BLオカマの異世界『推し事』日記～推しを成り上がらせる魔女の物語～

第１２話 魔女の系譜

　川辺に作られた簡易キャンプは理想的過ぎる代物だった。縁を登ったすぐ側には外敵から身を隠せるように生い茂る木々の隙間にカモフラージュされて設置されたワンポールテントがあり、厚手の毛布にオイルの入ったランタン。携帯食料に砥石や水筒等の小物が入ったバック。そして、焚火台と薪まであった。

「日頃の行いのおかげ…。なーんて言ったらバチが当たるわね。もう当たってる様なモンだし」

　利夫はようやく落ち着ける環境を手に入れた。ゴブリンを逃がした以上は追手なんかも来るかも知れないが、いちいち死体の確認なんてしてこないだろう。このテントに隠れている限りは大丈夫だと思うが、少し休んだらゴブリンの死体も燃やしてしまえばいい。
　それにしても、まさか異世界に来てまでキャンプをするとは思わなかった。生前はもっぱら裏方仕事とたまに現場で動くくらいだったので楽しい気持ちがまだ強い。しかし、これからどうするか。考えた末、まずやるべき事項を順番に思い浮かべた。

１【魔女】とはなんなのか
２魔女としてスキルなんかはどうなっているのか、その確認方法は
３この森の実態はなんなのか

　大きく分けてこの３つ。最初に魔女がなんなのかを知る。これを知る方法は極めて簡単。ここまで持って来た一冊の本に答えがある気がした。何かの間違いで盗んでしまった、魔女にまつわる貴重な資料。
　魔女として転生し、たまたま魔女にまつわる本を手に取った。利夫にはこれが偶然には思えなかった。柄にも無く運命的な物を感じてしまい、枕代わりにしようとした本の表紙を見てみる。題名はまるでパズルを組み合わせたかの様な複雑な文字で記されていて、０課時代の同期。主任情報分析官の『遊離』にこれまで色んな暗号や文明文字を見せてもらったが、どれにも当てはまらない奇怪な文字列にしか見えない。
　初めて見る異世界の文字なんて読めないはずだった。

「『魔女の系譜』＿？」

　利夫は何故か題名が読めた。不思議に思いつつもページを開くと、似たような形の文字が羅列されている。ファンタジーに憧れる中二病が発想力を生かして作ったデタラメな文字にも思えるが、中身はしっかりと魔女の歴史について語られていた。

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魔女の系譜

第一節
　オルドガルドの歴史上。謎が多い種族の１つであり、善性と悪性を交えた魔法を扱う特異的な存在。
古来より存在と名前は認知されているが魔女の定義は様々であり、文献に残されている限りでは500年前の聖魔大戦の時から実在していた。
　竜の形をした聖王バルクァナの使いである天使たちは、聖魔大戦の際に悪魔と戦う人々に号令をかけ、魔女の名を発したとされる。

【人間よ、魔女に気を付けるのです。戦場で欲望を抱いてはなりません。魔女は人の欲望に付け入り、堕落へと誘う悪魔の使い。囁く者がいれば、耳を貸してはいけません】

　悪魔軍に属する【魔女】と称された者達の姿は千差万別であり、つばの広い帽子を被り空を飛ぶ者もいれば、怪物の姿となり戦場を蹂躙する者もいた。一般の兵士の姿をする者もいれば、人智を超える薬で魔物を暴走させる者もいた。人間の子供を深く愛した聖王バルクァナの背に乗った勇者クロムは、子供の姿に化けた魔女に体を貫かれ天界の空より堕ちたと言われている。

第二節
　魔女の特筆すべき特徴は、扱うのが『魔法』に加えて『魔術』であるという点である。
世界には善性と悪性の魔法がある中で、魔女はどちらも扱えるとされる。しかし、魔女の本領は魔法ではなく、魔法を応用した魔術である。
　人の心を壊し、魔物の理性を奪ってしまう薬を作る。男であれば女へと姿を変え、老人と思えば子供の姿にもなる。悪魔の囁きの籠った道具を作り、代償と引き換えに人々の欲望を歪んだ形で叶えてしまう。

　これらはオルドガルドの歴史において魔法の概念を覆す事象であり、魔法とは別格の物である。
聖魔大戦が終結を迎えた際。芸術を司る女神ロシナンテの右手、ラウゥスは一枚の壁画を王都マーテルの神殿へと遺した。
生き残った兵士にラウゥスは最後、こう告げて天へと還ったとされる。

「顔に印を刻みし者。魔女として生まれし、魔女として生きる運命を背負う。耳を傾けるな」

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