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Diary1.旅立ち

1・港町のメルル

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 どこからか、海鳥の鳴き声が聞こえた。
 港町アンファンハーフェンは、今日も潮の香りと眩しい日光で満ちている。それはいつも通りの光景で、きっといま大声で笑っている漁師のおじさんとか、どこか遠くの国から来たっぽいドレスみたいな服を着た男の人とかがおじいさんになっても変わらないんだと思う。

 広場では今日も、黒い法服を着た人が一生懸命何かを説いている。
 だけど耳を傾けている人はあまり多くない。いるとしても、それはとても信心深い人か、それか何もすることがない人。そういう人たちの大体は、宣教師――ママから法服の人はそうやって言うんだ、って教えてもらった――の言ってることなんてすぐに忘れてしまう。

「では、最近この辺りに進出してきた海賊どものことを例にしますと……!!」

 少し高くて、落ち着きのない宣教師さんの声。
 彼がって言ったとき、繋いでいたママの手が一瞬ビクッて震えた。
「ママ?」
 ちょっとだけびっくりして見上げると、ママの顔は真っ青で、どちらかというと白に近い色をしていた。これから死んじゃうのかな、そんなことを思ってしまうくらい、顔色が悪い。先を歩いているパパの様子も、ちょっとだけおかしかった。
 いつもまっすぐ、「私の歩く道が正当だからな!」が口癖のパパらしい堂々とした歩き方をしているのに、今日は家を出てから何だか自信がなさそうな、落ち着かない歩き方。

「パパ? ママも、えっと、どうかしたの?」

 訊いても、教えてはくれない。
 わかってるんだから、2人はまだわたしが子どもだから頼りないって思ってるの。でも、わたしだって最近はいろんなことわかってきたし、きっと2人を手伝ったりもできるんだからね!
 だけど、そんなわたしの気も知らないで、「なんでもない」というパパとママ。
 う~ん。
 これはどこかでわたしが成長してるんだって教えてあげないと!

 どこか重い足取りで先を歩くパパとママを、わたしは離れないように追いかけた。
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