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ヴォルフガング外伝:誓いの剣とホストの誇り
騎士の背中、ホストの顔
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夜の帳が降りる頃、グラン・ルミナスの一日は華やかな輝きをまとって動き出す。
魔導クリスタルが灯る店内には、今日も貴族や富裕層の笑顔が揺れていた。
その喧騒の中、ヴォルフガングはルーチン通り、警備チェックと接客準備を終え、フロアの端に立っていた。
ホストとしての顔を持ちながら、彼は今もどこか“守る者”としてこの場所に存在している。
いつでも剣を抜けるような、だが抜くことはしない強さ。それが彼の背に漂う気配だった。
そのときだった。
シオンが小さく眉を動かし、受付端末に目をやった。
ヴォルフガングも歩み寄り、来店客リストを確認する。
「セレスティア・ユリィ」
たったそれだけの名前。
だが、心臓が一拍遅れて鳴った。
目の前の光景が少しだけ遠のいた気がした。
そんな名前、ありふれている。仮名だろう。
だが――その音の並び。
口に出さなくとも、彼の中でひとつの答えがすでに出来上がっていた。
「まさか……いや」
フロアの扉が静かに開いた。
一歩、また一歩。
客席を見回すように歩くその姿は、かつてヴォルフガングの守っていた少女とは全く異なる風貌をしていた。
あのころより背は伸び、仕草には余裕があった。
髪はまとめられ、控えめな銀細工の髪飾りが揺れている。
けれど――その瞳だけは、変わっていなかった。
氷のように澄んだ碧。
幼いころから感情がにじむたび、少しだけ濡れるように揺れた、あの瞳。
「……セレスティア」
声には出さなかった。
ただ心の内で呟いた。
彼女はヴォルフガングを一瞥もせず、むしろ誰にも特別な視線を向けることなく、静かにフロアを見回していた。
表情に微笑みを浮かべてはいたが、それはどこか作られたものだった。
その笑みを、彼は知っている。
ユルグレイヴ家が徐々に権力を失っていたあの時期、セレスティアは公の場で何度もその顔を使っていた。
凛とした佇まいの奥で、恐れや迷いを押し殺し、誰にも気づかせず笑っていた。
それを一度でも知ってしまえば、この場の誰もが騙されるだろうが――ヴォルフガングだけは違った。
「どうして……今になって」
思考が交錯する。
いや、違う。
“なぜ”ではない。
“何を背負ってここへ来たのか”――それを、彼は知りたかった。
接客リストには、彼女の指名は入っていなかった。
それどころか、他のホストとの会話も避けている。
ただ、この店を“視る”ように、フロアを一周し、静かに席に腰を下ろした。
水だけを注文し、ゆっくりとグラスに口をつける。
その動作すら、まるで試されているような気がした。
「あなたの今を、私は見に来た」
そう言われている気がして、ヴォルフガングは無意識に右手を握った。
だが、それ以上は動かなかった。
近づくことも、声をかけることも――しなかった。
今さら何を言えばいい。
かつて彼女の“盾”であった自分が、今は接客業に身を投じている。
誓いを破った者が、どの面を下げてその前に立つというのか。
俺はもう、あの人を護る資格も、仕える資格もない。
過去は取り戻せない。
護れなかった日々も、失われた誇りも。
それでも今、彼はこの場所で“誰かの心を守る”ために生きている。
剣の代わりに言葉を使い、盾の代わりに微笑みで包む。
その在り方を、信じてきた。
だが――
それでも、彼女の前では、何もかもが揺らいでしまいそうになる。
ヴォルフガングは静かに背を向けた。
そして、店の奥へと歩き出す。
セレスティアが彼を見ていたかどうかは、わからなかった。
けれど、彼女の瞳の奥に、ほんのわずかに懐かしさの色がにじんでいたことに――彼だけは、気づいていた。
魔導クリスタルが灯る店内には、今日も貴族や富裕層の笑顔が揺れていた。
その喧騒の中、ヴォルフガングはルーチン通り、警備チェックと接客準備を終え、フロアの端に立っていた。
ホストとしての顔を持ちながら、彼は今もどこか“守る者”としてこの場所に存在している。
いつでも剣を抜けるような、だが抜くことはしない強さ。それが彼の背に漂う気配だった。
そのときだった。
シオンが小さく眉を動かし、受付端末に目をやった。
ヴォルフガングも歩み寄り、来店客リストを確認する。
「セレスティア・ユリィ」
たったそれだけの名前。
だが、心臓が一拍遅れて鳴った。
目の前の光景が少しだけ遠のいた気がした。
そんな名前、ありふれている。仮名だろう。
だが――その音の並び。
口に出さなくとも、彼の中でひとつの答えがすでに出来上がっていた。
「まさか……いや」
フロアの扉が静かに開いた。
一歩、また一歩。
客席を見回すように歩くその姿は、かつてヴォルフガングの守っていた少女とは全く異なる風貌をしていた。
あのころより背は伸び、仕草には余裕があった。
髪はまとめられ、控えめな銀細工の髪飾りが揺れている。
けれど――その瞳だけは、変わっていなかった。
氷のように澄んだ碧。
幼いころから感情がにじむたび、少しだけ濡れるように揺れた、あの瞳。
「……セレスティア」
声には出さなかった。
ただ心の内で呟いた。
彼女はヴォルフガングを一瞥もせず、むしろ誰にも特別な視線を向けることなく、静かにフロアを見回していた。
表情に微笑みを浮かべてはいたが、それはどこか作られたものだった。
その笑みを、彼は知っている。
ユルグレイヴ家が徐々に権力を失っていたあの時期、セレスティアは公の場で何度もその顔を使っていた。
凛とした佇まいの奥で、恐れや迷いを押し殺し、誰にも気づかせず笑っていた。
それを一度でも知ってしまえば、この場の誰もが騙されるだろうが――ヴォルフガングだけは違った。
「どうして……今になって」
思考が交錯する。
いや、違う。
“なぜ”ではない。
“何を背負ってここへ来たのか”――それを、彼は知りたかった。
接客リストには、彼女の指名は入っていなかった。
それどころか、他のホストとの会話も避けている。
ただ、この店を“視る”ように、フロアを一周し、静かに席に腰を下ろした。
水だけを注文し、ゆっくりとグラスに口をつける。
その動作すら、まるで試されているような気がした。
「あなたの今を、私は見に来た」
そう言われている気がして、ヴォルフガングは無意識に右手を握った。
だが、それ以上は動かなかった。
近づくことも、声をかけることも――しなかった。
今さら何を言えばいい。
かつて彼女の“盾”であった自分が、今は接客業に身を投じている。
誓いを破った者が、どの面を下げてその前に立つというのか。
俺はもう、あの人を護る資格も、仕える資格もない。
過去は取り戻せない。
護れなかった日々も、失われた誇りも。
それでも今、彼はこの場所で“誰かの心を守る”ために生きている。
剣の代わりに言葉を使い、盾の代わりに微笑みで包む。
その在り方を、信じてきた。
だが――
それでも、彼女の前では、何もかもが揺らいでしまいそうになる。
ヴォルフガングは静かに背を向けた。
そして、店の奥へと歩き出す。
セレスティアが彼を見ていたかどうかは、わからなかった。
けれど、彼女の瞳の奥に、ほんのわずかに懐かしさの色がにじんでいたことに――彼だけは、気づいていた。
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