原田くんの赤信号

華子

文字の大きさ
上 下
35 / 101
原田くんは、意地悪な人だ

原田くんとの思い出6

しおりを挟む
「は、原田くん!」

 その日の放課後。教室をとぼとぼと出て行く原田くんの背中を、わたしは追った。校門を出たところで、彼を呼び止める。

「瑠夏……」

 黄色の絵の具を満杯に入れたバケツに浸けたような葉っぱをまとう、イチョウの木の下。赤いパーカーの原田くんの目は、まだちょっと、うさぎみたい。

「あ、あのさ原田くん。わたしにこんなこと言われても迷惑だと思うんだけど……」

 授業中や休み時間、その日のわたしがずっとずっと考えていたのは、原田くんを励ます言葉たち。でも、自分の知恵だけでは足りなくて、エレン先生の言葉を借りることにした。

「辛い時は、明るい未来を想像すればいいんだよ!」

 そう言うと、横顔だった原田くんが、わたしの方に向き直った。

「エレン先生のお話会で、この前教えてくれたの!辛い時の乗り越え方!」

 木々がさわさわと揺れている。原田くんは、静かに聞いてくれていた。

「イマジネーションって大事なんだって!幸せな自分を想像したり、自分ができなかったことができるようになったりするところを思い描くだけで、パワーになるの!」

 なるべく明るい声を意識した。原田くんは、そんなわたしをじっと見ている。

「だから原田くん、楽しくて素敵な未来を想像してみてよ!そうしたら今日よりきっと明日は楽しくなるし、明日よりももっとわくわくする明後日が、絶対にやってくるんだから!」
「素敵な未来……」

 消え入りそうにひとつ、呟いて。原田くんは、ひざから崩れ落ちた。
しおりを挟む

処理中です...