僕らの10パーセントは無限大

華子

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ホームレスのテメさんと、ココアサイダー味の飴と

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「なにお前、また来たの?一瞬本物の入道雲かと思ったわ」

 チリンチリンと、ちーちゃんがくれた鈴をインターホン代わりに何度も鳴らせば、この一軒家の窓はガラッと開く。

 東側の一階に自室を持つユーイチは、窓に手をかけたまま、怪訝な表情を見せてきた。

 対してわたしは、くすっと笑った。

 あはは。入道雲ね。

 ユーイチは毎年夏になると、わたしのおだんごヘアをそうやって呼ぶ。少しルーズさを意識して崩しただんごが、どちらかと言えば入道雲のように見えるらしい。

「また夜の街徘徊してんの?もう八時半だぜ?親にはちゃんと、連絡入れてあんのかよ」

 先ほど五つの質問を矢継ぎ早に放った、川沿いでのわたしのように、ユーイチも計四つの問いを投げかけてきた。
 だけどわたしは、そのうちのひとつにしか答えない。

「お母さんには連絡済み。いいから部屋入れてよ」

 またあ?とユーイチの顔が曇る。わたしはわたしの胸の高さにある窓枠に、両手を乗せた。

「おいおい、毎回こっから入んのかよっ」
「だって玄関までまわるより、こっから入ったほうが早いじゃん」

 そう言って、よいしょと体重を腕に預けようとしたわたしを見て、ユーイチは待ったを入れた。

「ちょい待て待てっ。お前の腕力じゃ絶対無理だから、外にある台使えって」

 その言葉で、わたしは足元に目を落とす。この年季が入ったクリーム色の小さな踏み台は、昔ユーイチとままごと遊びをする時なんかに、よく使っていたものだ。

「いいの?これ土足で踏んじゃって」
「おう、いーよ」
「だってこれ、昔は食卓だったよ?」
「……ままごとのな。って、いつの話してんだよ」

 超昔話じゃん、とツッコまれて、少し笑う。

 踏み台を使って、ユーイチの手も借りて、わたしは彼の部屋へと入っていった。
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