原田くんの赤信号

華子

文字の大きさ
上 下
92 / 101
原田くんは、諦めない人だ

うそつきな原田くん8

しおりを挟む
 違う違う、違うよ絶対!原田くんの変な話に惑わされちゃだめ!

 原田くんの話を信じないと決めたわたしができること、それは原田くんを否定し続けること。

 はらはらし出した自分を深呼吸で落ち着かせ、きびすを返すわたし。しかしマンションから一歩出たところで、その呼吸が止まりかけた。

「え……?」

 希望の空、青い空。それを一目見ようと上を向けば、そこにはもうそんなもの、存在していなかったから。

 後ずさり、壁にもたれる。足から順に、力が抜けた。

「うそ、でしょう……?」

 その瞬間、ピカッと放たれた強烈な光に目を細めた。先ほどまでとは打って変わり、グレー一色になった空が、ゴロゴロと怒るようにうなり出す。

 うずくまり、腕の中へと顔をうずめる。何も見えない真っ暗な世界が、わたしに恐怖を与えていく。

 うそだうそだ、うそだっ。なんで天気が変わってるの?雷が落ちる話は、原田くんの作り話のはずなのにっ。

 暗闇の中、落雷に遭う自分を想像してゾッとした。「うそだうそだ」を連呼するが、突然の雨に昇降口で途方に暮れていた日の出来事を思い出せば、嘔吐しそうになった。

 言ったろ?すぐやむって。
 焦って帰らなくてよかったな。

 原田くんは天気博士。そう自分でつけた彼の異名なのに、わたしはどうして彼の口から聞かされる雷の話を疑えたのだろう。

 もう原田くんは助けに来ない。彼はわたしを救うことを、諦めたに違いないから。

「原田くんっ……」

 わたしは相当、身勝手な人間だと思う。

「ねえ原田くん、原田くんっ……」

 だってこんな状況に追いやったのは自分自身なのに、まだ原田くんを責めることができるのだから。
しおりを挟む

処理中です...