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まさかの酷評…顔がいいだけじゃダメ?
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レオンは、静かにワイングラスを手に取った。
初めての指名席。
緊張はまだ完全には拭えないが、何とか平静を装う。
カトリーナは扇を閉じ、興味深そうにレオンを見つめている。
「それで? 私を楽しませてくれるのかしら?」
軽く首を傾げながら、挑発するような口調で言った。
レオンは軽く微笑み、ワインを注ぎながら言葉を選ぶ。
「お好みのワインはありますか?」
「そうね…甘めのものが好きよ」
「それなら、こちらのワインがちょうどいいかもしれません。程よい果実味があって、口当たりも滑らかですよ」
手元のワインをカトリーナのグラスに注ぎながら、レオンは営業職時代の経験を活かそうと考えた。
客の嗜好を探り、適切な提案をする。
会話の流れを意識しながら、心地よい時間を提供する。
それは、これまで何度も繰り返してきた接客の基本だった。
だが――
「…そう。でも、あなたって真面目ね」
カトリーナはワインを口に運びながら、退屈そうに言った。
レオンは、一瞬反応に迷った。
(何か…違うのか?)
ワインを勧めること自体は間違っていないはずだ。
しかし、カトリーナの表情は冴えない。
沈黙が落ちる。
気まずさを感じながらも、レオンは話題を変えることにした。
「今日はどこかへお出かけされていたのですか?」
「ええ、友人とお買い物をしていたの。宝飾店を何軒か回ってね」
「素敵ですね。お気に入りのものは見つかりましたか?」
「まあ、それなりに」
淡泊な返事だった。
レオンは内心焦りを感じる。
営業職時代なら、こうした会話をきっかけにして、客の興味を引き出し、購買意欲を高める流れを作っていた。
しかし、ホストの接客はそれとは違うらしい。
単なる会話のキャッチボールではなく、客を“楽しませる”ことが求められているのだ。
(社畜時代の営業トークと、ホストの接客は違う…?)
そう思った瞬間、隣のテーブルから楽しげな笑い声が聞こえた。
視線を向けると、リカルドが客と談笑している。
「でさ、そいつが剣を抜こうとしたんだけど、鞘に引っかかってすっ転んじまってよ!」
「それは面白いわね!」
「だろ? で、俺が助けようとしたら、今度は俺まで転んじまってな」
リカルドは豪快に笑い、客たちも楽しそうに盛り上がっている。
彼は、場の空気を作るのが抜群にうまい。
客が自然と笑える雰囲気を作り出し、自分自身も楽しんでいるように見える。
それが、ホストとしての“魅せる”接客なのかもしれない。
カトリーナはワイングラスを傾けながら、ちらりとリカルドのほうを見る。
そして、ポツリと呟いた。
「…やっぱりリカルド様のほうが楽しいわね」
その言葉が、レオンの胸に突き刺さった。
(くそっ…俺は顔だけのホストなのか?)
拳を握る。
カトリーナの態度は率直だった。
レオンがつまらないと感じたから、そう口にしただけだ。
そこに悪意はない。
だが、それが余計に悔しかった。
自分が“ホスト”として未熟であることを、真正面から突きつけられたような気がした。
カトリーナはワイングラスをテーブルに置き、軽く手を振った。
「ごめんなさいね、レオン様。でも、私は楽しい時間を過ごしたいの」
そのまま、立ち上がる。
そして、店のスタッフに視線を向けると、
「リカルド様を指名するわ」
そう言い残し、カトリーナは別の席へ移動してしまった。
レオンは、呆然とそれを見送るしかなかった。
初めての正式な指名。
だが、それはわずか数十分で終了し、カトリーナの興味はリカルドへと移ってしまった。
「…やられたな」
肩をすくめながら、リカルドがこちらに視線を向ける。
軽く苦笑しながら、片手を上げた。
「悪いな、レオン」
「…いや、リカルドが悪いわけじゃない」
レオンは、自分の拳を握りしめたまま、小さく息を吐いた。
(顔がいいだけじゃ売れない)
それは、頭では理解していたことだった。
しかし、実際にそれを突きつけられると、想像以上に堪えた。
ルミナスに来てから、初めての挫折。
レオンは深く落ち込みながら、静かにグラスの中のワインを見つめた。
初めての指名席。
緊張はまだ完全には拭えないが、何とか平静を装う。
カトリーナは扇を閉じ、興味深そうにレオンを見つめている。
「それで? 私を楽しませてくれるのかしら?」
軽く首を傾げながら、挑発するような口調で言った。
レオンは軽く微笑み、ワインを注ぎながら言葉を選ぶ。
「お好みのワインはありますか?」
「そうね…甘めのものが好きよ」
「それなら、こちらのワインがちょうどいいかもしれません。程よい果実味があって、口当たりも滑らかですよ」
手元のワインをカトリーナのグラスに注ぎながら、レオンは営業職時代の経験を活かそうと考えた。
客の嗜好を探り、適切な提案をする。
会話の流れを意識しながら、心地よい時間を提供する。
それは、これまで何度も繰り返してきた接客の基本だった。
だが――
「…そう。でも、あなたって真面目ね」
カトリーナはワインを口に運びながら、退屈そうに言った。
レオンは、一瞬反応に迷った。
(何か…違うのか?)
ワインを勧めること自体は間違っていないはずだ。
しかし、カトリーナの表情は冴えない。
沈黙が落ちる。
気まずさを感じながらも、レオンは話題を変えることにした。
「今日はどこかへお出かけされていたのですか?」
「ええ、友人とお買い物をしていたの。宝飾店を何軒か回ってね」
「素敵ですね。お気に入りのものは見つかりましたか?」
「まあ、それなりに」
淡泊な返事だった。
レオンは内心焦りを感じる。
営業職時代なら、こうした会話をきっかけにして、客の興味を引き出し、購買意欲を高める流れを作っていた。
しかし、ホストの接客はそれとは違うらしい。
単なる会話のキャッチボールではなく、客を“楽しませる”ことが求められているのだ。
(社畜時代の営業トークと、ホストの接客は違う…?)
そう思った瞬間、隣のテーブルから楽しげな笑い声が聞こえた。
視線を向けると、リカルドが客と談笑している。
「でさ、そいつが剣を抜こうとしたんだけど、鞘に引っかかってすっ転んじまってよ!」
「それは面白いわね!」
「だろ? で、俺が助けようとしたら、今度は俺まで転んじまってな」
リカルドは豪快に笑い、客たちも楽しそうに盛り上がっている。
彼は、場の空気を作るのが抜群にうまい。
客が自然と笑える雰囲気を作り出し、自分自身も楽しんでいるように見える。
それが、ホストとしての“魅せる”接客なのかもしれない。
カトリーナはワイングラスを傾けながら、ちらりとリカルドのほうを見る。
そして、ポツリと呟いた。
「…やっぱりリカルド様のほうが楽しいわね」
その言葉が、レオンの胸に突き刺さった。
(くそっ…俺は顔だけのホストなのか?)
拳を握る。
カトリーナの態度は率直だった。
レオンがつまらないと感じたから、そう口にしただけだ。
そこに悪意はない。
だが、それが余計に悔しかった。
自分が“ホスト”として未熟であることを、真正面から突きつけられたような気がした。
カトリーナはワイングラスをテーブルに置き、軽く手を振った。
「ごめんなさいね、レオン様。でも、私は楽しい時間を過ごしたいの」
そのまま、立ち上がる。
そして、店のスタッフに視線を向けると、
「リカルド様を指名するわ」
そう言い残し、カトリーナは別の席へ移動してしまった。
レオンは、呆然とそれを見送るしかなかった。
初めての正式な指名。
だが、それはわずか数十分で終了し、カトリーナの興味はリカルドへと移ってしまった。
「…やられたな」
肩をすくめながら、リカルドがこちらに視線を向ける。
軽く苦笑しながら、片手を上げた。
「悪いな、レオン」
「…いや、リカルドが悪いわけじゃない」
レオンは、自分の拳を握りしめたまま、小さく息を吐いた。
(顔がいいだけじゃ売れない)
それは、頭では理解していたことだった。
しかし、実際にそれを突きつけられると、想像以上に堪えた。
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レオンは深く落ち込みながら、静かにグラスの中のワインを見つめた。
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