転生したら異世界最強ホストになってました〜お客様の“心”に寄り添う接客、始めます

中岡　始

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ヴォルフガング外伝：誓いの剣とホストの誇り

仕組まれた夜

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その夜、グラン・ルミナスの空気には、わずかにひどく微細な“ひずみ”が混ざっていた。

ホストたちはそれぞれの席で接客に集中し、客たちも優雅に夜を楽しんでいた。
だが、シオンだけは違和感に気づいていた。

いつもの常連客とは微妙に異なる立ち居振る舞い。
視線の流れ、立ち位置、手の動き。
シオンの目は、どこか硬質な“動きの不自然さ”を逃さなかった。

（何かがおかしい。動きが…護身術を心得た者のそれだ）

彼は視線を逸らさぬまま、すぐそばにいたティノの背中を軽く叩く。
何事かを察したティノは、ほんの数秒で事務室に駆け込み、警備担当のリレー連絡を始めた。

数分後、店の奥の一角、空いていた個室でヴォルフガングは異常発生の報告を受けた。

「目撃された二人、動きが一致しています。配置図から見て、セレスティア様がいる席が……標的です」

その一言に、ヴォルフガングの中の何かが切り替わった。

今夜、セレスティアは珍しく指名を入れていた。
ヴォルフガングの名を。
それは、過去を越えて少しずつ築いてきた“信頼”の、最初の形だった。

彼女の前に何かが迫っている──
そう思った瞬間には、彼はもう動き出していた。

廊下を駆ける足音。
数年前までは、鎧の重量で鳴っていた音。
今はスーツの革靴が奏でる音へと変わっていた。
だが、その奥にあるものは変わらない。
守るための意志。命を賭して、誰かを守ると決めた心。

フロアに戻った彼の目が、すぐに“異物”をとらえた。

黒の上衣に白い仮面──客に紛れていたその男が、腰に仕込んだ細剣に指をかける。

ヴォルフガングの身体が、雷のように反応した。

「セレスティア様、下がってください！」

声を上げながら、彼は飛び込むようにしてその前に立ちはだかった。
刃が閃いた。
魔導で強化された細剣は、並の防具なら易々と貫く。

だが、彼は身をもって受け止めた。

革のインナーベストに弾かれた刃先が浅く左肩をかすめる。
痛みはある。だが問題ない。

「その刃が向けられる先を、見誤ったな」

ヴォルフガングの一喝と同時に、背後から護衛隊が突入する。
結界が張られ、侵入者たちはたちまち拘束された。

騒ぎに気づいた客たちは一時的に動揺するが、スタッフが迅速に誘導を行い、混乱は最小限に抑えられた。

セレスティアは、ヴォルフガングの背中越しにすべてを見ていた。

彼が立っていたその姿──
それは、かつて自分を守ってくれた“あの騎士”の姿に他ならなかった。

やがて、騒動が落ち着いた後、ヴォルフガングは改めて彼女の前に向き直る。
軽く血がにじむ肩に、彼女がハンカチを差し出す。
その手に触れず、彼はゆっくりと言った。

「俺はもう、剣を抜く理由を見失ったと思っていました。
ですが今……ようやく思い出しました」

彼の声は低く、静かだった。
だがそこに宿る決意は、かつて騎士であった頃よりも、はるかに強く、深かった。

「あなたを守る。それが、“今の俺の仕事”です」

セレスティアは、何も言わなかった。
ただ、その言葉を静かに受け止めるように、深く頷いた。

ヴォルフガングの中にあった空白。
それは、今この瞬間、ようやく埋まったのかもしれなかった。

剣を置いた夜から、長い時間が経っていた。
だが、盾は失われていなかった。

ただ、形を変え、新たな意味を持って戻ってきたのだ。

誰かのために立ちふさがるということ。
それは、騎士であっても、ホストであっても、変わらない本質だった。

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