冴えない経理オッサン、異世界で帳簿を握れば最強だった~俺はただの経理なんだけどな~

中岡 始

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王国の財政危機/貴族の搾取

王国の財政が危機に瀕している。  

その事実を、国王と側近たちがようやく認識したのは、軍の補給物資が滞り始めたことがきっかけだった。  

「このままでは戦争の資金もない!」  

王城の会議室に集まった高官たちは、焦燥の色を隠せない。  

「国庫の蓄えは限界だ。これ以上の支出は不可能だというのに、貴族どもは相変わらず無駄遣いを続けている」  
「徴税の強化を検討すべきでは?」  
「しかし、庶民の負担はすでに限界だ。これ以上、税を引き上げれば暴動が起きかねん」  

それでも、貴族たちは動こうとしなかった。  

彼らの関心は、目の前の危機ではなく、自らの権力と富を守ることにあった。  

「王国が傾こうとしているというのに、貴族どもは宴を開いているのか?」  

この光景を目の当たりにし、葛城は呆れた。  

庶民の生活が苦しさを増す一方で、貴族たちは変わらず豪奢な生活を続けている。彼らにとって、国の財政難は「自分たちの財布が痛まない限り、関係のない話」でしかなかった。  

「この国の財務は、どこまで腐っているんだ?」  

葛城は腕を組み、深く息をついた。  

  

◇◇◇  

  

国王もまた、この状況を理解しながらも、長らく打つ手を持たなかった。  

「宰相マクシミリアンに財政を任せていたが…もはや彼の策だけでは限界か」  

マクシミリアンは有能だったが、その目的は「王国を支えること」ではなく、「王国を利用すること」にあった。  

このままでは、貴族たちの既得権益を守るために王国が衰退していくのは目に見えている。  

「ならば、実績のある者に直接財務を任せるべきでは?」  

王城の重臣の一人が、進言した。  

そして、その候補として名前が挙がったのは――葛城隆司だった。  

「葛城商会は、財務管理を通じて多くの貴族や商人の経済を立て直しました」  
「商会の影響力はすでに王都全体に及んでいます」  
「彼のやり方を国政に取り入れれば、王国の財政も立て直せるかもしれません」  

そうして、国王自ら葛城を招き、会談が開かれることとなった。  

  

◇◇◇  

  

王城の一室に通されると、国王は葛城をじっと見つめ、静かに言った。  

「貴殿を王国の財務顧問に任命する」  

いきなり核心を突く言葉だった。  

葛城は少し考え、慎重に答える。  

「急な話ですね。なぜ、私を?」  

「貴殿の財務管理の実績は、すでにこの王都で証明されている」  
「我が国の財政は、今や破綻寸前。貴族たちの浪費と横暴により、国庫は枯渇している」  
「このままでは、戦争資金すら調達できなくなる」  

国王の言葉には、切迫したものがあった。  

しかし、葛城はすぐには返答しなかった。  

「私はただの経理です。国の財政を担うなど、大それたことはできません」  

「しかし、財務の立て直しが可能なのは、貴殿をおいて他にいない」  

国王は真剣な眼差しで続けた。  

「貴殿に全権を委ねる。好きにやってよい」  

その言葉に、葛城は少し目を細めた。  

(つまり、口出しはしないから、結果を出せということか)  

確かに、国の経理がここまでズタズタなのを見過ごすわけにはいかない。  

葛城は深く息をつき、国王の顔を見据えた。  

「わかりました。引き受けましょう」  

こうして、王国財務顧問・葛城隆司が誕生することとなった。  

  

◇◇◇  

  

王城を後にしながら、モルディが葛城の肩に飛び乗った。  

「オッサン、ついに国家運営まで手を出すのか?」  

「そんなつもりはない。俺は財務を整理するだけだ」  

「それがもう国家運営みたいなもんだろ?」  

モルディは尻尾を揺らしながら、愉快そうに言った。  

「で、最初に何をする?」  

「まずは、国の帳簿を整理するところからだな」  

「…この国、ちゃんとした帳簿なんてつけてんのか?」  

「それが問題だ。そもそも財務状況を把握していない可能性が高い」  

葛城は軽く肩をすくめた。  

「どこまで腐ってるのか、調べてみるか」  

モルディはため息をついた。  

「オッサン、苦労するぞ」  

「まあな」  

葛城は静かに笑いながら、次の一歩を踏み出した。  
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