原田くんの赤信号

華子

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原田くんは、変わっている人だ

子猫の話7

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「僕たちが誰かを可哀想だと思っていいのは、その誰かの気持ちを知って、初めてそう思っていいんだ。決して見た目や状況で判断してはいけない。僕たちが誰かに同情するにはまず、コミュニケーションをとること。これが大事」

 だと僕は思っているよ、とエレン先生は付け足した。

「全く同じ状況に追いやられても、その人生を楽しむ者もいれば嘆く者もいる。現にパラリンピックに出ている人々なんて、輝かしい人生じゃないか。挫折もたっぷり味わっているだろうけど、彼らは前を向き続けた。そんな彼らの人生を可哀想だなんて言っちゃいけないよね。物語に出てくる女の子の反省点はね、勝手に子猫を可哀想だと決めつけたことなんだ。子猫は可哀想なんかじゃなかった。ただお母さんを探していただけ。それに気付けなかったから、結局女の子の行動で、子猫が悲しい思いをしてしまったんだね」

 腕時計に目を落としたエレン先生は言った。

「よし、じゃあ子猫の話はこれでおしまい。やっぱり子猫にしておいて良かったよ。子像じゃ現実味がないもんね」

 席を立って、扉を開ける。振り向きざまに、こう言った。

「もしこの中に自分を可哀想だと思うくらいの悲しいことを抱えている子がいるならば、いつだってどこだって僕に話してね。そしたら僕は飛んで行って抱き上げて連れて帰って、頭を思いっきり撫でてハグしながら寝るから」
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