裏切りの代償

中岡 始

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緻密な準備

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「藤崎さんのプロジェクトについて、社長は次の取締役会でアピールするそうですよ」

結衣からのメッセージを見た瞬間、奏は視線を上げた。部屋の静けさの中で、その言葉がやけに重たく響いた。尚紀がこの状況で何を発言しようとしているのかは、容易に想像がつく。成果のないプロジェクトを誇張して報告するつもりなのだろう。

「真実を突きつける準備はできている」

奏は自分にそう言い聞かせ、デスクに散らばる資料に目を落とした。次回の取締役会まで残された時間は2週間。勝負の場に向けて、証拠をさらに整えなければならない。

***

翌日、奏は結衣を呼び出し、都内の落ち着いたカフェで向かい合った。結衣は大きなファイルを抱え、テーブルに広げた。

「これが藤崎さんのプロジェクト経費の明細です。細かくチェックしましたが、不自然な項目がいくつもあります」

結衣が指差したのは、高級レストランの領収書やブランドショップの支払い記録だった。それらが「接待費」や「必要経費」として記載されているが、具体的な説明はどれも曖昧だ。

「これ、本当にプロジェクトのための出費ですか?」

「いいえ、絶対に違います」

奏はファイルをめくりながら、日付に目を留めた。それは優美が尚紀と会食していた日に一致していた。

「ここに書かれている接待相手は、会社とは全く無関係の名前です。それに、内容があまりにも個人的すぎます」

「これだけで十分な証拠になりますね」

奏は頷きながら、資料を慎重に確認した。その時、結衣が言葉を続けた。

「あと、営業部の西岡君が話したいことがあると言っていました。最近、彼も藤崎さんのやり方に不満を抱いているようです」

奏は結衣に感謝を伝え、すぐに西岡への連絡を決めた。

***

翌日、奏は営業部の西岡誠とカフェで対面した。西岡は緊張した様子でコーヒーを手に取りながら、ゆっくりと口を開いた。

「正直、もう限界です。藤崎さんの指示は現場のことを何も考えていません。先週も、納期を前倒しするよう言われましたが、現場では対応できるわけがない。案の定、クライアントからクレームが来てしまいました」

「それについて、尚紀さんに相談することはできなかったの?」

「いや、無理です。社長は完全に藤崎さんを信じ切っています。何を言っても『リーダーを信じて支えろ』の一点張りです」

西岡の言葉に、奏は静かに頷いた。

「具体的なエピソードを教えていただけますか?できるだけ資料にまとめておきたいんです」

西岡は考え込むように視線を落とし、少しずつ話を始めた。

「例えば、あるクライアントからの要望変更について、優美さんが『無視していい』と判断したんです。結果的に契約更新が打ち切られる寸前でした。それを技術部の今井さんがギリギリでカバーしたんですけどね」

「それは重要な話ですね。ほかには?」

「プロジェクトチーム内でも不満が溜まっています。特に、優美さんが会議中に無理やり進行を決めて、現場を全く考慮していない点が問題です。メンバーの士気は最低レベルです」

奏は西岡の証言をメモにまとめながら、彼の苛立ちと失望を痛感した。

「ありがとうございます。その情報、必ず役立てます」

「こちらこそ助かります。正直、現場がこれ以上続けられる状況じゃないんです」

***

夜、自宅に戻った奏は、収集した証拠をパソコンにまとめ始めた。結衣から提供された経費報告、西岡の証言、技術部門の進捗報告――それらを一つずつ確認しながら、ストーリーとして整理していく。

「優美のプロジェクトに関する経費不正」
「現場の混乱とクレーム増加」
「尚紀の優美への肩入れがもたらした影響」

メモ帳には三つの柱が並び、それぞれの項目に具体的な事例がリストアップされていく。スクリーンには、優美と尚紀が築いた不正の構図が浮かび上がった。

「取締役会の準備は進んでいる」

奏は深く息を吐き、次に取締役会で提示する資料をスライドにまとめ始めた。その作業に没頭する中で、時間はあっという間に過ぎていった。

***

2週間後、取締役会は間近に迫っている。奏は桐生との接触や追加の証拠収集を計画しつつ、次の行動を練っていた。心の中で静かに繰り返す言葉があった。

「会社は私が守る」

その決意は、彼女の冷静さと復讐心を支える確固たる柱だった。
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