冴えない経理オッサン、異世界で帳簿を握れば最強だった~俺はただの経理なんだけどな~

中岡 始

文字の大きさ
32 / 35

王国の新体制/葛城の選択

王国に、静かで穏やかな時間が戻りつつあった。

戦乱の傷跡はまだ残っているが、市場には活気が戻り、街を歩く人々の表情にも安堵の色が見え始めている。

それは、王国の経済が少しずつ安定し始めた証だった。

王城の財務局では、新たな制度が次々と施行されていた。

「財務監査の制度化」「貴族の税制改革」「王国経済の透明化」。

これまで曖昧だった財政管理の仕組みが明文化され、貴族による不正な搾取はもはや不可能となった。

商人たちは自由に市場を動かせるようになり、貴族の干渉なしに経済活動ができる環境が整えられつつある。

改革の中心にいたのは、葛城だった。

彼の指導のもと、王国の財務はかつてないほどの秩序を取り戻していた。

◇◇◇

「葛城殿」

王城の謁見の間で、国王がゆっくりと口を開いた。

その場には、王女エレオノーラをはじめ、王国の重臣たちが揃っていた。

葛城は静かに国王を見つめる。

「あなたには、これからも王国の財政を支えてほしい」

国王の言葉に、重臣たちが頷く。

「あなたがもたらした改革が、この国を救った。財務管理の重要性を、今や誰もが理解している」

「ついては、正式に王国の財務長官として仕えてはくれぬか?」

国王の言葉に、室内が静まる。

それはつまり、葛城がこの王国の中枢に加わることを意味していた。

誰もが、彼の返答を待っていた。

◇◇◇

「オッサン、どうする?」

モルディが葛城の肩に飛び乗り、小さな声で囁いた。

「王国の財務を任せてもらえるなんて、これ以上の待遇はないだろ?」

「確かにな」

葛城は軽く笑った。

「財務管理の基盤は整えた。あとは、それを維持できる人間がいれば問題ない」

「だったら、あんたが続ければいいんじゃねえの?」

モルディは尻尾を揺らしながら問いかけた。

葛城は、ゆっくりと国王を見つめた。

「ありがたい申し出ですが、俺は王国に仕えるつもりはありません」

静かながらもはっきりとした口調だった。

謁見の間に、再び静寂が訪れる。

「どうしてだ?」

国王が驚いたように尋ねる。

「これほどの功績を残したあなたに、王国を任せたいと思うのは当然のことだ」

葛城は微笑んだ。

「俺の役目は終わりました。財政の基盤は整えましたし、経済も安定しつつある。この国を正しく運営できる人材は、すでに揃っているはずです」

エレオノーラが前に出た。

「葛城、あなたがいなければ、改革が続かないかもしれない」

「そんなことはありません」

葛城は断言した。

「重要なのは、俺という個人ではなく、この仕組みが正しく機能し続けることです。あなたが王国を導く限り、問題はないでしょう」

エレオノーラは口を開こうとしたが、葛城の確信に満ちた表情を見て、それを飲み込んだ。

◇◇◇

「さて」

謁見の間を出た葛城は、大きく伸びをした。

王国の未来は、すでに決まっている。

あとは、彼自身の次の道を選ぶだけだった。

「どこに行くつもりだ?」

モルディが肩の上で聞いてくる。

葛城は少し考えた後、笑った。

「まだ決めてない。でも、どこに行っても俺のやることは変わらないさ」

「なんだよそれ」

モルディが呆れたように言う。

「オッサン、どこまで行っても経理屋なんだな」

「それが俺の仕事だからな」

葛城は静かに前を向く。

王国を救った経理屋の旅は、まだ続いていく――。
感想 0

あなたにおすすめの小説

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

追放されたおっさんが「天才付与術師」になる将来を誰も知らない~自分を拾ってくれた美女パーティーを裏方から支えて何気に大活躍~

きょろ
ファンタジー
才能も彼女もなく、気が付けばチェリーのまま30歳を超えたおっさんの「ジョニー」は今日、長年勤めていたパーティーを首になってしまった。 理由は「使えない」という、ありきたりで一方的なもの。 どうしたものか…とジョニーが悩んでいると、偶然「事務」を募集していた若い娘パーティーと出会い、そして拾われることに。 更にジョニーは使えないと言われた己のスキル「マジック」が“覚醒”──。 パワーアップしたジョニーの裏方の力によって、美少女パーティーは最高峰へと昇り詰めて行く!?

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。