冴えない経理オッサン、異世界で帳簿を握れば最強だった~俺はただの経理なんだけどな~

中岡 始

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エリザの正体/商会の次の展開

エリザが秘書として働き始めてから、商会の業務は一層円滑に回るようになった。  

彼女は依頼の整理、帳簿の管理、客の対応まで完璧にこなす。商会に訪れる貴族や商人たちも、彼女の落ち着いた態度と正確な仕事ぶりに信頼を寄せるようになっていた。  

しかし、モルディは彼女をじっと観察し続けていた。  

「オッサン、あの女、やっぱりただの秘書じゃねえぞ」  

ある日、モルディは葛城の机の上に飛び乗ると、低い声で囁いた。  

「どういうことだ?」  

「動きが妙に洗練されてる。ちょっとした仕草や立ち回りが、普通の事務員のそれじゃねえ」  

「つまり?」  

「こいつ、どこかの組織の人間だぞ」  

葛城は帳簿を閉じ、考え込んだ。  

確かに、エリザの手際の良さは並ではなかった。  

彼女は財務管理の知識だけでなく、状況把握や交渉術にも長けている。まるで、何らかの訓練を受けた人間のようだった。  

翌日、葛城は事務所の奥でエリザを呼び止めた。  

「エリザ、少し話をしようか」  

「何でしょうか?」  

「そろそろ、あんたの正体を聞かせてもらいたい」  

エリザは一瞬だけ表情を変えたが、すぐに穏やかな微笑みを浮かべた。  

「何のことでしょう?」  

「とぼけるな。お前、普通の秘書じゃないだろう」  

しばらく沈黙が続いた後、エリザは静かに息をついた。  

「やはり、気づかれていましたか」  

「当然だ。お前は、誰の命で動いている?」  

エリザは葛城をじっと見つめた後、ゆっくりと言った。  

「とある貴族の命です」  

モルディが尻尾を揺らしながら言った。  

「そいつの名前は?」  

「申し訳ありませんが、それはお答えできません」  

「じゃあ、何のために俺のところに来た?」  

「あなたを支えるのが私の役目です」  

葛城は腕を組み、考えた。  

「要するに、お前を雇っている貴族は俺に興味を持ち、俺の動向を探るために秘書として送り込んだ、そういうことか?」  

エリザは何も答えなかったが、肯定の意思は十分に伝わってきた。  

モルディが小さく笑った。  

「怪しいが…まあ、有能だからいいか」  

「だな」  

葛城は肩をすくめた。  

「俺の仕事を邪魔しない限りは好きにしろ。ただし、妙な動きをすれば、容赦なく排除する」  

「承知しました」  

エリザは微笑を浮かべ、一礼した。  

これで彼女の正体が明らかになったわけではないが、少なくとも葛城の商会にとって有益であることは変わらない。  

  

◇◇◇  

  

その夜、葛城は帳簿を前にして新たな構想を考えていた。  

「財務管理だけでは、金の流れを整理するだけで終わってしまうな」  

今の商会の業務は、財務の管理と経費の削減が中心だった。  

だが、金を管理するだけでは、依頼者の資産が増えるわけではない。  

「ただ金を管理するだけじゃなく、増やす仕組みを作れば、さらに大きな金が動く」  

モルディがカウンターの上で欠伸をしながら言った。  

「オッサン、もはや経理屋じゃなくて金融の支配者になろうとしてないか?」  

葛城は静かに笑った。  

「俺はただの経理なんだけどな」  

しかし、その言葉とは裏腹に、彼の頭の中では新たな商会の未来が描かれ始めていた。  
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