【完結】最後の願い

ひなこ

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2.ジェイ

2-2

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「ああ、そういえば。あんたらは知ってるかい?処刑の方法は一つじゃないって」
 ジェイは見てきたみたいに、また下品に笑った。
「どういう意味よ?」
 そこでミーナも食いついてしまった。

「ふ、興味あるよねえ?聞きたいでしょう、ねえ?」
 もったいつけて、二人をちらちらと見やる。
「ねえ、あんたも。知りたいだろう?」
「どうでもいい」

 どっちと答えようと、どうせ一筋縄ひとすじなわではない。
 じらすのは目に見えている。気をくまねはしないのが得策だった。

「じゃ、教えてあげる!朝になってここから消えていたら、処刑場に連れて行かれたと思うだろう?それもある。でもそれだけじゃない。まだ他の処刑法がある」

「……どんな?」意外にも問いかけたのは、ミーナだった。

「化け物に食われるんだよ」
「ばけもの?」
 二人して顔を見合わせる。
「本当か?適当なこと言ってんじゃないのか?」
「こわい、そんなの嫌!」
 格子の鉄棒をぎゅっと握って、ミーナはうずくまる。

「本当だよう。そいつはとても大きく、邪悪な姿をしてるんだってさ。悪魔もドラゴンもびっくりな、見るに耐えない醜悪しゅうあくな生き物だ。しかも極悪人しか食えない」

「食えない、とは?」
「だから、ここに来るような死刑囚になるやつしか食料にできないんだって。善人のかけらでもあると、食えない」
 むちゃくちゃなことを言うが、悪人しか食せない化け物とは。
 いかれ男の妄想にしてはロマンチックだ。

「それが、数日のうちにおれたちのことを襲いにくると?」
「かもね。じゃないかもだけど?」
 てへっと、白目をいて見せた。

 夜になり、今日二回目の食事が運ばれた。
 アルミの深皿に、半分くらいのスープ。固いパンがひとかけら。当然満腹になるような量ではない、粗末なものだ。どうせあと何日かの命なのだ、栄養など必要ない。

「ふふ、こんな状況でも腹は減るよねえ?あれ、彼女お、食わないの?」
「……食欲がないの。ほっといて」
 ミーナが短く答えた。
 何か返さないとまた、次の嫌みを言われると思ったのだろう。

 シアンは思い出す。そういえば、朝食も手をつけていなかった。彼女をむしばむ病魔は、日ごとにその体を細らせて行っているにちがいない。

「もしかしてダイエット?……じゃ、ないよねえ?」

 わかっていて、合いの手を入れるジェイ。
 ミーナがスープ皿を投げつけそうになっているのを、シアンは遠くから手で制した。

 深夜になると、廊下の電灯が消えてぼんやりとした壁の灯りだけになる。
「もう眠くなったからおれは寝るわ。邪魔しないから、二人でごゆっくり」
 ジェイはそう言って、牢の奥へ毛布を持って移動した。

 どうやら本気で寝るつもりらしい。
 夜を無事に越えられるか、眠気などもよおしている場合ではないのに。もっとも、ジェイくらいの度量どりょうでもないとそう開き直るのは無理だろう。

 牢の中は決して広くはないが、対角線で離れればそれなりに距離は取れる。
 ジェイが静まると、そっとミーナが牢のさくまで顔を見せた。

「……大丈夫か?」
「ええ。シアンは?」
「平気だよ。あれくらいの手合いはどうもない」

 これまでは何でも武器を振るえば良かった、その生活からすれば、今は少し頭を使わないといけないが。

「今日も生き延びられたわね。良かった」
「そうだな。あいつのせいで、いろいろ疲れたけどな」
 奥のジェイを見やると、小さな寝息が聞こえる。寝ていてくれれば、本当に平和な夜だった。

「そいつが言ってたこと……本当かしら?」
「化け物のこと?どうだろう?ホラかもしれないし」
 極悪人でなければ食えない、と言っていた。
 善人か、悪党かを化け物はどうやってそれを見分けるんだろうか。

「朝いなくなるんじゃないんだとしたら、どうやって処刑されるのかしら」
「丸ごと食われるなら、いなくなるのは同じじゃねえか?」

 ミーナの肩が少し震えて見えた。
「どうしよう。わたし、こわい……」
「ミーナ」
 もしこの柵がなければ、抱きしめてやることもできただろう。でも、二人の間には依然として冷たく強固な鉄格子がそびえていた。

 涙をぬぐって、ミーナは自嘲じちょう気味に笑った。
「ばかみたい、わたし。どっちにしてももう、死ぬってわかっているのに」

「そこは考えるなって、昨日約束したじゃないか」
「そうだったわね。今一瞬、すっかり忘れてた」

 あれだけ感動的な会話だったはずなのに。シアンは呆気にとられた。
「忘れたのか。それはショックだな」
「ごめんなさい。忘れたわけじゃないの。二人で約束したんだもの、覚えてるから」
「いいよ、そんなに責めるようなことじゃない」
 ミーナは答える代わり、小指を掲げてエアげんまんをして見せた。

 今一度、二人はしっかりと心に刻む。
 お互いにあきらめず、前を向いて残り時間を生きていくのだと。  
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