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ティノとシオンのホスト研修録
教え方、ぶつかり方
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グラン・ルミナスの午後、研修室には柔らかな魔導灯が灯り、まだ営業前の静かな時間が流れていた。三人の新人ホスト候補――リューク、ライナス、エルが並んで座り、その前には研修係のティノとシオンが立っていた。
この日の研修テーマは「初対面の接客対応」。新人たちにとっては最も重要な基礎であり、同時に最も緊張する課題でもあった。
ティノがにこやかに言う。
「まずは笑顔だな! 顔がこわばってると、お客さんも構えちゃうから。ほら、こうやって――」
彼は自分の笑顔を手本に見せ、リュークやライナスの肩を軽く叩いてリラックスさせようとする。リュークはつられて笑い、ライナスもぎこちないながら微笑もうと努力していた。
だが、その横でシオンは眉をひそめていた。
「笑顔は大切ですが、それだけでは不十分です。接客時の立ち位置、目線、声のトーン、それぞれ意識していなければなりません」
ティノが少し肩をすくめる。
「まあまあ、まずは雰囲気から入ってもいいじゃん。楽しくやらないと覚えにくいだろ?」
「楽しいだけでは意味がありません。これは“仕事”です。場当たり的な対応では、客から信頼は得られません」
静かに、しかし確実に温度が上がっていく。
ティノがやや苛立った表情を浮かべる。
「じゃあ、ずっと堅い顔で教えるのが正解なのか? せっかく来てくれた新人に、窮屈な思いをさせてどうするんだよ」
「それは…必要な緊張です。初期の誤った習慣は、後になって修正が困難になります」
そのやりとりを見ていたライナスが、小さくつぶやいた。
「……なんだか、どっちが正しいのかわからなくなってきたな」
その声を聞いたティノが、反射的に口を開いた。
「そりゃそうだよな。誰かが“正解”って押しつけるより、自分で考えてもらった方が――」
「その“自由”が、時に客を傷つけることもあると知るべきです」
その瞬間、空気がはっきりと険悪に変わった。
「おい、シオン。お前はさ、“間違えることを恐れすぎ”なんだよ!」
「そして君は、“責任を軽く見すぎ”です!」
怒声ではなかった。だが、研修室の空気は明らかに凍りついた。
ティノとシオンのすれ違いは、これまで何度も小さな衝突として現れていたが、このとき初めて、真正面からぶつかってしまった。
沈黙の中、ライナスが力なく笑った。
「……俺、向いてないかもしれないな、ホスト」
その言葉が、場の全員の胸に刺さった。
リュークもエルも言葉を発せず、ただじっとライナスを見ていた。彼はうつむいたまま、小さく息を吐いた。
「人を楽しませたいって気持ちはある。でも、どうすればいいかわからなくて。指摘されるたびに、自分が“ズレてる”って思わされて……どんどん、怖くなってくる」
それは、ティノにも、シオンにも思い当たる記憶だった。
ティノは、かつて何もできず、ただ場を盛り上げようと空回りしていた夜を思い出した。シオンもまた、人とどう向き合えばよいのか分からず、言葉を閉ざしていたあの頃を思い出す。
だが、今の彼らは“教える側”だった。新人に寄り添うはずの立場だった。
それなのに――と、ティノは唇を噛んだ。
「ごめんな、ライナス。ちょっと、俺らが熱くなりすぎた」
「……私も、言葉を選ぶべきでした」
シオンの声は、わずかに低く、それでいて真摯だった。
研修はそのまま中断され、フロアに静けさが戻った。だが、ふたりの胸の中には、それぞれの“未熟さ”と“覚悟”が、静かに芽生えていた。
まだ道の途中。けれどそれは、彼らが「教える者」になるために必要な、通過点だった。
この日の研修テーマは「初対面の接客対応」。新人たちにとっては最も重要な基礎であり、同時に最も緊張する課題でもあった。
ティノがにこやかに言う。
「まずは笑顔だな! 顔がこわばってると、お客さんも構えちゃうから。ほら、こうやって――」
彼は自分の笑顔を手本に見せ、リュークやライナスの肩を軽く叩いてリラックスさせようとする。リュークはつられて笑い、ライナスもぎこちないながら微笑もうと努力していた。
だが、その横でシオンは眉をひそめていた。
「笑顔は大切ですが、それだけでは不十分です。接客時の立ち位置、目線、声のトーン、それぞれ意識していなければなりません」
ティノが少し肩をすくめる。
「まあまあ、まずは雰囲気から入ってもいいじゃん。楽しくやらないと覚えにくいだろ?」
「楽しいだけでは意味がありません。これは“仕事”です。場当たり的な対応では、客から信頼は得られません」
静かに、しかし確実に温度が上がっていく。
ティノがやや苛立った表情を浮かべる。
「じゃあ、ずっと堅い顔で教えるのが正解なのか? せっかく来てくれた新人に、窮屈な思いをさせてどうするんだよ」
「それは…必要な緊張です。初期の誤った習慣は、後になって修正が困難になります」
そのやりとりを見ていたライナスが、小さくつぶやいた。
「……なんだか、どっちが正しいのかわからなくなってきたな」
その声を聞いたティノが、反射的に口を開いた。
「そりゃそうだよな。誰かが“正解”って押しつけるより、自分で考えてもらった方が――」
「その“自由”が、時に客を傷つけることもあると知るべきです」
その瞬間、空気がはっきりと険悪に変わった。
「おい、シオン。お前はさ、“間違えることを恐れすぎ”なんだよ!」
「そして君は、“責任を軽く見すぎ”です!」
怒声ではなかった。だが、研修室の空気は明らかに凍りついた。
ティノとシオンのすれ違いは、これまで何度も小さな衝突として現れていたが、このとき初めて、真正面からぶつかってしまった。
沈黙の中、ライナスが力なく笑った。
「……俺、向いてないかもしれないな、ホスト」
その言葉が、場の全員の胸に刺さった。
リュークもエルも言葉を発せず、ただじっとライナスを見ていた。彼はうつむいたまま、小さく息を吐いた。
「人を楽しませたいって気持ちはある。でも、どうすればいいかわからなくて。指摘されるたびに、自分が“ズレてる”って思わされて……どんどん、怖くなってくる」
それは、ティノにも、シオンにも思い当たる記憶だった。
ティノは、かつて何もできず、ただ場を盛り上げようと空回りしていた夜を思い出した。シオンもまた、人とどう向き合えばよいのか分からず、言葉を閉ざしていたあの頃を思い出す。
だが、今の彼らは“教える側”だった。新人に寄り添うはずの立場だった。
それなのに――と、ティノは唇を噛んだ。
「ごめんな、ライナス。ちょっと、俺らが熱くなりすぎた」
「……私も、言葉を選ぶべきでした」
シオンの声は、わずかに低く、それでいて真摯だった。
研修はそのまま中断され、フロアに静けさが戻った。だが、ふたりの胸の中には、それぞれの“未熟さ”と“覚悟”が、静かに芽生えていた。
まだ道の途中。けれどそれは、彼らが「教える者」になるために必要な、通過点だった。
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