原田くんの赤信号

華子

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原田くんは、意地悪な人だ

原田くんとの思い出7

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「うっうっ……」

 うずくまると同時に、涙する原田くん。わたしの励ましは、どうやら大失敗に終わったよう。ズキンと心が叫んだ音を耳にして、わたしは彼に近寄った。

「原田くん」

 原田くんの目の前でしゃがみ込み、わたしはそっと、彼の頭に手を置いた。

「原田くん、泣かないで。原田くんが泣いてると、なんだかこっちまで悲しくなってきちゃうよ……」

 わたしの目にも、じわじわと込み上げてくる熱いもの。思い出しただけでも泣けるほどの辛い経験を、原田くんはしたのだろう。だけどそれは何だと聞いていいのかわからなくて、わたしはただひたすらに、彼の頭を撫でるだけ。

 しばらくして、徐々に呼吸が落ち着いてきた原田くんは、頭の上にあるわたしの手を掴むと顔を上げる。そしてその手は、彼の頬へ運ばれた。

「あったけぇー……」

 わたしの手のひらには、原田くんが流したばかりの涙がたっぷりとついた。秋風に吹かれた雫たちは、ひんやりとしていて冷たかった。

 手のひらは原田くんの頬。手の甲は原田くんの手のひらの中。わたしの手は今、原田くんでサンドされている状態だ。

「瑠夏ってあったかいな……」

 泣いているのに、微笑む原田くん。

「なんか、和む……」

 わたしが温かいだけで?とは、言わないでおく。

 わたしの手を解放して、すくっと立ち上がる原田くん。続いてわたしも足を伸ばす。彼は赤いパーカーに両手を突っ込んでいた。

「ありがと、瑠夏。なんかちょっと、元気出たよ。俺もエレン先生のお話、今度聞きに行ってみよーかな」

 そう言ってから、そういえば原田くんは、一度も昼休みの図書室を訪れていないじゃないか。

 原田くんとの約束を思い出そうとしたはずなのに、結局わたしの回想は、原田くんのわけのわからない涙で締めくくられた。
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