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ティノとシオンのホスト研修録
夜を照らすのは、君たちだ
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季節の風が少しずつ温もりを含みはじめた夜、グラン・ルミナスでは特別なイベントが開催されていた。
店内は柔らかな灯りに彩られ、春を迎える装飾が細部にまで施されていた。テラスには花が咲き誇り、ホストたちはそれぞれ、普段よりも少し華やかさを増した衣装に身を包んでいた。
その夜、主役を任されたのは――新人のリューク、ライナス、エルの三人だった。
ティノとシオンは、裏方に徹していた。会場の照明確認、ドリンクの調整、BGMの入りと切り、来客の動線誘導。いつもなら自分たちがメインで立っていたフロアを、今は若い背中に託している。
「緊張してるだろうなあ、あいつら」
ティノが控室のモニターを見ながら笑う。ライナスが微妙に笑顔を引きつらせているのが見て取れた。
「……でも、踏み出してる。立派です」
シオンの声には、いつになく柔らかさが混じっていた。
イベントが始まり、三人の新人はそれぞれの持ち味を活かしながら接客を進めていた。
リュークは優しい声と穏やかな笑顔で、年上の女性客の話をひとつひとつ丁寧に聞いていた。話の合間には、さりげなく飲み物の残量を確認し、好みを覚えて次の一杯を提案する。流れるような自然さが、いつのまにか客の心をほどいていた。
ライナスは最初こそ緊張の色が濃かったが、会話を重ねるごとに表情がほぐれていった。
「俺、実は今日すごく緊張してて……でも、こうして笑ってくれると、嬉しいです」
その正直な言葉に、客がふっと笑う。
「そういうところ、好きよ。あなたが頑張ってるの、伝わってくるもの」
エルは変わらず言葉少なだったが、客の動きや目線を鋭く見ていた。ドリンクを口にした直後、ほんの少し眉をひそめた女性のグラスを、すぐに取り替えに動く。
「温度が下がっていました。お好みの温かさに調整しました」
そのささやかな気遣いに、客は驚いたように目を見開いたあと、ゆっくりと微笑む。
会場の空気が、彼らの努力に応えるように、徐々に温かくなっていくのが感じられた。
そしてイベントが終わった瞬間、ひとりの客が手を叩いた。
「素敵だったわ! 本当に新人とは思えない」
それに続いて、他の客たちからも自然と拍手が湧き上がる。
控室のモニター越しにその光景を見ていたティノとシオンは、どちらからともなく目を合わせた。
「……やったな、あいつら」
「ええ」
誇らしさと、少しの寂しさが入り混じる。舞台に立っていたのは自分たちではない。けれど、それ以上に心が満たされていた。
そのとき、背後からレオンが静かに言った。
「教えることはね、誰かの未来を信じることなんだよ」
その言葉が、まっすぐ胸に届いた。
何度も何度も、自分たちは誰かに支えられてきた。その背中を見て、真似して、学んできた。
そして今、ようやく自分たちが“与える側”になった。
「先輩になるって、こういうことなんだなあ……」
ティノがぽつりと漏らす。
「道を譲るって、簡単じゃない。でも、譲ってもいいって思えるくらい……頼もしいですね」
シオンの声は、どこか少しだけ誇らしげだった。
グラン・ルミナスの夜は、確かに新しい光で満たされていた。今、舞台に立っていたのは若い世代だ。だが、彼らを導いた光もまた、確かにそこにあった。
照らす側から、次の光を育てる側へ。
ティノとシオンの姿に、初めて“先輩”としての覚悟が宿っていた。
店内は柔らかな灯りに彩られ、春を迎える装飾が細部にまで施されていた。テラスには花が咲き誇り、ホストたちはそれぞれ、普段よりも少し華やかさを増した衣装に身を包んでいた。
その夜、主役を任されたのは――新人のリューク、ライナス、エルの三人だった。
ティノとシオンは、裏方に徹していた。会場の照明確認、ドリンクの調整、BGMの入りと切り、来客の動線誘導。いつもなら自分たちがメインで立っていたフロアを、今は若い背中に託している。
「緊張してるだろうなあ、あいつら」
ティノが控室のモニターを見ながら笑う。ライナスが微妙に笑顔を引きつらせているのが見て取れた。
「……でも、踏み出してる。立派です」
シオンの声には、いつになく柔らかさが混じっていた。
イベントが始まり、三人の新人はそれぞれの持ち味を活かしながら接客を進めていた。
リュークは優しい声と穏やかな笑顔で、年上の女性客の話をひとつひとつ丁寧に聞いていた。話の合間には、さりげなく飲み物の残量を確認し、好みを覚えて次の一杯を提案する。流れるような自然さが、いつのまにか客の心をほどいていた。
ライナスは最初こそ緊張の色が濃かったが、会話を重ねるごとに表情がほぐれていった。
「俺、実は今日すごく緊張してて……でも、こうして笑ってくれると、嬉しいです」
その正直な言葉に、客がふっと笑う。
「そういうところ、好きよ。あなたが頑張ってるの、伝わってくるもの」
エルは変わらず言葉少なだったが、客の動きや目線を鋭く見ていた。ドリンクを口にした直後、ほんの少し眉をひそめた女性のグラスを、すぐに取り替えに動く。
「温度が下がっていました。お好みの温かさに調整しました」
そのささやかな気遣いに、客は驚いたように目を見開いたあと、ゆっくりと微笑む。
会場の空気が、彼らの努力に応えるように、徐々に温かくなっていくのが感じられた。
そしてイベントが終わった瞬間、ひとりの客が手を叩いた。
「素敵だったわ! 本当に新人とは思えない」
それに続いて、他の客たちからも自然と拍手が湧き上がる。
控室のモニター越しにその光景を見ていたティノとシオンは、どちらからともなく目を合わせた。
「……やったな、あいつら」
「ええ」
誇らしさと、少しの寂しさが入り混じる。舞台に立っていたのは自分たちではない。けれど、それ以上に心が満たされていた。
そのとき、背後からレオンが静かに言った。
「教えることはね、誰かの未来を信じることなんだよ」
その言葉が、まっすぐ胸に届いた。
何度も何度も、自分たちは誰かに支えられてきた。その背中を見て、真似して、学んできた。
そして今、ようやく自分たちが“与える側”になった。
「先輩になるって、こういうことなんだなあ……」
ティノがぽつりと漏らす。
「道を譲るって、簡単じゃない。でも、譲ってもいいって思えるくらい……頼もしいですね」
シオンの声は、どこか少しだけ誇らしげだった。
グラン・ルミナスの夜は、確かに新しい光で満たされていた。今、舞台に立っていたのは若い世代だ。だが、彼らを導いた光もまた、確かにそこにあった。
照らす側から、次の光を育てる側へ。
ティノとシオンの姿に、初めて“先輩”としての覚悟が宿っていた。
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