冴えない経理オッサン、異世界で帳簿を握れば最強だった~俺はただの経理なんだけどな~

中岡 始

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暗殺計画の発覚/狙われる葛城

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王都の貴族街、その一角にある一つの屋敷。  

煌びやかなシャンデリアの下、数人の貴族が静かに集まっていた。  

彼らの表情には、明確な焦りと苛立ちが滲んでいる。  

「このままではまずい。葛城がさらに影響力を持てば、我々の立場はどうなる?」  

「財務監査が始まっただけでも危険だというのに、王国の財政そのものを支配される可能性すらある」  

「何としてでも止めなければならない」  

「だが、どうやって? 国王の庇護のもとにいる以上、正攻法では手が出せん」  

しばしの沈黙の後、一人が低く呟いた。  

「ならば、正攻法でなければいい」  

その言葉に、場の空気が一変する。  

「…つまり、消すということか?」  

「そうだ。葛城がいなくなれば、財務監査も頓挫する。あとは時間が解決してくれる」  

「確かに、それが一番確実だ…」  

「手は打ってある。すでに暗殺者ギルドに依頼した」  

「そうか。ならば、あとは待つだけだな」  

誰もが頷き、静かに杯を傾けた。  

  

◇◇◇  

  

「オッサン、なんか妙な気配がするぞ」  

モルディが葛城の肩に飛び乗り、耳をピンと立てた。  

葛城は手元の書類から目を上げると、軽く眉を上げた。  

「珍しいな、お前がそんなことを言うとは」  

「冗談じゃねえ。肌がピリピリするんだよ。まるで獲物を狙う目が、どこかから向けられてるみたいなな」  

葛城は軽く息をつき、机に書類を置いた。  

「まあ、こうなることは想定済みだが」  

「オッサン、ちっとも慌ててねえな」  

「当然だろう? 俺は経理屋だ。数字の動きを見ていれば、大抵のことは読める」  

その時、扉がノックされる。  

「葛城様、例の件について報告がございます」  

情報屋からの使いだ。  

葛城が扉を開くと、黒衣の男が素早く室内に入り、低く囁いた。  

「確かな情報です。貴族派の一部が、暗殺者ギルドに依頼を出しました」  

モルディの耳がピクリと動いた。  

「やっぱりな」  

「狙いは間違いなく葛城様。ただし、どこで仕掛けてくるかは不明」  

「随分と手荒なことをする」  

葛城は少しだけ笑みを浮かべた。  

「経理屋一人に、ここまで手の込んだ仕事をするか?」  

「それだけ、貴族たちは焦っているのでしょう」  

「さて、どうする?」  

モルディが尻尾を揺らしながら言った。  

「逃げるのか? それとも、迎え撃つのか?」  

「逃げる選択肢はないな」  

葛城は静かに立ち上がった。  

「狙われるのは、力を持ち始めた証拠だ。ならば、ここで引くわけにはいかない」  

  

◇◇◇  

  

夜の王都は静かだった。  

街灯の明かりが石畳をぼんやりと照らし、人気のない道には冷たい風が吹いていた。  

葛城は宿舎へ向かって歩いていた。  

モルディは肩の上でじっと周囲を警戒している。  

「オッサン、気を抜くなよ」  

「ああ」  

そして、次の瞬間。  

「…来たな」  

気配が動いた。  

暗闇の中から、数人の影が滑るように現れ、無言のまま葛城に襲いかかる。  

刃が月光を反射し、鋭い音を立てる。  

しかし、その瞬間、モルディが素早く動いた。  

「右!」  

葛城は即座に反応し、身を低くして一歩後退する。  

刃が彼の頬をかすめ、闇の中で銀光を放った。  

「ずいぶんと手荒な歓迎だな」  

葛城は淡々と呟いた。  

襲撃者は三人。  

黒ずくめの服に身を包み、表情は闇に紛れて見えない。  

その動きからして、ただの盗賊ではない。  

「暗殺者か」  

モルディが低く唸る。  

「しかも、結構な腕利きだな。どうする?」  

「どうもしない」  

葛城は肩をすくめた。  

「こっちは戦う気はない。ただ、死ぬ気もないがな」  

襲撃者たちは無言のまま、再び間合いを詰めた。  

葛城はゆっくりと後退し、わざと路地の奥へと誘導する。  

「おい、まさか…」  

モルディが気づいたとき、葛城は薄く笑った。  

「ここなら、背後を取られる心配もない」  

「まったく、油断ならねえオッサンだ」  

葛城はすっと息を吸い、暗殺者たちを見据えた。  

「さて、ここからは交渉の時間だ」  

襲撃者たちは微かに動揺したが、すぐに構えを取り直した。  

その時、遠くから甲冑の音が響いた。  

「何だ…?」  

路地の奥から、騎士団の紋章を掲げた男たちが姿を現す。  

「…ああ、手を打っておいて正解だったな」  

葛城は小さく笑った。  

「オッサン、これは?」  

「情報屋に頼んでおいたんだ。『王都の治安が悪いから、夜の巡回を強化すべきだ』ってな」  

騎士たちが剣を抜き、襲撃者たちを取り囲む。  

「どうする? 逃げるか?」  

葛城の言葉に、暗殺者たちは動きを止めた。  

そして、一瞬の間の後、三人は一斉に闇の中へと飛び込んだ。  

「追うか?」  

騎士団の隊長が問う。  

「いや、いい」  

葛城は首を振った。  

「すぐには戻ってこないだろう。狙いが俺だったなら、もう充分に警告にはなった」  

モルディが深く息を吐いた。  

「オッサン、マジで命を狙われてるぞ?」  

「だろうな」  

葛城は微かに笑った。  

「ここからが本番だ」  
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