冴えない経理オッサン、異世界で帳簿を握れば最強だった~俺はただの経理なんだけどな~

中岡 始

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貴族たちの圧力/宴への招待

王都の貴族街にそびえる壮麗な館。その広大な宴会場では、王国の有力貴族たちが優雅に酒を酌み交わしていた。  

今宵の宴は、新たに王国の財務顧問となった葛城隆司のための歓迎の席である――建前上は。  

そして、その中央には王国の主、国王が臨席していた。  

王が参加していることで、宴の格式は高まり、出席した貴族たちは一層慎重な態度を取っていた。だが、彼らの視線には、ある種の圧力が込められていた。  

「お前に余計なことをさせない」

貴族たちは、この宴を利用して新任の財務顧問を牽制し、彼の動きを制限しようとしている。それは、彼らがこれまで築き上げた権益が脅かされることを恐れている証拠でもあった。  

「新しい財務顧問にふさわしい歓待を用意した」  

貴族の一人がそう言いながら、葛城に杯を差し出す。  

「これは光栄です」  

葛城は微笑み、酒を受け取った。しかし、その表情には何の緊張もない。  

(なるほど…要するに『俺の動きを封じるための圧力』というわけですね)  

葛城は静かに杯を傾け、場の様子を観察した。  

  

◇◇◇  

  

「財務管理は王国の権限であり、貴族が干渉されるいわれはない」  

「財政に関わることは国政の一環。いくら財務顧問とはいえ、一商会の出身にその責務を担えるのか?」  

貴族たちは、それとなく牽制を込めた言葉を投げかけてきた。  

「王国の財政を扱うのは荷が重いのでは?」  

「民間の帳簿を整理するのとはわけが違うぞ?」  

葛城はワインを口にしながら、それらの言葉を静かに聞いていた。  

「まあ、確かにその通りですね」  

彼は軽く肩をすくめた。  

「しかし、私が財務顧問に任命されたのは、王国の財務が適切に管理されていないからでは?」  

貴族たちの笑みが、わずかに引きつった。  

「もちろん、私は単なる経理屋ですから、国政には詳しくありません。しかし、帳簿の管理なら得意ですよ」  

モルディが隣で尻尾を揺らしながら呟いた。  

「オッサン、完全に舐められてるぞ?」  

「まあ、舐められるうちが花だよ」  

葛城は静かに言いながら、グラスを置いた。  

  

◇◇◇  

  

「せっかく招待いただいたのですから、少し帳簿を拝見しましょうか?」  

宴の空気が、凍りついた。  

貴族たちの表情が一変し、ざわめきが広がる。  

「何を言っている…!」  

「私たちは、ただ歓待の場を設けたにすぎない。そんな場で財務の話を持ち出すとは、無粋ではないか?」  

「いや、私としては、歓迎されるだけでは落ち着かなくてですね」  

葛城は柔らかく微笑んだ。  

「皆様のご厚意に感謝するとともに、財務顧問としての務めを果たしたいと思いまして」  

「務め…?」  

「王国の財政が健全であるためには、税の適切な運用が必要です」  

彼はゆっくりと視線を巡らせながら続けた。  

「各領地の財務がしっかりと管理されているか、確認させていただくことは、財務顧問として当然の役割ですよね?」  

誰もが黙り込んだ。  

葛城はすでに、不正の兆候をいくつか把握していた。特定の領地では、国庫に入るべき税収が本来の額よりも少なく報告されていた。また、一部の貴族たちは、不要な経費を計上して支出を偽装していた。  

この宴に招待されたのは、そうした貴族たちばかりだった。  

つまり、彼らは葛城に疑念を持たれないよう、牽制しようとしていたのだ。  

しかし、葛城は逆にそこを突いた。  

「まずい金の流れがあると、困りますよね?」  

貴族たちは、押し黙ったまま視線を交わし合った。  

その様子を、国王が静かに見守っていた。  

「ほう…なかなか面白いことを言うな」  

王の言葉により、場の緊張がさらに高まった。  

「この男の言うことも一理ある。王国の財務は、適切に管理されているべきだろう」  

貴族たちは顔をこわばらせながら、それぞれの酒杯を手に取った。  

葛城は静かに微笑みながら、再びグラスを傾けた。  

この場での直接的な対決は避けられたかもしれない。  

だが、すでに「財務監査」という流れは止められなくなっていた。  
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