転生したら異世界最強ホストになってました〜お客様の“心”に寄り添う接客、始めます

中岡 始

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巣立ちのとき:ルミナスを去る日

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ルミナスの営業が終わった深夜、いつもならホストたちが軽口を交わしながらスーツを脱ぎ、バックルームに戻る時間。だが、その夜の空気は少し違っていた。店内の照明は落とされ、仄かに光る魔導ランプだけが柔らかく揺れていた。

レオンは、ギルバート店長に呼ばれ、スタッフルームの奥のソファに座っていた。ギルバートは手に小さなグラスを持ち、無言のまま数秒間、グラスの中の水を見つめていた。

「レオン」

その一言で、彼の胸の奥が静かに波打った。

「お前はもう、“与える側”に行け」

静かで、それでもはっきりとした言葉だった。レオンはその意味をすぐに理解した。

「……店を、出ろってことですか」

ギルバートは笑わなかった。ただ、少しだけ頷いた。

「お前がNo.1になったあの日から、もう見えてた。ここはもう、狭すぎるんだ。お前には、“自分の夜”が必要だ」

言葉の重さに、すぐには返せなかった。

ルミナスは、レオンにとってすべてだった。異世界に来て、何もない状態から居場所を得て、仲間を得て、夢の続きを見られた場所だった。

けれど、そうだ。夢は、叶ったときが終わりではない。次を、誰かに見せる番なのだ。

「分かりました」

ようやくそう言えたとき、ギルバートは初めて口元を緩めた。

「ちゃんとお前の“やり方”を見せろ。背中を見て育った連中が、山ほどいる」

その夜遅く、レオンはスタッフ全員を集めた。

アリアス、シオン、ティノ、カイル。彼らもすでに、一人前のホストとしてフロアに立つようになっていた。ほかのホストたちも、レオンの変化に気づいていたのだろう、誰も騒がず、ただ静かに見守っていた。

「俺は、ルミナスを離れることになった」

その言葉が落ちると、わずかな沈黙が流れた。誰もがわかっていた。それでも、実際に聞けば動揺は避けられない。

アリアスが目を見開いたまま、何か言いかけて言葉を呑んだ。シオンは黙ってうつむき、ティノは珍しく黙りこくっていた。カイルは歯を食いしばるように立っていた。

「だけど、これは終わりじゃない。始まりだ。今度は、俺が作る。“心を照らす店”を」

言い終わる前に、後ろから声が飛んだ。

「じゃあ、俺も一緒に行く」

リカルドだった。いつもの軽い調子ではなく、どこかすでに決めていたような口ぶりだった。

「なにが面白いってさ、未知の方がワクワクするだろ?」

その隣で、エルヴィスが肩をすくめながらも一歩前に出た。

「レオン。君が見ている未来に、私も興味がある。貴族でもホストでもない。個としての価値を、この手で示してみたい」

最後にヴォルフガングが、短く言った。

「俺は、守るべき場所を選ぶ主義だ。次の店がそれになるなら、当然ついていく」

何も言わずに立ち尽くしていたレオンは、少しだけ目を細めた。静かに、胸の奥に熱が広がる。

「ありがとう。じゃあ、これは“独立”じゃない。俺たちで、新しい答えを見せるんだ」

その夜、レオンは一人でルミナスのテラスに立った。街は静かだったが、空には魔導灯がぼんやりと浮かび、王都の夜を照らしていた。

この場所から見た景色を、忘れることはないだろう。  
でも、次に目指すのは――もっと遠くの光だ。

「この光を、今度は俺たちが灯す番だ」

誰にも聞こえないような小さな声でそう呟き、レオンは振り返った。  
そして、新たな一歩を踏み出した。  

その足音は、確かに未来へと続いていた。
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