転生したら異世界最強ホストになってました〜お客様の“心”に寄り添う接客、始めます

中岡 始

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ヴォルフガング外伝:誓いの剣とホストの誇り

別離と決意

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朝焼けに染まる王都の空は、静かだった。  
グラン・ルミナスの屋上テラスに立つふたりの影が、薄明の光の中に浮かび上がっている。  
騒がしくも華やかな夜を生きるこの場所にとって、朝は特別な時間だった。  
眠りにつく人々が増えるなかで、まだ眠らない者たちのための、静かな余白。

「明日、王都を離れます」

セレスティアの言葉は、風に乗って穏やかにヴォルフガングの胸に届いた。

彼女の視線は空のかなたに向けられていた。  
その横顔は、ただ美しいだけではなかった。  
強さと、覚悟と、そしてなによりも“自由な意志”がそこにあった。

「お戻りになるのですか。ユルグレイヴの名の下に」

問いながら、ヴォルフガングは無理に言葉を整えた。  
去来する思いはあまりに多く、すべてを語るには短すぎる朝だった。

「ええ。でも、昔のように“名のため”ではありません」  
セレスティアは微笑んだ。  
その微笑みは、彼の胸に安堵を灯すものだった。

「私は、貴族としてではなく、私として生きていきたい。  
命令を受けるだけの人間ではなく、誰かを守る言葉を持つ人間として」

その声に、かつての“仕える対象”ではない、新たな敬意を感じた。  
そしてその在り方こそが、彼女が本当に望んでいた姿なのだと、ヴォルフガングは知る。

「騎士とは、命じられた義務に殉ずる者だと、昔は思っていました」

彼はゆっくりと、かつての自分の輪郭を言葉にするように語った。

「ですが、ホストになってから気づいたんです。  
心に寄り添い、誰かの弱さを支えるその行為こそ、剣よりも難しい。  
それでも、そこにこそ誇りがあるのだと」

セレスティアは、彼を正面から見つめた。

「あなたの誓いは、剣よりもずっと強いものだったのね」

その一言に、ヴォルフガングの胸が静かに震えた。  
誰かのために剣を構えていた日々よりも、今の自分の方が“強い”と、ようやく認められた気がした。

「俺の盾は、あなたの言葉で強くなった。  
それを失った時よりも、今の方が、確かに誰かを守れている」

そう言って、彼はゆっくりと頭を下げた。  
それは、かつての主に対する礼ではなく、ひとりの対等な人間としての敬意だった。

「ありがとう、ヴォルフガング。あなたに会えてよかった」

彼女の声は、もう振り返らない旅立ちのものだった。  
それでも、どこか温かく、穏やかだった。

「これからも、守るのでしょう?」

「ええ。俺の信じる人々と、彼らの“夜”を」

セレスティアが歩き出す。  
その背中を見送るヴォルフガングの姿に、もう後悔の影はなかった。

剣を置いた日も、心が揺れた日も、今日というこの瞬間に至るための道だった。  
そして、その道を歩いた自分自身を、今なら胸を張って肯定できる。

風が吹き抜ける。  
遠くで誰かの笑い声が聞こえた。  
それは、始まったばかりの朝が運んできた、新たな命の気配だった。

ヴォルフガングは静かにその風を受け止めながら、背を伸ばした。

かつての騎士ではない。  
だが、誰よりも誇り高く、“誰かのために立つ者”として。

彼の一日が、また始まる。

それは剣のない戦場で、盾を掲げる者の誇りに満ちた、新しい夜の始まりだった。
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