ねぇ、神様。わたしはあなたに復讐したい。

鏡上 怜

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第3章 再会、苦悩。

4・花明かりに抱かれて

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「勘違いだったら悪いんだけど、さ。三好みよし……だよな?」
 駅から高校に向かう途中にある小さな交差点。そこで信号待ちをしているときに声をかけてきたのは、江崎えざき ひろくん。小学校の同級生だった。

「江崎くん?」
 中学に上がるときにお父さんの仕事の都合で遠くに越して以来、何ひとつやり取りなんてしてなかったのに、こんな風に声をかけられたらすぐに思い出せた。というか、江崎くんもよくわたしのことなんて覚えてたな……。

 ちょっと感心しながら、まだちょっとだけ寒い朝の道を2人並んで歩く。
「…………」
「……」
 久しぶりに会えたのは嬉しかったけど、言葉が見つからない。
 だって、江崎くんと共有できてたのは小学校までの記憶だけだ。
 毎年クラス替えがあってもほとんどを同じクラスで過ごしてて、そのクラスの中で特別仲が良かったかっていうとそういうわけでもないけど、何かと一緒にいたかも知れない。

 同じ飼育委員になって、よくウサギ小屋の様子を見に行ったり、たまたまクラブ活動まで一緒だったり(確か、そのときは映画クラブっていうとにかく映画を観るクラブだった)。
 だから自然といろんな話をするようになったりしていた。
 それこそ、他のクラスメイトにはあんまり聞かれたくないようなことまで話してた気がする。たぶん、小学校のときのわたしを1番知ってくれてるのは江崎くんじゃないか、ってくらい。

 だけど、江崎くんが知ってるのは、小学校の時のわたしまで。
 わたしが知ってる江崎くんだって、小学校時代で止まってる。

 お互いの空白を埋めたいような気もしたけど、わたしのはそんなことの許されない暗闇だったから。『江崎くんは中学で何してた?』って訊こうと開いた口で、「高校でもよろしくね!」と違う言葉を編み上げて届けた。
「――、おぉ、よろしくな!」
 そう笑って返してくれた江崎くんの顔は、やっぱりどこか眩しく見えて。
 目がくらみそうになったわたしは、少しだけ視線をずらして「うん」と返した。そんな自分のことを、心の底から嫌いそうになりながら。


 高校のクラス分けで、わたしは1年5組に割り当てられた。
 当たり前だけど、クラスに――たぶん学年にも、わたしのことを知ってる人は江崎くんしかいない。救いがあるとしたら、その江崎くんが同じクラスに来てくれたことくらいだ。
 入学式も終わって、クラス内での自己紹介の時間。

「江崎 洋です。出身は――――」

 何か、声変わったな……。
 朝会ったときは、知ってる人にまた会えたっていう興奮で気付かなかったけど。思っていた以上に江崎くんももうなんだって、ふと思った。
 花の大半が雨風で散った、葉桜の目立つ入学初日。
 そうして、わたしは江崎くんと再会した。
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