転生したら異世界最強ホストになってました〜お客様の“心”に寄り添う接客、始めます

中岡 始

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開業初日! 満席の夜

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夜が訪れると、王都の中立商業区にあるグラン・ルミナスの前には、静かに人々が列を成していた。

初日。それも開店時間すら明かされていないというのに、噂を聞きつけた貴族や商人、文化人、果ては他国からの使節までが、煌びやかな衣装に身を包み、扉の向こうに灯る光を今か今かと待ちわびていた。

そして、開店の鐘が鳴った。

扉がゆっくりと開くと、魔導クリスタルの光が柔らかく客人たちを迎える。正面には、グラン・ルミナスの象徴たる白大理石の柱。その向こう、吹き抜けの高い天井には、星空を模した魔法投影が広がっていた。

「いらっしゃいませ」

レオンの声が、深く、穏やかにフロアへ響く。その一言で、まるで時間がゆるやかに進み始めたかのようだった。

予約客を先頭に、列をなして人々が店内へと足を踏み入れていく。フロアスタッフたちは慣れた手つきで誘導し、ホストたちはそれぞれの立ち位置に散らばっていく。

レオンは、ひとつ下がったテラス席からその光景を見守っていた。

「……満席、か」

初日で、店はすでに埋まった。しかも、飛び込みの客が溢れ、急遽追加席の対応に追われるほどの混雑ぶりだった。

店内を見渡せば、すでに各ホストがその持ち味を存分に発揮していた。

中央のVIP席では、エルヴィスが王室の高官や文化人を相手に、知的かつ優雅な会話を展開していた。詩や芸術、国際情勢にまで話題が及びながらも、決して重すぎず、会話の芯にあるのは“相手に興味を持ち、敬意を払う”という姿勢だった。

「今宵の星の配置をご覧になりましたか? この季節、この都市でこの星々が並ぶのは、実に百三十年ぶりのことだそうです」

「まあ、そんな偶然が…」文化庁の女性が目を細めて笑った。

その隣では、リカルドが中堅貴族の夫人たちと杯を交わしながら、陽気な口調で笑いを巻き起こしていた。

「いやあ、それでさ、俺の船が丸ごと亀に食われかけてよ! 今思えばホストやってる方が安全かもな!」

「うふふ、何それ! 本当にあったの!?」

「信じるか信じないかは…まあ、お任せするよ」

彼の周囲からは、途切れることのない笑い声が響いていた。

一方で、奥のテーブル席にはヴォルフガングがいた。背筋を正し、まるで騎士のような所作でワイングラスを手渡し、貴族令嬢たちに静かに語りかけている。

「あなたが今夜、安心してここにいられるよう、私はこの席の盾でありたい」

その一言に、少女のように頬を染めた令嬢が微笑む。

「あなたのその言葉、まるで詩のようね」

「詩よりも確かであれるよう、務めております」

その佇まいに、隣のテーブルからも視線が集まり、彼の“騎士ホスト”という名が、すでに口々に囁かれていた。

そして、初めてフロアに立った新人たちの姿もあった。

アリアスは緊張を抱えながらも、ひとつひとつの動作を丁寧にこなし、控えめながらも誠実な受け答えで、客の心を掴んでいた。

「その…お口に合うかどうか、分かりませんが。もし、お好みがあれば…」

「そんなに丁寧に言われたら、どんな飲み物も美味しく感じちゃうわよ」

一方、シオンは口数こそ少ないものの、目配せと所作で相手の感情を読み取り、必要なタイミングで言葉を紡ぐ。

「……お疲れのご様子ですね。肩に、少し力が入っていらっしゃる」

「……分かるのね。驚いたわ」

その落ち着いた気配に、癒やしを感じた客が、またひとり固定客となっていく。

ティノは明るい笑顔で、フロアを軽やかに駆けまわっていた。緊張している客には冗談を交え、居心地の良い空間を自然と作り出す。

「お代わりは? って、あれ、飲んでない? じゃあ今作った方が美味しいってことで、ひとつどうです?」

カイルは備品の補充やワイングラスの回収など、裏方を中心に動きながら、時折ホストとしての顔も見せていた。

「お待たせしました。落ち着いた味のワインをご希望でしたね。少し冷やしてあります」

その誠実な対応が、年配客の間で評判を呼んでいた。

フロアのあちこちから笑い声が上がり、魔導クリスタルの光が客の表情を優しく照らしていた。ドワーフの重鎧を脱いだ戦士が、エルフの女性とワインを楽しみ、猫族の商人がティノにじゃれつくような目で話しかけていた。

人種も立場も違う者たちが、ひとときだけ“心”でつながる場所。まさに、レオンが作りたかった世界がそこにあった。

レオンは、静かにフロアの光景を見つめながら、テラスの欄干に手を置いた。

かつて、社畜として灰色のオフィスで息を詰めていた日々。  
誰にも期待されず、見返す力もなかった自分が。  
今、こんな場所を、こんな仲間たちと、築いている。

「……夢じゃなかったんだな」

そう呟いた声は、小さく、けれど確かに響いた。  
誰かの心に、ひとしずくの光を落とす――その理想が、ついに現実となった夜だった。
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