉄道の構想を会議で聞いた時、センドリックがサイードに無理じゃないのかと質問をした。
ちなみに今、センドリックは女性の事についてサイードに弟子入りしており「師匠」と呼んでいる。
その事でサイードの子供であるアーディルはセンドリックを軽く軽蔑し始めている。

「線路ってのは物理的な物である必要はないし。何も地上に敷く必要もない。技術があればな」
サイードの不敵な笑い。この国の当主である氏康は鉄道は分からないが、次元を渡る際に「次元船」という超科学の乗り物を経験したので、大方の事には驚かなくなっている。

「という事は地中を進むのか、土竜人族みたいに?」
「そうか、地下鉄か、師匠?」
オルフェの問いにセンドリックも乗っかる。
「それも大変だろう。なんで厳しい方法ばかり考えるんだよお前たちは?」

ポンと膝を叩く氏康。
「なら空を走るのか?」
「そんな訳……」
センドリックが突っ込みを入れる途中にサイードが叫んだ。
「そう、空だよ!」


「半重力を使って列車を空に浮かべて、駅と駅を渡していけばいい」
「空飛んでる鳥には危害はねーのかよ、おっさん」
「おっさん……。問題無い、車体に気流を走らせて、障害物は横に反れる様に設計しておく。当然ぶつかった物自身にもダメージが無いようにな」
「それなら、アタイはいいぜ」
最近国に参加した桜花耀もこの国の会議に参加する様になった。

「制作費はどれくらいかかる想定ですか?」
この赤獅子国の新たなる文官の一人、「七賢子」の財務管理のプリエネが質問をする。
「鉄をある程度もらえればこっちで作っちまうよ。鉄の亀がいたろ、あれを数匹よこしてくれ。」
「鉄の亀ではない、アペシュだ。名前で呼べ。アペシュは渡せんが、取り出した鉄は提供してやる」
ミスル人のライザがこれに答えた。
「という事でアヌビスは使ってもいいよな」
サイードの管理人であり息子のアーディルの方を向く。
「良いでしょう。ただし私も制作に協力します。油断していると国外逃亡を図る恐れがありますから」
「全く、なんでこんなにひねくれて育ったもんかねー」
一同心の中で「お前のせいだ」と力強く思った。

「駅の候補や路線はそっちに任せるぜ。早速俺は列車の機関を作る」
「それは私が取りまとめよう」
「七賢子」の国土交通担当のクレオプロスが担当する事となった。


2日で駅とラインが決定された。住宅地や鳥の群生地や山を避け設定された。
それからたったの3日ほどで空飛ぶ列車が完成。途中サイードとアーディルが技術的な部分で衝突はしたが、何とか折衷案を経蔵が提案して事なきを得た。
駅だけが一番完成が遅れ、7日ほどで主要駅が完成した。

早速、関係者で試運転が実施された。
人柱として開発者のサイード、後は興味がある氏康、オルフェ、センドリックなどが乗車した。
一応の保険として黒竜ジンライが並走する事となった。
「あんな鉄の塊、僕の方が全然凄いけどね」
ジンライはこの列車にすら対抗心を燃やしていた始末だった。皆がワクワクしているのを感じ気に入らなかったのだろう。

テストは何事も起こらず無事に終わった。
最後には等のジンライ自身も人間の姿になり列車に乗って楽しんでいたほどだった。

この空飛ぶ列車に赤獅子国の住民も始めはビクビクしていた様子だったが、乗った者たちの口コミで大いに人気となり、単なる乗車を目的とするだけの客も多く利用した。

この交通インフラの整備により、物流も飛躍的な向上を見せた。

「この国は娯楽が足りん」
ある意味の管理監視生活をしているサイードは娯楽にうえていた。
女遊びは当然禁止。パワードスーツ型の万能AIコンピュータである「アヌビス」も逃走方法の一員となるかもしれないと、限定的にしか使わせてもらえなかった。
そこで協力者で弟子であるセンドリックをたきつけて一つの試みを図った。

「バイク?」
「そうだ、お前の国にもあったんじゃないのか?」
「あったけど、作ってどうするんだよ、師匠」
「レースだよ。この国の連中は真面目過ぎて娯楽が足りてない、そうだと思わないかセンディー」
「確かにな。娯楽は大事だ。俺も前に武道大会を開催して盛り上がったんだよ」
「そうだろう、娯楽だよ娯楽。人生仕事だけじゃあ、乾いちまう。だからよ、お前から東城に進言してくれ、東城が良いと言えばこの国では問題ないんだろう」
「氏康にか、分かったぜ師匠。明日にでも行ってくるわ」
「さすが俺のセンディーだ。じゃあ今日は俺の最高の口説き文句を教えてやる」
「マジかよ師匠」
当然、この会話も息子のアーディルは盗聴している。
「全く、またしょうもない話を始める気か。いい加減寝てもらいたい。しかし、バイクか。まあ、少しくらいの娯楽は許してやりますか」

翌日、センドリックは氏康に許可をもらいに行った。
「面白そうだし、いいんじゃないのか。サイード殿には不自由な生活をしいているし、気晴らしにもいいだろう」
「だよな」
「一応、アーディルにも確認をしてくれ」
「分かったよ。でもよー氏康。師匠がやった事はアレだが、ちょっと厳しすぎるとは思わないか」
「思いません!」
アーディルが部屋に入って来た。
「失礼します氏康さん。センドリックさん、家庭の事情です。口をはさむのは遠慮してもらえますか? これでもこちらはかなり譲歩しているくらいなんですから」
「しかしよ、アーディル。師匠だって、人間なんだ、最低限の人権だって……」
「いいえ、奴はさかりのついたただの鬼畜です。人権はありません!」
「そ、そうか」
センドリックはもう言うまいと決めた。
氏康が仕切りなおす。
「ところでアーディル。サイード殿が」
「バイクを作る件ですね。まあいいでしょう。ただし、今回も私が監視します。最近おとなしいのが逆に怪しい。リストバンドを外す算段をつけているかもしれない」
サイードには逃亡防止用のリストバンドが付けられている。アヌビスの無断起動、次元移動、女性とのわいせつ行為、その他もろもろの行動で爆発する設定がされている。その爆発はサイードの体内限定で起こり、周りには一切危害が無い様にという安全設定がされている。
この「安全設定」に等のサイードのみが大きく反論をした。


許可が出たその日にバイクは完成させた。アーディルはこの作業中は厳重な監視をしていたが特に不自然な点は見受けられなかった。
一輪のバイクで、サイードは「飛天」という名前をつけた。
この国で漢字を少し気に入ったらしい。
バイクは8台作られた。
郊外に全長5kmほどのアスファルトの特製コースも作られた。
そしてサイードの提案でレースを開催する事となった。

メンバーは氏康、オルフェ、センドリック、桜花耀、のきあ、アーディル、参加を嫌がる陽炎、そして製作者のサイード。
この8人でのレースとなった。
休みの日にはメンバーはコースに来て練習をしていた。
陽炎だけはほとんど練習には来なかった。

そして、いざレース当日。
氏康に強引に連れてこられた陽炎もちゃんと連れてこられた。
今回は第0回大会という事で観客も入れずに行なわれた。

シグナルがグリーンになりレースは開始された。


そのレース場から少し離れた次元扉の前。
そこにサイードがいた。
「そろそろレースが開始している時間だな」
サイードは小型のディスプレイを見て、レース場にアーディルがいる事を確認した。
「よし、まんまと俺のホログラムに騙されている様だな。全く面倒に巻き込まれちまったもんだ。しばらく身を隠すか。その前にアヌビス2号機をピックアップしないとな」
次元扉は結界師によって管理がされており、氏康の通行手形が無いと通る事が出来ない。
当然それも偽造済みである。
次元の扉を渡ればリストバンドが爆発して死を招く設定となっているが、それもちゃんと対策済み。一輪バイク飛天を制作する際、安全性向上のためと、バリアを取り付けた。これは簡単に言えば透明な丸い膜がバイク本体を包み、搭乗者の身を護る、エアバックの様の物だ。
この機能に一切の通信を遮る機能も付けている。その試作品で作った携帯用のモデルを一つ持ち出しているのだ。
「この天才の俺のDNAを受け継いでいるとはいえ、所詮子供よ。この俺の知恵には敵うまい」
「その血を受け継いでいるのが僕の恥なんですよ」
サイードが声の方を向くと、アーディルの機械腕に頭を殴られ気を失った。

「覚(さとり)の大悟さんのおかげで心の声がダダ洩れでしたよ。逃走計画なんて筒抜けだったんですから。ホログラム機能くらい直ぐに気が付くに決まってるじゃないですか。僕のバイクにも同じ機能をつけておいたのも見抜けないとは。これが親だと思うと本当に恥ずかしいですね」

こうしてサイードの逃亡計画第1回目はあっけなく終了した。
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