4 / 35
貴族令嬢・セシリアが相談に来る
スラム街の外れにある小さな安宿。その一角で、最近妙な噂が広まっていた。
「あの安宿が、冴えないオッサンの助言で儲かるようになったらしい」
「どうやら数字を操る術を知っているらしいぞ」
「なんでも、店の無駄をなくして、利益を増やす方法を教えたとか」
最初は些細な話だった。だが、宿の主人が実際に儲けを増やし、周囲の商人に「アイツに相談してみろ」と吹聴し始めると、状況は変わった。
「実際、あのオッサンに相談したら、仕入れのコツを教えてもらえた」
「売値を少し調整するだけで、思った以上に儲かったぞ」
いつの間にか、葛城のいる安宿には、商売をする者たちがぽつぽつと訪れるようになっていた。
そしてある日、スラム街には似つかわしくない、立派な馬車が宿の前で止まった。
◇◇◇
宿の扉が開くと、そこには青いドレスをまとった金髪の女性が立っていた。
場違いな光景に、宿の主人も、周囲にいた商人たちも驚き、ざわついた。
「貴族だぞ…なんでこんな場所に?」
「何かの間違いじゃないのか?」
女性は迷うことなく、宿の奥へと歩いてきた。葛城が帳簿を確認しているテーブルの前で足を止めると、静かに口を開いた。
「あなたが、経理に詳しいという方ですか?」
葛城は顔を上げる。美しく整った顔立ちだが、その表情にはどこか焦りが滲んでいた。
「そうだが…あんた、貴族だよな? こんな場所に何の用だ?」
「お願いがあります。どうか、私の家を助けてください」
宿の中が、さらにざわついた。
「貴族が、オッサンに助けを求めてる?」
「冗談だろ?」
だが、彼女の目は真剣だった。
◇◇◇
セシリア・グランディール。王都でも名の知れた貴族の家系の娘だった。
しかし今、その家は没落の危機に瀕しているという。
「父は『貴族は金のことなど気にしなくていい』と言っています。でも、実際には借金が増えるばかりで…」
セシリアは悔しそうに唇を噛んだ。
「使用人も減り、屋敷の管理すらままならなくなってきています。それでも父は浪費をやめようとしません。このままでは…」
「破産する、ってわけか」
葛城は腕を組みながら言った。
「貴族でも破産するんだな」
「ええ…貴族だからといって、金が湧いて出てくるわけではありません。むしろ、維持するために莫大な金がかかるのに、父はそれを理解していません」
貴族の財産は無限ではない。家を維持するには、領地の収益や貿易などで資金を回す必要がある。しかし、その管理がずさんであれば、いずれは資金が底を突く。
「なるほどな」
葛城は納得したが、だからといってすぐに手を貸すわけにはいかない。
「悪いが、俺はただの経理屋だ。貴族の家計まで面倒を見る義理はない」
「そんな…」
「それに、俺にできることがあるのかも分からない。まずは、帳簿を見せてくれ」
セシリアは迷うことなく、持参した帳簿を取り出した。厚めの革表紙の立派なもので、いかにも貴族らしい。だが、中を開いた瞬間、葛城は絶句した。
「…これはひどいな」
帳簿と呼ぶにはあまりに乱雑な数字の羅列。
売上や支出の記録が統一されておらず、金の流れがまるで分からない。収支の合計も適当で、支出の半分以上が「贅沢品購入費」となっている。
「お前の家、今のペースだと半年で完全破産するぞ」
「…え?」
セシリアの顔が青ざめた。
「そんなはず…父は大丈夫だと言っていました」
「数字は嘘をつかない。貴族だろうが商人だろうが、帳簿がこれなら終わる」
葛城は淡々と言い放った。
「…どうすれば…」
セシリアの声が震えた。
葛城は帳簿を見つめながら、ふと考えた。
この世界には、まともな財務管理をできる人間がいないのか?
「なるほどな…」
経理ができるだけで、貴族ですら救えるのか。
そして、貴族の財務を握れば、影から権力を動かすことすらできる。
「金の流れを制すれば、人も組織も動かせる」
葛城は、確信した。
「あの安宿が、冴えないオッサンの助言で儲かるようになったらしい」
「どうやら数字を操る術を知っているらしいぞ」
「なんでも、店の無駄をなくして、利益を増やす方法を教えたとか」
最初は些細な話だった。だが、宿の主人が実際に儲けを増やし、周囲の商人に「アイツに相談してみろ」と吹聴し始めると、状況は変わった。
「実際、あのオッサンに相談したら、仕入れのコツを教えてもらえた」
「売値を少し調整するだけで、思った以上に儲かったぞ」
いつの間にか、葛城のいる安宿には、商売をする者たちがぽつぽつと訪れるようになっていた。
そしてある日、スラム街には似つかわしくない、立派な馬車が宿の前で止まった。
◇◇◇
宿の扉が開くと、そこには青いドレスをまとった金髪の女性が立っていた。
場違いな光景に、宿の主人も、周囲にいた商人たちも驚き、ざわついた。
「貴族だぞ…なんでこんな場所に?」
「何かの間違いじゃないのか?」
女性は迷うことなく、宿の奥へと歩いてきた。葛城が帳簿を確認しているテーブルの前で足を止めると、静かに口を開いた。
「あなたが、経理に詳しいという方ですか?」
葛城は顔を上げる。美しく整った顔立ちだが、その表情にはどこか焦りが滲んでいた。
「そうだが…あんた、貴族だよな? こんな場所に何の用だ?」
「お願いがあります。どうか、私の家を助けてください」
宿の中が、さらにざわついた。
「貴族が、オッサンに助けを求めてる?」
「冗談だろ?」
だが、彼女の目は真剣だった。
◇◇◇
セシリア・グランディール。王都でも名の知れた貴族の家系の娘だった。
しかし今、その家は没落の危機に瀕しているという。
「父は『貴族は金のことなど気にしなくていい』と言っています。でも、実際には借金が増えるばかりで…」
セシリアは悔しそうに唇を噛んだ。
「使用人も減り、屋敷の管理すらままならなくなってきています。それでも父は浪費をやめようとしません。このままでは…」
「破産する、ってわけか」
葛城は腕を組みながら言った。
「貴族でも破産するんだな」
「ええ…貴族だからといって、金が湧いて出てくるわけではありません。むしろ、維持するために莫大な金がかかるのに、父はそれを理解していません」
貴族の財産は無限ではない。家を維持するには、領地の収益や貿易などで資金を回す必要がある。しかし、その管理がずさんであれば、いずれは資金が底を突く。
「なるほどな」
葛城は納得したが、だからといってすぐに手を貸すわけにはいかない。
「悪いが、俺はただの経理屋だ。貴族の家計まで面倒を見る義理はない」
「そんな…」
「それに、俺にできることがあるのかも分からない。まずは、帳簿を見せてくれ」
セシリアは迷うことなく、持参した帳簿を取り出した。厚めの革表紙の立派なもので、いかにも貴族らしい。だが、中を開いた瞬間、葛城は絶句した。
「…これはひどいな」
帳簿と呼ぶにはあまりに乱雑な数字の羅列。
売上や支出の記録が統一されておらず、金の流れがまるで分からない。収支の合計も適当で、支出の半分以上が「贅沢品購入費」となっている。
「お前の家、今のペースだと半年で完全破産するぞ」
「…え?」
セシリアの顔が青ざめた。
「そんなはず…父は大丈夫だと言っていました」
「数字は嘘をつかない。貴族だろうが商人だろうが、帳簿がこれなら終わる」
葛城は淡々と言い放った。
「…どうすれば…」
セシリアの声が震えた。
葛城は帳簿を見つめながら、ふと考えた。
この世界には、まともな財務管理をできる人間がいないのか?
「なるほどな…」
経理ができるだけで、貴族ですら救えるのか。
そして、貴族の財務を握れば、影から権力を動かすことすらできる。
「金の流れを制すれば、人も組織も動かせる」
葛城は、確信した。
あなたにおすすめの小説
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
追放されたおっさんが「天才付与術師」になる将来を誰も知らない~自分を拾ってくれた美女パーティーを裏方から支えて何気に大活躍~
きょろ
ファンタジー
才能も彼女もなく、気が付けばチェリーのまま30歳を超えたおっさんの「ジョニー」は今日、長年勤めていたパーティーを首になってしまった。
理由は「使えない」という、ありきたりで一方的なもの。
どうしたものか…とジョニーが悩んでいると、偶然「事務」を募集していた若い娘パーティーと出会い、そして拾われることに。
更にジョニーは使えないと言われた己のスキル「マジック」が“覚醒”──。
パワーアップしたジョニーの裏方の力によって、美少女パーティーは最高峰へと昇り詰めて行く!?