裸身のデッサン

大津らら

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最終話 ラストシーンの灯り

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 再び撮影現場に立ったのは、あの日から二週間後だった。
 小さなスタジオの白い壁。前回よりも静かな照明。
 監督が柔らかい声で言った。
 「今日は、“自分を許す女”というテーマです。」

 モニターの前に立ち、深く息を吸う。
 胸の奥にあの日の感触がよみがえる。
 でも今の私は、もう逃げない。
 見られることに怯えていた自分も、演じることに迷っていた自分も、
 すべてこの瞬間のためにあったのだと思えた。

 「準備できました」
 カメラが動き出す。
 レンズの向こうに、自分の“真実”が見えるようだった。

 男性俳優が肩に触れた瞬間、梓は目を閉じる。
 肌が熱を帯び、心が波立つ。
 だがそれは、欲情ではなく、再生の痛みに近い。
 過去の自分を抱きしめるように、彼女はそっと微笑んだ。

 「もう大丈夫」
 その一言を、監督は静かに拾った。
 スタッフの動きが止まり、空気が張りつめる。
 照明が少し落ち、光が梓の輪郭を柔らかく包む。
 その姿は、裸でありながら、どこまでも凛として美しかった。

 撮影が終わると、拍手が起こった。
 だが梓は頭を下げることなく、ただ深く息を吐いた。
 その吐息には、長い間胸の奥に溜まっていた痛みと、
 そして確かな自由の匂いが混じっていた。

 夜、ひとり帰り道を歩く。
 街の灯が川面に反射して揺れていた。
 その光が、まるで心の奥の“灯り”と重なって見えた。

 ――私は、もう隠れない。
 見られることは、奪われることではない。
 見つめ返す勇気を持つことだ。
 その瞬間、私の中で「女」と「表現者」がひとつになった。

 駅に着くと、スマートフォンが震えた。
 画面には「新作出演決定」の通知が表示されていた。
 梓は小さく微笑み、夜空を見上げた。

 「これが、私の生き方」

 彼女の目に、夜明けの光が滲んだ。
 ――終わりではなく、始まりの光として。
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